前回の続きです。一事不再議の原則についてです。

 

改訂版 地方議会実務講座 第3巻 P31~からです。

 

 

 

 (二) 一事不再議の要件

 一事不再議の原則の要件について述べると次のとおりである。

 1 特定の案件について議会が議決(可決、修正議決、否決)した場合、それと同一の案件について再び審議できない。議会の議決があって初めて一事不再議が問題となる。議決がない間は同一内容の複数の案件を審議していても一事不再議にならない。一つの案件について議決があると、同一内容の案件については議決を要しなくなる。また議決された案件と類似の案件を一事と判明せず審議していたが、同一であると分かった時は、それ以降の審議はできない。

 2 一事不再議の原則は同一会期で適用される。一つの会期における議会の意思は事情変更のない限り一つであるから、一事不再議の原則は同一会期で適用される。したがって会期を異にすれば適用されない。前の会期で議決された案件と同一の案件を次の会期で取り上げることができる。

 3 一事不再議の原則は審議の段階を異にする場合は適用されない。本会議、委員会、小委員会の各段階において適用されるものであるから、段階を異にすると適用されない。

 4 一事不再議の原則は同一形式の案件の間で適用される。例えば条例案と条例案、意見書案と意見書案で一事が問題になる。これは建前であって実際の運営では形式を異にしても適用している。

 5 案件を撤回したあと同一内容の案件を再提出しても一事不再議の原則に抵触しない。一事不再議は案件の内容についての意思決定があることを前提とするのに対し、撤回の許可は意思決定ではなく議事手続上の問題であり一事不再議の原則は適用されない(行実昭和三四年二月一〇日)。

 (三) 一事の判断

 一事不再議で問題となるのは「一事」の概念である。一事については案件の件名だけでなく、その内容を検討して判断する必要があり、その基準は次のとおりである。

 1 可決、修正議決又は否決された案件と形式、内容が同一である時は一事である。例えば否決された条例案と同一内容の条例案を名称を変更しただけで提出することは一事に該当する。

 2 同一形式、同一内容の案件を同時に提案する時は理由を異にしても一事である。ただしその後の状況の変化で新たな理由により提出する時は一事に該当しない。例えば議長不信任決議案を可決したあと同一会期に議長辞職勧告決議案を提出することは「提案趣旨が明らかに異る揚合の外は…提出できない」との行政実例がある(昭和33年3月26日)。これは名称の相違によって判断すべきでなく内容によって、一事か否かを判斯すべきであり、その意昧で議長不信任決議案と議長辞職勧告決議案は同じ内容と解するものであろう。しかし議長不信任決議案を否決したあとに生じた理由により、議長辞職勧告決議案を提出するのは、事情変更の原則が働くので、一事ではなく提出が認められる。

 3 否決された条例案と他の条例案の内容が、一部異なっていても、基本的な部分で同一であれば一事に該当する。

 4 否決された条例案の一部を別の条例案として提出することは、議会意思が否決に確定していること、前の条例案の審議で修正の機会があったことから一事に該当する。

 5 同じ名称の案件であっても内容が異なっていれば一事ではない。例えば①副市町村長選任同意案でAをあげていたが否決された場合、同一会期でBを副市町村長に選任同意を求める議案を提出することは一事でない。②第二条を改正するA条例改正案が否決された場合、改正目的を異にするならば第五条を改正するA条例改正案を提出することは一事でない。③契約議案が否決されたので、内容を一部変更して再び契約議案を提出することは、新たな契約内容となっているので一事ではない。④会期案を否決したあと、別の会期案を諮ることは一事に該当しない。会期自体を否決することはあり得ず、その日数を否決しただけであるから異なる日数を諮ることができる。

 6 議員の法定数36人を30人に減少している市で、定数を26人とする減少条例案が否決された場合、同一会期で議員定数減少条例案を審議することは、26人案を否決した理由が現状維持を是とする意思である時、直接請求や事情変更がある場合を除き、一事不再議の原則に反する(行実昭和34年12月16日)。理論としては理解できるが、否決の理由を特定することが容易でない。

 7 事実上の案件を議決したあと、同一又は類似の内容を法的な案件として提出しても一事にならない。例えば議長辞職勧告決議案を可決したあと、議長が辞職願を提出した場合、辞職願は一事とならない。また長に対し反省を求める決議案を可決したあと、長不信任決議案を提出できる。

 8 長不信任決議案と長辞職勧告決議案の関係については、同一趣旨とする見解と、異なるとの見解がある。地方自治法第178条に定める特別多数議決で可決された場合、長の議会解散権行使につながる問題であるので、実際の取扱いとしては同一趣旨(一事)との見解で対応することが適当である。

 9 一事不再議の原則は動議にも適用される。例えば休憩の動議を否決した直後に休憩の動議を提出するのは一事不再議の原則が適用されるが、一定時間経過後であれば一事にならないので提出できる。

 10 可決された条例の公布後、同一会期に同一事項について異なる内容の条例改正案を提出することがある。例えば保育料月額5,000円を6,000円に引き上げる条例改正案を可決、公布後、同一会期で更に月額7,000円に引き上げる改正案を提出する。これについては、6,000円に引き上げる改正は既に議会意思が確定しているので一事に該当するとの説と、改正条例を公布した後に改正を加えることは別個の意思であるから一事に該当しないとの説に分かれている。同一会期に前後して二つの改正案を提出することは、事情変更があったからと解し一事に該当しないものと解される。ただし会期の短い地方議会では、この種の事例は少ないであろう。