http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0419speech.html

素晴らしかったです。とりあえず原文のコピーです。
また日を改めてコメントを入れさせていただきます。

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1.はじめに  213年前の今日、閏4月19日、一人の男が、江戸を旅立ちました。日本最初の実測地図作成で、多くの方もご存じの伊能忠敬です。今日は、彼が、最初の地図を作るため北海道に向け出発した、記念すべき日であります。
 齢、55歳。すでに隠居していた伊能忠敬は、「人生50年」と言われた時代に、むしろ50歳から天文学を学び、測量を始めました。
 17年かけて、歩いた距離は4万km。地球1周と同じ。まさに執念の測量でした。そうして完成した地図は、その正確さに幕末にやってきた欧米人の人々も驚いたほどであった、と言います。
 いかに困難と思える課題でも、あきらめない強い「意志」があれば、必ず乗り越えることができる。「行動」を起こすのに、「遅すぎる」ということはありません。伊能忠敬の偉業は、現代の私たちを勇気づけてくれます。

(政権発足からほぼ4か月)
 遅れる復興、長引くデフレ、危機的な状況にある教育、傷ついた日本外交、主権への相次ぐ挑発。
 山積する国家的な危機に、政権発足からほぼ4か月経った今も、日々格闘しています。しかし、政治に「これだけやれば解決する」というような近道はありません。
 伊能忠敬が、一歩一歩、歩きながら地図を作っていったように、一つひとつ、決断と実行を積み重ねていく他に、結果を出す道はありません。
 遅れる復興には、復興庁が前面に出て、現場と直結する体制をつくりました。私自身、毎月、根本大臣と被災地に足を運び、現場の声を聞き、復興の妨げとなっている手続きを見直すなど、地味ですが、一つひとつ答えを出してきました。
 2月にアメリカを訪問し、オバマ大統領との会談により、緊密な日米同盟の完全な復活を内外に発信することができました。その結果をふまえて、TPPへの交渉参加を決定しました。これからが、日本の外交力勝負です。
 基本的な価値を共有する東南アジア3か国を皮切りに、先月はモンゴルを訪問いたしました。東アジアの今後の安定を築く上で、極めて有意義な訪問でした。世界地図を俯瞰するような視点で、戦略的な安全保障外交を展開していこうと考えています。
 他方で、北朝鮮が、挑発的な言動を繰り返すなど、日本を取り巻く安全保障環境は、依然厳しい状況にあります。
 私は、何としても、国民の生命と安全を守り抜く。その覚悟です。
 そもそも、挑発的な行動は北朝鮮にとって何の利益にもならない、むしろ状況はますます厳しくなる、ということを認識させねばなりません。
 そのためにも、国連が決議した制裁を各国が確実に実施するとともに、日本は、米国や韓国、中国、ロシアと連携しながら、挑発を繰り返すことのないよう、国際社会の一致したメッセージを出していきます。
 経済の立て直しに向けては、「三本の矢」を力強く射込んできました。
 「次元の違う」政策が必要、との認識のもと、従来の政策枠組みを大胆に見直す共同声明を、日本銀行との間にとりまとめました。2%の物価安定目標の実現に向けて取り組むことを明確にしました。黒田総裁らを新たに任命し、そのもとで、大胆な金融政策が果断に実行されています。
 補正予算も成立し、機動的な財政政策も、いまや実行の段階に入っています。
 その果実を一刻も早く国民に行き渡らせるため、私自身、「可能な限り報酬の引上げを行ってほしい」と産業界に直接要請を行いました。税制でも、利益を従業員に還元する企業を応援しております。
 今年の春闘では、ボーナスの満額回答など、従業員の報酬引上げを決めた企業が相次ぎました。
 4か月前と比べて、どうでしょうか。世の中の雰囲気は、明るくなってきたのではないでしょうか。
 街角景気のウォッチャー調査では、景況感が過去最高となりました。中小企業の景況感も、21世紀で最高の水準となる見込みです。
 しかし、ここで満足するわけにはいきません。この明るい兆しを、さらに力強く、持続的なものとしなければなりません。
 いよいよ「三本目の矢」である「成長戦略」の出番です。今日は、この場をお借りして、その一端をお話させていただきます。


2.成長戦略の3つのキーワード
 まず、私の成長戦略の全体像を語りたいと思います。そのキーワードは3つです。「挑戦:チャレンジ」、「海外展開:オープン」、そして、「創造:イノベーション」です。

(挑戦:チャレンジ)
 人材、資金、土地など、あらゆる資源について、その眠っている「可能性」を、存分に発揮させる。そして、生産性の低い分野から、生産性の高い分野へ、資源をシフトさせていくこと。「成長」とは、それを実現していくことに他なりません。
 いったん資源が配分されると、既存の産業で固定されがちです。これを動かすことは、並大抵のことではありません。まさに、「チャレンジ」であると言えましょう。
 一本目の矢によって、「資金」を潤沢に市場に流し込みます。二本目の矢は、その「資金」を、成長分野にふりむけるためのトリガーです。官民ファンドは、リスクマネーを市場に供給することで、成長産業への投資を生み出そうとするものです。
 成長戦略の先駆けとして、市場に存在していた「資金の目詰まり」を取り除きつつあります。ようやく民間投資も動き始めています。企業の設備投資意欲は、昨年末から急回復しています。
 「人材」資源も、活性化させねばなりません。
 優秀な人材には、どんどん活躍してもらう社会をつくる。そのことが、社会全体の生産性を押し上げます。
 現在、最も活かしきれていない人材とは何か。それは、「女性」です。
 女性の活躍は、しばしば、社会政策の文脈で語られがちです。しかし、私は、違います。「成長戦略」の中核をなすものであると考えています。
 女性の中に眠る高い能力を、十二分に開花させていただくことが、閉塞感の漂う日本を、再び成長軌道に乗せる原動力だ、と確信しています。
 具体策については、後ほど詳しくお話しさせていただきます。
 日本の未来を担うこととなる、若者には、まず、その能力をどんどん伸ばしてもらわねばなりません。
 これも、具体策は、後ほどお話しますが、「国際人材」でなければ、国際的な大競争時代を乗り切れない。そう考えています。

(海外展開:オープン)
 私たちは、国際的な大競争から逃れることはできません。であれば、むしろ打って出るしかない。それが、成長戦略の二つ目のキーワードである「海外展開:オープン」です。
 今や、ものづくり製造業だけではありません。食文化も、医療システムも、教育制度も、交通・エネルギーインフラも、すべてが、世界で売り買いされる時代です。
 そのためには、従来のモノの貿易ルールを超えて、知的財産や投資、標準といった新たな分野のルールを創っていく必要があります。
だからこそ、アジア・太平洋、欧州などとの経済連携交渉を、積極的に進めていきます。
 TPPが目指す経済秩序は、アジア・太平洋全体の新たなルールづくりのたたき台になることは間違いありません。その中心に、日本が存在するために、私は、交渉参加をすみやかに決断しました。
 インフラや制度に関わるビジネスは、多くの国で、政府のコントロールのもとにあります。何と言っても、首脳外交が「ものを言う」世界です。
 いよいよ、経済外交をスタートします。
 近く、ロシアと中東を訪問し、食文化、エネルギー、医療システムなど幅広い分野で、トップセールスで、海外展開の動きを本格化させます。
 特に、医療の分野では、日本は、年間2兆円の貿易赤字となっています。それも、この5年間で8000億円増えています。国内の医療ニーズはどんどん高まることが予想されており、逆に、打って出なければ赤字はさらに拡大していくこととなりかねません。
 日本にも、強い分野はあります。例えば、CT・MRIを使った画像診断においては、日本は世界最先端を走っています。ガン治療に用いられる粒子線でも、世界トップレベルの技術を持っています。
 新興諸国では、生活水準が上がるにつれて、感染症から、ガンや脳卒中などの生活習慣病へと、疾病傾向が変化しています。日本の高い技術の出番です。
 ロシアでは、5月からウラジオストクに、「日本式画像診断センター」が開所します。さらに、今回のロシア訪問を機に、粒子線治療施設を建設するため、日露で協力する動きも進んでいます。
 中東でも、アラブ首長国連邦のアブダビに、世界最先端の粒子線治療を行うことができる「日本UAE先端医療センター」構想を推進することについて、次の中東訪問の際に、合意したいと思います。
 そのためには、日本の高度な医療技術を、世界に展開する母体が必要です。来週、政府が音頭をとって、20を超える医療機器メーカーと50を超える医療機関が連携して、新たな体制を創ります。この「メディカル・エクセレンス・ジャパン」のもと、国際医療協力を新たな成長の種としていきます。

(創造:イノベーション)
 日本の医療産業が、高い競争力を持つためには、次々と「イノベーション」を起こしていく他に道はありません。
 「市場と技術の大きな出会い」とも呼ぶべき、革新的な「価値」を創造する「イノベーション」は、官民が一体となって協力しなければ、生まれません。
 世の中のニーズに応える「あるべき社会像」を、国が明確に示した上で、その実現のために、政府も民間も投資を集中させることにより、新たな成長産業を生み出すアプローチです。特定の産業を、国がターゲットするのではありません。
 何も新しいことではありません。過去にもやってきたことです。例えば、「東海道新幹線の建設」。
 「超特急列車、東京―大阪間3時間への可能性」。
 この議論が初めて世に出た昭和32年、東京・大阪間は、特急列車でも、7時間かかっていました。それを半分以下に短縮するのは、誰もが「夢見る世界」でありました。
 技術的には困難だらけの挑戦。しかし、「3時間で結ぶ」という目標に政府がコミットしたことで、空気抵抗を少なくする流線型車体、振動を除去する油圧式バネなど、様々な「イノベーション」が生まれました。
 東京オリンピック前の開業を目指し、車両製造など膨大な量の「需要」が生まれ、そこから、多くのすそ野「産業」が生まれました。
 さらに、「より速く」という世界共通の夢の実現は、「日本の新幹線」を「世界の新幹線」へと押し上げ、「鉄道」は輸出産業になりました。
 誰もが夢見る「あるべき社会像」を見定め、その実現に向けてあきらめないことが、新たな需要と産業を生み出します。そして、その目指す社会像が世界も求めるものなら、その技術は必ずや世界に輸出できます。
 今後策定する成長戦略では、健康長寿、エネルギー、インフラ、地域活性化といった分野で、それぞれ「あるべき社会像」を提示し、その実現に向けてどういう政策が必要かを検討してまいります。


3.「健康長寿社会」から創造される成長産業
 今日は、その中でも、代表例である「健康長寿社会」に向けた戦略を、ご紹介したいと思います。
 従来の医療は、「疾病治療」が中心でした。病気になった後に治療する、というやり方です。そのおかげで、日本は、世界に冠たる「平均寿命」の長い国となりました。
 しかし、「健康寿命」は、平均寿命より6歳から8歳低いとも言われています。本来の寿命が来るまでに、病気で苦しんだり寝たきりになる期間があります。
 私が目指すのは、同じ長寿でも、病気の予防などに力を入れることで、「健康」な体の維持を重視する社会です。
 「健康」は、誰もが求める、世界共通のテーマです。「健康長寿社会」が構築できれば、必ずや日本から世界にも広がると信じています。

(規制・制度改革)
 その鍵の一つが、再生医療・創薬です。山中教授のノーベル賞受賞に象徴されるように、iPS細胞の利用など、この分野の「研究」で日本が世界一であることは間違いありません。
 この研究の強みを、さらに高めるために、私は、iPS細胞研究に対し、10年間1100億円程度の研究支援を行うこととしました。
 しかし、「実用化」では、日本は大きく出遅れています。治験中のものも含めた再生医療製品の承認状況を比較すると、米国97、欧州62、韓国45に対して、日本は6しかありません。
 再生医療の実用化・産業化を力強く進めるため、大胆に規制・制度を見直していきたいと思います。
 例えば、再生医療について、お医者さんが、患者さんの細胞を培養して移植する医療行為を行う場合、現行制度では、お医者さん自身が培養・加工を行わなければならず、外部に委託する仕組みがありません。
 先日、東京女子医大の研究施設を訪問しました。
 早稲田大学の理工学部との医工連携により、「細胞シート」技術を利用して、培養を大量に行う自動化機械の開発が進んでいます。こうした技術が確立すれば、移植するお医者さん自身が培養を行うよりも、民間に外部委託することで、より安全で、安価な再生医療が可能となります。
 現在、外部委託を可能とする新たな法案の準備を進めており、今国会に提出したいと考えています。
 心筋シートなどの再生医療製品をつくる場合には、薬事法に基づく承認を受ける必要があります。これについても、審査期間を大幅に短縮できるように、少数の患者による有効性の確認でも市販を可能とする薬事法改正案を、今国会に提出し、早期に実用化できる環境を整えます。
 この法案では、医療機器についても大胆な規制緩和を行います。心臓ペースメーカーなどを除いて、民間の第三者機関の認証も認めることで、審査のスピードアップを図ります。
 あわせて、医療機器の製造を請け負うメーカーを認可制から登録制に緩和することで、技術を持った「ものづくり中小・小規模企業」が、この分野に進出できるようにしたいと思います。

(日本版NIH)
 私は、潰瘍性大腸炎という難病で、前回、総理の職を辞することとなりました。
 5年前に、画期的な新薬ができて回復し、再び、総理大臣に就任することができました。しかし、この新薬は、日本では、承認が25年も遅れました。
 承認審査にかかる期間は、どんどん短くなってきています。むしろ、問題は、開発から申請までに時間がかかってしまうことです。国内の臨床データの収集や治験を進める体制が不十分であることが、その最も大きな理由です。
 どこかの大学病院で治験をやろうとしても、一か所だけでは病床数が少ないので、数が集まらない。別の病院の病床を活用しようとしても、データの取り方もバラバラで、横の連携がとりにくい。結果として、開発などに相当な時間を要してしまいます。
 再生医療のような未踏の技術開発は、成果につながらないリスクも高く、民間企業は二の足を踏みがちです。そのため、新たな分野へのチャレンジほど、進歩は遅れがちです。
 こうした課題に19世紀に直面した国がありました。アメリカです。
 19世紀後半、多くの移民が集まり、コレラの流行が懸念されました。民間に対応をゆだねる余裕もなく、国が主体となって研究所をつくってコレラ対策を進めました。ここから、時代を経て、「アメリカ国立衛生研究所/NIH」が生まれました。
 国家プロジェクトとして、自ら研究するだけでなく、民間も含めて国内外の臨床研究や治験のデータを統合・集約する。そして、薬でも、医療でも、機器でも、すべての技術を総動員して、ターゲットとなる病気への対策を一番の近道で研究しよう、という仕組みです。
 その結果、NIHは、心臓病を半世紀で60%減少するなど、国内の疾病対策に大きな成果をあげています。さらに、現在、ガンの研究所やアレルギーの研究所など、全部で27の研究機関・施設を抱え、2万人のスタッフを擁して、世界における医療の進歩をリードしています。
 日本でも、再生医療をはじめ、「健康長寿社会」に向けて、最先端の医療技術を開発していくためには、アメリカのNIHのような国家プロジェクトを推進する仕組みが必要です。いわば「日本版NIH」とも呼ぶべき体制をつくりあげます。
 統一的な基盤をつくって国内外の臨床研究や治験について、データを統合し、製薬メーカー、機器メーカー、病院が一体となって取り組みます。
 官民一体となって、研究から実用化までを一気通貫でつなぐことで、再生医療・創薬など最新の医療技術の新たな地平を、私が先頭に立って切り開いてまいります。

(難病対策)
 先日、一人の女の子から手紙をもらいました。
 今年小学校を卒業したその女の子は、生まれつき小腸が機能しない難病で、幼いころから普通の食事はしたことがなく、すでに8回も手術を受けています。
 iPS細胞の研究への期待を込めながら、手紙はこう結ばれていました。
 「治療法が見つかれば、とっても未来が明るいです。そして、なんでも食べられるようになりたいです。」
 前向きに希望を持って生きていこうとしている、こうした小さな声にもしっかりと耳を傾け、応えていくことも政治の責任であり、役割です。
 特に、難病から回復して、再び総理大臣となった私には、難病で苦しむ人たちの視点に立った政策を進めていく、「天命」とも言うべき責任があります。
 「日本版NIH」を設立したあかつきには、国家プロジェクトとして、難病研究を一気に加速させていきたいと考えています。そのことにより、 現在、難病で苦しんでいる皆さんにも、将来に「希望」を持っていただける社会を構築してまいります。
 それこそが、あるべき「健康長寿社会」です。新たな産業につながる、成長戦略の柱として、進めてまいります。


4.全員参加の成長戦略
 さて、難病で苦しんでいる人だけではありません。すべての人が、意欲さえあれば、活躍できるような社会を創ることが、成長戦略です。
 老いも若きも、障害や病気を抱える方も、意欲があれば、どんどん活躍してもらいたいと思います。一度や二度の失敗にへこたれることなく、何度でも、その能力を活かしてチャレンジできる社会をつくりあげます。
 すべての人材が、それぞれの持ち場で、持てる限りの能力を活かすことができる「全員参加」こそが、これからの「成長戦略」の鍵であると思います。
 高度成長時代の「所得倍増計画」を理論づけた下村治博士は、「経済成長の可能性と条件」と題した論文の中で、こう論じています。
 成長政策とは、「日本の国民が現にもっている能力をできるだけ発揮させる条件」をつくることだ、と。
 下村博士は、当時4500万人いた就業者が、「非常に高い潜在的な能力を持っているにもかかわらず」、創造的な能力を「発揮できる機会が少ない」ことを指摘し、「機会」さえしっかりと与えられれば、日本経済は成長できる、と説きました。
 この下村博士の言葉は、現在も、普遍的な価値を持っていると考えます。

(失業なき労働移動)
 昨年末に政権が発足してからのわずか3か月で、それまで低迷していた新規求人数は4万人増えました。一本目と二本目の矢は、確実に、新たな雇用という形でも、成果を生み出しつつあります。
 雇用を増やしている成長産業に、成熟産業から、スムーズに「人材」をシフトしていく。「失業なき労働移動」は、成長戦略の一つです。
 成長産業のニーズにあうよう、労働者の能力アップが必要です。受け入れ企業が、訓練を行う場合にその費用を支援する「労働移動支援助成金」を大幅に増やします。
 成長産業と労働者のマッチングを円滑に実施するための第一歩として、3か月間のお試し雇用を支援する「トライアル雇用制度」を拡充します。
 政府のハローワークに仕事を紹介してもらった場合だけに利用できる現行制度を見直し、求職者の目線で、民間の紹介ビジネスや、母校のキャリアセンターによる場合にも、利用できるようにします。これは、労働移動マッチングへの民間の活力をいかす第一歩でもあります。
 支援対象も、学卒で未就職の若者などに、大幅に拡大していきます。


5.世界に勝てる若者
 将来の我が国を担う若者たちには、もっと能力を伸ばしてもらわねばなりません。
 企業が求めている、社会保険労務士など、各種資格を取得するために頑張る若者たちには、「自発的キャリアアップ制度」を創設して、応援したいと考えています。
 ただし、国際的な大競争時代にあって、求められているのは、「国際人材」です。今、必要なのは、「世界に勝てる若者」なのです。
 しかし、日本の若者たちは、むしろ内向きになっています。日本人の海外留学者数は、2004年の8万3千人をピークに減少に転じ、2010年は5万8千人まで、3割も減りました。
 そこでまず、「JENESYS 2.0」をスタートさせました。
 アジアの多くの若者たちに、日本に来てもらい、日本の若者たちと交流する。そこから、日本の若者たちが、大いなる刺激を受け、アジアの国々に理解を深め、外に目を向けるきっかけを作るのが目的の一つです。
 課題になるのは、コミュニケーションの基礎となる「言語」です。高橋是清は、アメリカで奴隷契約書に誤ってサインしてしまうという辛酸をなめ、命がけで、英語を「身につけた」という話もありますが、それは過去のことです。
 若者たちが、使える英語を「身につける」ことを必須とする環境を、あらゆる場面でつくっていくことが必要だと考えています。
 まず隗より始めよ。公務員試験については、生きた英語を必須とするよう、指示を出しています。

(就職活動の後ろ倒し)
 海外留学にチャレンジしようという若者たちが、評価こそされても、不利益を受けるようなことはあってはなりません。
 ただ、大学へのアンケートでは、7割近くが、帰国後、就職などのために留年する可能性を、「海外留学への障害」として挙げています。
 加えて、就職活動が大学3年生の途中から始まってしまうことについては、「学業に集中できない」という指摘もあります。
 世界との大競争時代に、日本の将来を担う若者が、目の前の就職活動にとらわれ、内向きで、能力を伸ばす機会を失うのは、看過できません。
 そのため、大学生が、3年生まで学業に集中し、そして、留学から帰ってきても就職活動に遅れが生じないようにします。現行の就職活動のスケジュールを、3~4か月程度うしろに倒し、春休みになる3月から広報活動開始、留学生たちも帰国した8月から採用選考活動ができるようにすべきだと考えます。
 これについては、先ほど、私から直接、経団連など経済三団体にお願いをして、前向きに協力するとの回答をいただきました。
 若者たちが、自分たちの可能性をさらに伸ばし、そして、その可能性が発揮される職場を見つけることができるよう、応援してまいります。


6.女性が輝く日本
  さて、ようやく、私の成長戦略の中核である「女性の活躍」について、お話させていただきます。
 「社会のあらゆる分野で2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%以上とする」という大きな目標があります。
 先ほど、経済三団体に、「全上場企業において、積極的に役員・管理職に女性を登用していただきたい。まずは、役員に、一人は女性を登用していただきたい。」と要請しました。
 まず隗より始めよ、ということで、自由民主党は、四役のうち2人が女性です。こんなことはかつてはなかったことであります。2人とも女性の役員では、日本で最も注目される女性役員として活躍いただいています。そのおかげかどうかはわかりませんが、経済三団体からはさっそく前向きな回答をいただけました。
 ただ、足元の現実は、まだまだ厳しいものがあります。
 30代から40代にかけての女性の就業率がガクンと下がる、いわゆる「M字カーブ」の問題については、少しずつ改善の傾向にありますが、ヨーロッパの国々などと比べると、日本はまだまだ目立っています。
 いまだに、多くの女性が、育児をとるか仕事をとるかという二者択一を迫られている現実があります。

(待機児童解消加速化プラン)
 「待機児童」は、全国で2万5千人ほどいます。深刻です。
 しかし、「全国で最も待機児童が多い」という状況から、あの手この手で、わずか3年ほどで、待機児童ゼロを実現した市区町村があります。「横浜市」です。
 やれば、できます。要は、やるか、やらないか。
 私は、待機児童の早期解消に向けて、このいわば「横浜方式」を全国に横展開していきたいと考えています。
 まず、これまで国の支援対象ではなかった認可外保育施設についても、将来の認可を目指すことを前提に、力強く支援します。
 これまで支援の対象としてこなかった20人未満の小規模保育や、幼稚園での長時間預かり保育も、支援の対象にします。
 さらに、賃貸ビルなども活用して、多様な主体による保育所設置・新規参入を促すとともに、事業所内保育の要件を緩和して、即効性のある保育の受け皿整備を進めてまいります。
 保育士も確保しなければなりません。
 保育士の資格を持つ人は、全国で113万人。しかし、実際に勤務している方は、38万人ぐらいしかいません。7割近い方々が、結婚や出産などを機に、第一線から退き、その後戻ってきていません。
 保育士の処遇改善に取り組むことで、復帰を促してまいります。
 このような総合的な対策である「待機児童解消加速化プラン」を用意しました。
 「子ども・子育て支援新制度」のスタートは、2年後を予定しておりました。しかし、そんなに時間をかけて、待ってはいられません。状況は、深刻です。
 そのため、今年度から、このプランを直ちに実施します。
 平成25・26年度の二年間で、20万人分の保育の受け皿を整備します。さらに、保育ニーズのピークを迎える平成29年度までに、40万人分の保育の受け皿を確保して、「待機児童ゼロ」を目指します。
 その実現のためには、保育の実施主体である市区町村にも、同じ目標に向かって、本気で取り組んでもらわなければなりません。
 政府としても、最大限の努力を行い、意欲のある市区町村を全力で支え、「待機児童ゼロ」を目指します。

(3年間抱っこし放題での職場復帰支援)
 妊娠・出産を機に退職した方に、その理由を調査すると、「仕事との両立がむずかしい」ことよりも、「家事や育児に専念するため自発的にやめた」という人が、実は一番多いのです。
 子どもが生まれた後、ある程度の期間は子育てに専念したい、と希望する方がいらっしゃるのも、理解できることです。
 現在、育児・介護休業法によって認められている育児休業の期間は、原則として1年となっています。しかし、これもアンケートをとると、1年以上の休業をとりたいという方が、6割にものぼっています。子どもが3歳ぐらいになるまでは、育児に専念したいという人が、3割もいるのが現実です。
 「女性が働き続けられる社会」を目指すのであれば、男性の子育て参加が重要なことは当然のこととして、こうしたニーズにも応えていかねばなりません。3歳になるまでは男女が共に子育てに専念でき、その後に、しっかりと職場に復帰できるよう保証することです。
 そのため、本日、経済三団体の皆さんに、法的な義務という形ではなく、自主的に「3年育休」を推進してもらうようお願いしました。
 ただお願いするだけではありません。「3年育休」を積極的に認めて、子育て世帯の皆さんの活躍の可能性を大いに広げようとする企業に対しては、政府も、新たな助成金を創るなど応援していこうと思います。
 ブランクが長くなると、昔やっていた仕事であっても、ついていけるかどうか不安になることもあるでしょう。
 こうした皆さんが、仕事に本格復帰する前に、大学や専門学校などで「学び直し」できるよう、新たなプログラムも用意することで、「3年間抱っこし放題での職場復帰」を総合的に支援してまいります。

(子育て後の再就職・起業支援)
 子育てに専念する経験も、貴重なものです。私は、むしろ、子育てそれ自体が、一つの「キャリア」として尊重されるべきものですらある、と考えています。
 実際、自らの経験に基づいて、「外出先でも授乳できる授乳服」を開発して会社を立ち上げ、20億円規模の新たな市場を開拓した女性もいらっしゃいます。
 子育てを経験した女性ならではの斬新な目線は、新たな商品やサービスにつながる「可能性」に満ちたものです。
 ぜひともその経験を、社会で活かしてほしい、と強く願います。
 そのため、育児休業ではなく、一旦会社を辞めて、長年子育てに専念してきた皆さんにも、いつでも仕事に復帰できるよう応援していきます。
 長年子育てに専念してきた皆さんに対して、新たなインターンシップ事業や、トライアル雇用制度を活用して、再就職を支援していきます。
 さらに、子育ての経験を活かし、この機に自分の会社を立ち上げようという方には、起業・創業時に要する資金援助も用意します。
 仕事で活躍している女性も、家庭に専念している女性も、すべての女性が、その生き方に自信と誇りを持ち、輝けるような日本をつくっていきたいと思います。


7.おわりに  「挑戦」、「海外展開」、そして「創造」。成長戦略のための新たな「三本の矢」を束ねることで、日本は、再び成長という階段を登り始めることができると信じます。
 最後に、先ほどの下村博士の別の言葉で締めくくりたいと思います。
 これは、「成長政策の基本問題」と題する昭和35年の論文の序文にある言葉です。本格的な高度成長に入ろうとしていた日本への下村博士の強いメッセージです。
 「10年後のわれわれの運命を決定するものは、現在におけるわれわれ自身の選択と決意であり、創造的努力のいかんである。この可能性を開拓し実現するものは、退嬰的・消極的な事なかれ主義ではなく、意欲的・創造的なたくましさである。日本国民の創造的能力を確信しつつ、自信をもって前進すべきときである。」
 私は、日本国民の「能力」を信じます。日本国民の力によって、もう一度日本経済は力強く成長します。そう信じて、「次元の違う」成長戦略を策定し、果敢に実行してまいります。