「『地方創生』をめぐる地方自治の疲弊に関する問題提起」とタイトルにある講演を聞きに言ってまいりました。(公益財団法人)地方自治総合研究所客員研究員坂本誠先生のお話です。

 

 その中で、かなり興味を持ったものがありましたので、レジュメを見ながら考えてみたいと思います。

 

 なるほど、そういう見方をするべきでもあるんだなと妙に納得しました。

 

 以下がレジュメの抜粋です。

 

2.疲弊する市町村                     

1)市町村への負担増

◎行財政改革の要求

◎再集権化~権限や財源は集権化、事務や責任は移譲

 

▼事務の押し付け

・政府の“手足”となる市町村

・2015年は総合戦略策定に加え、プレミアム商品券やマイナンバー導入に伴う事務で市町村は忙殺

 

▼責任の押し付け

・計画を策定させることで、自治体に責任を分担させる(転嫁する)

・地方創生では、自治体を人口減少対策の主体として位置づけ(祀り上げ)て総合戦略策定の要求(しかも政府の意向をふまえた計画策定を求める)

 

 

まち・ひと・しごと創生法→国が閣議決定により「国総合戦略」を定め(第8条)、それを「勘案」して都道府県が「都道府県総合戦略」を策定(第9条)、さらに市町村は国と都道府県の総合戦略を「勘案」して「市町村総合戦略」を策定(第10条)

 

▼一方で、権限や財源は移さない

・地方創生関連の交付金(加速化交付金・地方創生推進交付金など)の配分を決定するのは政府。「地方公共団体の自主的・主体的で先導的な事業」「従来の『縦割り』事業を超えた取組」と政府が認めた事業に割り当て

 

▼そもそも人口減少対策は誰が担うべきか?(参考:人口減少問題の構造的理解について)

  自治体に人口減少対策の主体としての役割を負わせる

  2040年までに日本全国で若年女性は4割減

  →若年女性が5割6割減少しているといっても、4割分は全国的な少子化の影響

  →各自治体の努力ではいかんともしがたい部分

  →縮小するパイを奪い合う地方自治体(マイナス・サムゲーム)

 

2)主体性なきアウトソーシングとそれに伴う空洞化

 

▼主体性なきアウトソーシング→地方自治の空洞化

・相次ぐ計画策定要求への対応→コンサルタントなどへの委託(アウトソーシング)

・地方創生総合戦略においても、市町村の4分の3以上が委託(上述アンケート調査より)

・委託(アウトソーシング)そのものが悪いわけではないが、そこに自治の担い手としての主体性が伴っていたかが問われる。主体性なきアウトソーシング→地方自治の空洞化

・(上述のアンケートより)委託をしなかった市町村の方が「策定時間が確保できた」「役所内での議論ができた」と回答する傾向。策定内容に対する満足度も、委託をした市町村と比べて高い。

 

▼「ハードからソフトヘ」の罠

・建設事業=地元にも受け皿かある→地元の建設業者や周辺業種にも資金還流

・ソフト事業=業者が都市に集中し、地元に受け皿がない(IT、出版、コンサルタント…)ため、資金が外部に流出

  例)地方創生総合戦略の策定(各自治体が戦略策定に充てた費用の多くが東京に還流)

  例)京都新聞記事→地方創生交付金3割超流出 滋賀県支出、県外に(下記)

 

地方創生交付金3割超流出 滋賀県支出、県外に(京都新聞2017年9月2日)         

 滋賀県が、国の「地方創生加速化交付金」を受けて2016年度に実施した事業で、事業費総額の3分の1以上が県外の企業や団体に支出されていた。発言力やノウハウの不足で、都市部の力に頼らざるを得ない実情が浮かぶ一方、県内への経済効果が損なわれることや、継続的な取り組みにつながらない懸念も指摘されている。

 おしゃれなダイニングカフェに、高級そうなビストロー。滋賀県が今年3月に開設したホームページ「滋賀区」には、東京都内にある滋賀ゆかりの29店舗などが紹介されていた。「首都圏住民が滋賀に興味を持つきっかけづくりに」と、加速化交付金を活用。県は店舗情報の収集に780万円、サイト制作に180万円を充て、PRイベントなどを含め計3400万円を委託先の電通(本社・東京都)に支払った。

  地方剤生関連の交付金は、当初「地方へのばらまき」との批判もあった。だが、県が昨年度に加速化交付金で業施した全12事業の総事業費6億8600万円のうち、確認できただけで2億3400万円を県外の企業などへ支出していた。そのうち1億4500万円は東京都内の企業だ。

 都内の企業が受託した主な事業は、別の観光推進事業で電通が4400万円▽成長産業の発掘・育成事業でコンサル企業に1500万円▽高齢者が移住して暮らしやすいまちづくりの調査や費料作成でシンクタンクに1千万円▽高度人材の獲得イベント開催で転職支援企業に660万円–など。「東京一極集中の打破」が地方創生とセットで語られる中、少なからぬ交付金が地方を素通りして東京へ環流していたことになる。

 県幹部は「当初から、できるだけ滋賀県にお金が回るように指示をしていた」と説明する。だが、提案型入札をすると、企画力などで大都市圏の企業が評価で勝ることが多かった。また、滋賀のブランド向上には首都圏で存在感を高める必要があるイベントや広告出稿は現地の企業に依頼する方が合理的だった。県内の業者を下請けにするケースもあったが、「やむを得ない面もあった」のが実情だという。

 ただ、県議会からは疑問の声もある。本沢成人県議は「安易に大手に頼り過ぎている」と指摘。「県民全体で一斉にSNSで発信するなどコストをかけずに同等の効果が得られる代替案はいくらでもある」とし、「自立というなら、もっと地方がクリエーティブにならなければ」と発想の転換を促す。

 目片言悟県議は「全部は無理でも、県内の企業が組めばできることもある。県内にノウハウが蓄積しなければ継続した活性化にはつながらない」と指摘。「地方創生で本当に必要なのは、地方が助け合って自立していくことなのではないのか」と首都圏頼みの姿勢に疑問を呈した。

 今回の地方創生は、地方にも努力を求めたのが特色だ。地方の独力にこだわる必要はないが、行政だけの努力ではなく、県民が知恵や資源を結集できる社組みも求められているのでないか。

 

3)解決に向けて

 

▼地方分権改革の見直し(まき直し)

.「権限」「財源」「人間」の「三ゲン」が地方分権の三要素と言われて久しいが、移されたのは「事務」と「責任」だけ。「権限」は移されず、「財源」は切り詰められ、「人間」は減少し痩せ細る

・国と地方自治体が対等な立場で、従来の地方分権改革の検証と今後の対応方針を議論できないか

  (国と地方の協議の場の実質化)

 

▼都道府県の役割について再検討

・地方創生における都道府県の対応は検証される必要(政府のメッセンジャーに徹したケース、人員の手当を含めて市町村の計画策定作業を支援したケース、市町村計画の内容に積極的に介入したケースなど)(cf.道州制)