立法分権のすすめ―地域の実情に即した課題解決へ 

 

 

 

 の新聞広告を見て、購入しました。ひょっとして、私の問題意識と合致する本かなと思い、さらには磯崎先生の本なので、時間のあるときに本屋さんへ行き購入しました。ちょっと前にブログに書いたとおりです。八重洲ブックセンターには在庫がなく、丸の内の丸善で購入した本です。

 

 地方公共団体の現場を経験したのちに、大学の先生をお務めですが、私は多くの先生のご持論に賛同する者の一人です。

 

 なので、「まえがき」を少々長い引用で恐縮ですがぜひ地方公務員の皆様方にオススメしたい書籍ですので書店で手にとっていただきたいものです。

 

 まえがき

 日本が分権型社会の実現をめざして地方分権推進法(1995年)を制定し、この法律に基づいて第1次分権改革(2000年施行)が実行されてから20年の時間が流れた。

 

 第1次分権改革は、機関委任事務制度など戦後の地方自治が抱えていた障害を取り外し、自治の土台をつくったが、その後の財政面に関する「三位一体改革」は地方財政のひっ迫を招いた。地方分権改革推進法に基づく第2期分権改革(2006年~現在)では、都道府県から市町村への権限移譲は進んだものの、義務付け・枠付けの見直しは、法令の細部に関する条例委任にとどまり、自治体の実質的な決定権の拡大につながっていない。

 

 めざした目標を100点満点だとすれば、現時点の到達点は40点くらいであろうか。その成果はきちんと評価すべきだが、当初の目標からみると半分も達成していないというのが私の印象である。

 

 残りの60点は何が足りないのか。

 

 国の法制度を執行する権限(行政権)は自治体の権限とされ拡充が進んだが、法制度をつくる権限(立法権)はいまも国がほぼ独占しており、自治体にはほとんど与えられていない。いわば「行政分権」にとどまっているのである。法令が「過剰・過密」であるために、自治体が条例で補足・補充する余地が残されておらず、解釈運用の範囲も限定される。独自条例を制定しようと思っても、法令との衝突が生じる。しかも第1次分権改革以降、むしろ法制度の「過剰・過密」化が進んでいる。今後は、国の法令を統合・簡素化して、法定事務の詳細を定める条例や独自条例の余地を拡大し、自治体が責任をもって地域づくり・暮らしづくりを進めるしくみに変える。これが「立法分権」の提案である。

 

 立法分権といっても、国の立法権の意義を否定するものではない。国が、国際的または全国的な見地から法制度の枠組みや基本的事項をしっかりと定める、そして詳細部分は自治体が地域の実情に合わせて条例等で具体的事項を定める。「法令と条例のベストミックス」を提案しているのである。

 

 もともと第1次分権改革は、地方自治法という一般法に地方自治の原則規定と関与のルール等を定めることが中心であり、その後、実務をコントロールする個別法をこの原則に基づいて順次改正する必要があった。その役割を担った第2期分権改革では、法令の義務付け・枠付けの見直しに取り組んだが、各法令の重要でない事項を条例に委任する個別的な見直しにとどまっているし、細かな法令いじりに陥って、地方分権に対する国民・メディアの関心は失われた。明治維新、戦後改革に次ぐ「第3の改革」の柱とされた地方分権改革は、いま風前の灯となっている。

 

 分権型社会をつくるうえで立法分権は「必要な」改革であるが、さらに本格的な人口減少時代に突入し、「なくてはならない」改革になっている。今後、多くの自治体で人口も税収も減少し、自治体職員の数も削減せざるを得ない。このように限られた人材と財源で過剰過密化する法令を担い切れるのだろうか。全国の自治体で法令の重みに耐えられず、法令の放置・誤用がまん延するのではないか。「スマート自治体」(自治体戦略2040構想研究会第2次報告、2018年参照)を実現するためにも、まず法令のスリム化を実現するとともに、各自治体が地域のサイズ感に合った法制度にカスタマイズできるようにすべきだ。

 

 1990年代の自治体職員時代から地方分権の進展に期待し、その必要性や改革の方向性についてささやかながら小論の発表等を通じて発言してきた者として、この状況を何とかしなければ、という思いでこの本を執筆した。

 

 

 本書は、月刊「ガバナンス」誌上に連載した「『立法分権』の戦略」(2018年4月号~2020年3月号、計4回)をベースとしつつ、編集部の助言もあって、地方分権改革の経過について第1章を、条例制定権の限界について第2章4を、条例づくりの取り組み方について第6章を追加するなど、大幅に加筆した。といっても、これらのテーマに関してはいくつかの拙稿を著してきたため、それらを踏まえて書き下ろしたものである。さらに2020年から世界を覆っている新型コロナウイルス感染症との闘いでは、国と自治体の役割分担や特措法の法的問題点が大きな議論になっており、ここでも立法分権の必要性が示されていると考えるため、第7章を追加した。既発表の拙稿との関係は、「初出一覧」を確認いただきたい。

 

 本書が、地方分権の進展について「もやもや感」を持つ読者に参考にしていただくとともに、「立法分権」に関する論議に少しでもつながれば、望外の幸せである。

 

 このささやかな本の執筆も、多くの方との出会いと研究上の導きがなければ、かなわなかった。

 

 大学院時代の指導教授である西尾勝先生(東京大学名誉教授)は、日本の地方分権改革をリードされてきたが、『地方分権改革』をはじめとするご著書も本書にとって導きの星となった。当面は分権改革の要求を控えるべきだとする先生のご指摘(分権改革休止論)に反して、「いまこそ立法分権を」と主張することは浅学非才のゆえであるが、この間の学恩に御礼申し上げるとともに、先生が情熱を傾けられた分権改革の精神が次代に引き継がれるよう、私なりの努力を続けたいと思う。

 

 同じく大学院時代にゼミでご指導いただき、分権改革にも大きく貢献された大森彌先生(東京大学名誉教授)と小早川光郎先生(成蹊大学教授)にも、心から感謝の意を表したい。大森先生からは地域と自治体職員を励ます姿勢を学ぶとともに、自治体学会等でお会いすると「先日の原稿はよかったよ」等と励ましていただいている。小早川先生が主導された第2期分権改革の義務付け・枠付けの見直しは、本書に大きな影響を与えているし、内閣府の有識者会議や全国知事会の地方分権改革の推進に向けた研究会では本書の執筆につながる学びの機会をいただいた。この全国知事会の研究会では、条例の上書き権の制度化を報告書に盛り込むよう繰り返し発言し、座長である先生をあきれさせたと思うが、これに懲りずご指導いただくことを願っている。

 

 さまざまな研究会等で親しくご指導いただいている北村喜宣先生(上智大学教授)は、本書のテーマに関して最も多くの論考を公にされている先駆者である。そのご著作の中でしばしば拙稿を引用いただいているのは私への叱咤激励だと感じており、行政学専攻の私がいまでも地方分権や条例制定権に関する小論を書いているのは、先生の影響が大きいと思う。先日、先生の「ベクトル説」をきちんと取り上げていないとのお叱りをいただいたが、そのスケールの大きさゆえのことであり、今回少し言及させていただいたものの、的外れだとまたお叱りを受けそうな気がしている。ともあれこれまでのご指導に心から感謝したい。

 

 本書の内容は、「ガバナンス」の連載がなければまとめることができなかった。連載の機会をいただくとともに、毎回ご助言と励ましをいただいた編集長の千葉茂明氏に心から感謝したい。

 

 また本書の刊行にあたっては、(株)ぎょうせいに格別のご配慮とご尽力をいただいた。入稿が大幅に遅くなり大変ご迷惑をおかけしたが、適切な催促と助言によって執筆作業を助けていただき、第7章の追加などにも柔軟に対応していただいた。心から感謝申し上げる。

 

 2021年3月8日新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言再延長の日に

 

礒崎初仁