MSN産経ニュースより

船橋市議会 勝手にe-報告 (長谷川大のe-通信簿)-sankei

【衝撃事件の核心】第2幕は市長の“敗北”…迷走「ブログ選挙」でみえた理想と現実
2009.3.29 08:00
自身のブログで物議を醸し、不信任決議を受けた鹿児島県阿久根市の竹原信一市長(50)が議会を解散したことに伴う、出直し市議選(定数16)が実施された。「不信任」対「解散」の第1幕に続き、「市長派」と「反市長 派」の候補者が激突した第2幕では、市長もネット上で有権者に訴えかける次世代型選挙手法で積極参戦。ただ、「市長のブログなんて見たことがない」という有権者も多く、むしろ影響力はビラが勝っていたとの見方も。“最終決戦”となる市長選が控える中、地方で繰り広げられた「ブログ選挙」の内幕を追った。
小都市を二分…市長も“空中戦”
「あなたは市長派か、それとも反市長派なのか」
3月21日午後、鹿児島県北西部にある阿久根市。市議選の投開票を翌日に控えた人口約2万4000人の町は、「市長派」と「反市長派」に分断され、最後のお願いに声をからす候補者に対し、有権者が“所属派閥”を確認する場面が各地でみられた。
竹原市長が今年1月に自身のブログ「阿久根時事報」で呼びかけた市議の不人気投票がきっかけとなった今回の出直し市議選には、定数16に対し前回より5人多い計23人が立候補した。内訳は議員報酬の日当制の導入など市長の改革路線を支持する7人、ブログ問題や急激な改革に批判的な反市長派15人、態度保留の1人-だ。
自らの政治手法の是非が問われた竹原市長もブログで“参戦”した。
先制パンチは、告示前の2月23日付で公開した全市職員の1円単位での給与明細一覧だった。年収700万円以上の職員が半数を占める実態を暴露したのだ。
地元の平均的な年収とされる約200万円を大幅に上回る高給ぶりについて、「良心の破綻(はたん)した無能な人間が選挙で選ばれた結果だろう」と、反市長派が長年牛耳ってきた議会をこき下ろした。
市議選が近づくと、書き込みの過激さはエスカレートした。
〈お掃除選挙〉と題した3月13日付では、「議員選挙に出る人間で、当選したら税金未納で議員報酬の差し押さえを受ける人間が複数」と“内部告発”した。
告示日の15日付には、自らの財政改革路線に共鳴する4人の候補者を実名で紹介。その一方、反市長派候の政務調査費問題を追及した地元テレビ局の番組映像が観られるように無断でリンクし、「サイテイの連中」と批判したのだ。
市選挙管理委員会は候補者の実名紹介について、公職選挙法(文書図画の頒布)に抵触する恐れがあるとして、自重するよう注意。無断リンクの件では「張り付けただけで、記述はしていない」として注意を見送ったが、地元テレビ局からの抗議でリンクを削除する結果となった。
一方、こうしたブログ上での言動について、竹原市長は産経新聞の取材に「有権者に議員の実態を知らせようと思ってやっただけ」と述べるにとどめた。
「1度も見たことねえ」
物議を醸す書き込みで全国的にも知られるようになった竹原市長のブログは、平成15年にスタート。建設会社に勤務していた当時、仕事で訪れた市役所職員の対応が横柄だったことに立腹し、役所批判のビラを各家庭に配りながらブログも始めたという。
当初は1日200~300件のアクセスに留まっていたが、昨年8月末の市長選で初当選すると、1000件を突破。今年1月に市議の不人気投票を呼びかけた際には2万件に急伸し、今回の選挙期間中も4000件前後をキープしている。
では、竹原市長の今回の市議選に関するブログについて、地元有権者はどう受け止めているのか。
「パソコンは持っているけど、市長のブログなんて1度も見たことねえ。そもそもブログというものがよくわからないし、関心もない」
こう話すのは自営業の男性(65)だ。
40代の主婦は「新聞やテレビのニュースでブログが話題になったときに、どんなものか1度閲覧したことがあるだけ。好き放題書いているだけで、毎日読もうとは思わない」。
総務省の統計によると、平成18年の都道府県別インターネット人口普及率で、鹿児島県は全国42位の47・2%。阿久根市の担当者は「具体的データはないが、高齢者の割合が県平均より高いので、インターネット人口普及率はもっと低いだろう」(同市担当者)としている。
ネット選挙時代に効力を発揮するとされる、双方向のコミュニケーション機能を持つブログ。肝心の地元で関心が低いことについて、竹原市長は産経新聞にこう答えた。
「高齢者の多い阿久根ではパソコンを持っている人がそれほど多くないため、アクセスの少なさは初めから想定している。ただ、市や議会のひどい実態を伝えるために自分が何もしないのもむなしいので、ブログで訴えているだけです」
ビラ攻撃が奏功?…不信任後には最終決戦
22日の開票の結果、議会の新たな構図は、市長派5人、反市長派10人、態度保留の1人-となった。
「選挙前の1人から大幅に増えた市長派は、大健闘した」(議会関係者)
地元ではこうした見方が広がっているが、その要因は得票数にも表れている。当選した16人のうち上位5人はいずれも市長派で、合計得票数は5304票。一 方、反市長派は10人で6975票。当選者1人当たりの平均得票数でみると、市長派が約1060票で反市長派を約363票も上回った計算になる。
市長ブログへの関心が低い割に、なぜ反市長派に迫る得票数を獲得できたのだろうか。
「市長のブログよりも、あのビラが効いたんだよ」
議会関係者が市長派の拡大要因として指摘したビラとは、竹原市長が2月のブログで紹介し、全国的に話題を呼んだ市職員全員の給与明細に関するものだった。
「ブログで紹介された内容について、文字を大きくして、よりわかりやすくまとめたビラを選挙前の3月上旬に各家庭に2000部配った。地元ではブログよりも、紙ビラの方が影響力があるからね」
竹原市長の政治理念を支持する政治団体「阿想会」の松岡徳博会長(54)はこう話し、ブログ選挙の裏側を明らかにした。
実際、ビラをみた50代の女性は「市職員の給与レベルについてはニュースで知っていたけど、ビラを見て改めて怒りがわいてきた。公務員の給与削減を訴えていた市長派に1票入れた」と話した。
ただ、紙ビラ作戦で健闘したとはいえ、改選後の臨時議会では市長対議会の第3幕が控えている。
反市長派は2度目の市長不信任案を提出する構えで、議員の3分の2以上が出席し、その過半数が賛成すれば市長は自動失職し、50日以内に市長選が行われるのだ。
仮に市長派5人と態度保留の1人が欠席すれば、不信任案の審議に必要な11人が確保されないため不成立となるが、市長派は全員出席して「不信任案に正々堂 々と反対討論で挑む」(牛之浜由美議員)ことにしており、過半数を確保した反市長派による不信任決議が成立する公算が高い。
竹原市長は開票翌日の23日の記者会見で、2度目の不信任決議が行われて失職した場合について、「議会の不信任と市民の不信任は違う。もう1度出て市民に改革を訴える」と出馬の意向を表明している。
竹原市長が再選された場合、今度は議会側が窮地に立たされる。
地方自治法の規定で、不信任決議のハードルは高くなり、「議員の3分の2以上が出席し、4分の3以上の賛成」が必要となるからだ。阿久根市議会では全員出 席した場合、12人以上の賛成が必要条件となるため、10人の反市長派は態度保留の1人を含めても不信任決議は成立しないことになる。
ブログ問題で対立を強めた市長対議会の泥仕合は、次期市長選でついに最終決着がつく見通しだが、有権者には厭戦(えんせん)ムードも漂い始めている。40代の女性はこう言って嘆いた。
「市長も議会も感情レベルのケンカはやめて、若者の雇用対策など市の未来につながる、もっと大切な仕事に協力してあたってほしい」