前回の続きです。一事不再議の原則についてです。

 

 改訂版 地方議会実務講座 第3巻 P34~からです。

 

 

 

 

(四) 対案関係と一事不再議

 一事不再議の原則は同一形式、同一内容の複数の案件が審議されている時に適用されるのが典型的な例であるが、実際にはこのような事例は少ない。むしろ例えば長提出条例案に対抗して議員が内容の異なる条例案を対案として提出、審議する時に一事不再議の原則が適用されるかどうかが問題になる。この場合、長提出議案と議員提出議案の内容は対立点ばかりではなく、対立している部分と一致している部分がある。このような関係を対案関係と呼んでいる。採決で両方を可決することはあり得ない。一方を可決すれば他方を採決する必要はないので、一事不再議の原則を適用した運営となる。

 1 同一目的で内容の異なる条例改正案が二つ提出されている時(例えばA案は保育料を月額5,000円から6,000円に、B案は月額5,000円から7,000円に引き上げる)は、A案を可決すれば議会意思が特定されるのでB案は議決不要となる。

 2 保育料引上げ条例案と保育料引下げ条例案が提出され審議している時、両案は内容が異なる。この場合、先決した方が可決になれば議会意思が特定されるので、他方は議決不要となる。先決した方が否決の時は、議会意思が特定されないので、次に他方を採決する。

 (五) 形式の異なる案件と一時不再議

 一事の認定は困難である。抽象的には案件の目的、形式、理由等を総合的に判断するといわれている。議会の現場で問題となるのは、形式は違っても内容が同じである場合の取扱いである。一事は、例えば条例案と条例案、意見書案と意見書案、請願と請願の間で生ずるものといわれるが、実際は同一内容の条例案と意見書案、意見書案と請願、決議案と請願の間で一事不再議の原則の適用が問題となる。両者の形式が異なるので一事にならないはずであるが、地方議会の現場では一事であるか否かを問題にする。例えば次のような事例がある。

 1 給与関係条例と補正予算…給与改定のための条例改正案と、それのみの補正予算案が提出された場合、両者は形式を異にするので一事不再議の原則は適用されない。しかし給与関係条例案を否決した場合、補正予算を議決不要にしている。

 2 消費税率の引上げ反対の意見書案と消費税率引上げ反対の請願…両者は形式を異にしているので一事不再議の原則は適用されない。このため意見書案を可決(否決)しても請願を採決できるが、内容が同一であるため請願を議決不要、みなし採択(不採択)としている。また委員会が請願を継続審査としているにもかかわらず、本会議で意見書案が可決された場合、継続審査の申出があるにもかかわらず、議長は議決不要、みなし採択と宣告する。

 3 議員辞職勧告決議案と議員の辞職を求める請願…2と同じ扱い。

 以上述べた1~3の取扱いは、案件の形式だけでなく内容を重視して議事運営をするためである。一事不再議の原則との関連でいえば、形式を異にしても、この原則の適用があるものとの認識で対処している。この結果、次のような見解がある。

 (1) 同一内容の異なる種類の案件は、政治的に最も軽いと思われる案件から始めて重いと思われる案件を順次に、具体的には陳情、請願、決議案、意見書案、予算案、条例案の順序に採決すれば一事不再議の原則に抵触しない。逆に条例案を最初に採決して可決すれば、他の案件は議決できなくなり議決不要となる(西沢哲四郎「地方議会の運営Ⅲ」)。この見解は、形式が異なる案件で一事不再議の原則が適用になると明快である。ただ形式に重要度の高低をどのような基準で位置づけているかが不明である。

 (2) 議会の意思は同一会期中は一つであって二つなしとの考え方から、形式を問わず内容が議決された事件に反する時は一事不再議の原則に抵触すると考えるべきである(今藤正行編著「逐条会議規則提義」)。これは実態に即した見解であり、これによっても支障を生じない。