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 前回のシリーズに引き続き、今日も、連載コラムで、足立区シティプロモーション課舟橋左斗子さんのコラムをご紹介させていただきたいと思います。

 

 ご興味のある方は是非都政新報の購読をしてあげていただきたいと思います。多分日本全国の地方公務員の方々には、「道しるべ」的役割を果たしてくれるものだと思います。全国の地方公共団体の政策等を扱う専門誌もありますが、それらとは全く異質のもので、記事の中にたくさんのヒントが散りばめられていると思います。

 

 

 されどチラシ②

 足立区シティプロモーション課 舟橋左斗子

 チラシ作成は翻訳作業

 夏休みに子どもたち向けのイベントを開催したいと、最初に担当者が持ってきたチラシ案には「来て、見て、体験しよう。伊興遺跡」という呼びかけコピーと、壺の写真が2枚掲載されていた。あとは小さな文字で詳しい説明。

 

 長谷川

 コピーや文章の作成能力ってすごいんですよね。公務員って。基本勉強ができるから。

 

 担当者は「足立区の伊興遺跡は、古墳時代の壺が出土していてとても希少です!」と力説する。希少な壺のことを「伝えたい」気持ちは分かる。しかし、来てほしい小学生が、壺の写真を見て来てくれるとは思えなかった。

 

 長谷川

 まさに、よくあるパターンでしょう。私も伝えたい気持ちは良くわかります。

 

 どういうイベントなのかを詳しく聞いてみると、「火おこし体験」や「古代クイズ」もあるという。また、参加者にはもれなく記念品をプレゼントするし、「自由研究にもぴったりなんです!」と担当者。チラシ案を見た印象よりずっと楽しそうだし、学びも多そうだ。

 

 何を掲載すれば子どもたちが「行きたい」と思ってくれるのか。担当者とあれこれ相談すると、何といっても火おこし体験が人気だと言う。そこで、作り変えたチラシのまん中には大きくど~んと火おこしをしている子どものイラストを載せた。

 

 長谷川

 ズバリ!!。私ボーイスカウト活動をしていましたが、火起こしは全員が全員興味を持つ話です。そういう、部分の掘り起こしというか、マーケティングの意識が少ないのがこれまた公務員。

 

 イラストは担当者の隣の席の職員が描いてくれた。プロのようにうまいわけじゃないけど、いきいきとした線でむしろ楽しそうだ。うん、十分伝わる。そしてイラストの周りに「火おこし体験」「古代クイズ」「プレゼント」「自由研究」などの言葉を説明文ではなく、大きめの太文字で散りばめた。その後も改良を重ね、伊興遺跡の夏休みイベントは、今では夏休みの人気イベントとして定着している。

 

 まじめな担当者ほど、自分が担当する施設や事業に詳しいし、伝えたい気持ちも強い。その伝えたい思いがいっぱいの紙面を作ってしまいがちなのが「自治体あるある」だ。でも担当者が「伝えたいこと」(今回の例では壺)は、届けたい相手(今回の例では子ども)の興味、「知りたいこと」とかけ離れている場合がほとんど。

 

 さらに、伝えたい気持ちが強いほど、ついつい詳しく長い説明文を書き込んでしまったり、写真をたくさん掲載してしまったりするのも「自治体あるある」。チラシはできるだけ読ませず、見て分かるほうがいい。世に大量にあふれるチラシの中で、長い説明文や数が多い小さい写真はむしろ邪魔になる。

 

 チラシはもちろん、どんな広報物でも、常に「伝えたいこと」と「知りたいこと」は違う、という原点に立ち返りながら制作にあたりたい。「伝えたいこと」を「知りたいこと」に翻訳するのが広報物の役割である。

 

 長谷川

 まさにその通り。

 

 ふなはし・さとこ

 広告代理店勤務、フリーライターを経て、2010年、足立区が東京23区初のシティプロモーション課創設時、経験者公募に応募し、任期付き職員に。現在は会計年度任用職員として同課で広報改革に取り組み、21年「住民の心をつかむ自治体チラシ仰天!ビフォーアフター」(学陽書房)発刊に携わる。