たしか大連からだったと思いますが、カニが見本として届いたことがあります。日本食の日本人の板前の親方が、血相変えて僕らのいる事務室に駆け込んできて、ムッシュもデスクが一緒でしたから、ムッシュのところで、「もうやってられねえよ~」の言葉に、なにかなあと思って聞いていたら、茹でたカニが無くなったというのです。「やつらのことを調べてくれよ~」ってことで、オープン前の研修中の食材選定時期だったので、ものがなくなれば当然ですが従業員の仕業です。じゃあ、抜き打ち検査だということで、従業員ロッカーを調べたら、出てくる出てくる、いろいろなものが。カニは、茹でて親方が後ろに置いて、次のカニを茹でている間に、もう姿かたちが無くなっていたそうです。

で、当然ですが、ロッカーからしっかり出てきたようです。しかし、出てきたものは、カニだけではありません。それぞれの従業員のロッカーから出てきたのは、シルバー類(フォークナイフの類)、食器等々、ありとあらゆるホテルの備品です。

な~るほど。備品管理は、日本の感覚ではいけないんだということを日本人スタッフは身をもって感じたのでしょう。それからは、盗難事件は減ったと思います。が、しかし、オープニングのときの団体のお客様のデザート。本館から別棟レストランシアターへ運ぶときに、足りなくなっちゃったんです。厳密に言うと、厨房からは規定数が出ているのに、お客様には届かない。「これだけたくさんあるから、1個くらい食べちゃっても平気ジャン」ってことで、食べたら、「俺にも食べさせろよ」ってなっちゃった感じです。明らかに運搬係以外あり得ない話ですから。これまた、日本人のレストランマネージャーは怒っていましたね。

レストラン以外では客室係のテレビ強奪未遂事件です。当時の中国はテレビそのものが入手困難で、カラーテレビなんて宝物です。しかし、これを奪おうとなると目立ちすぎます。「車で運ぶしかない」、こう考えるのは当たり前です。なんと、我々外国人用に夜間控えていた運転手を巻き込み、客室に設置されたテレビを会社の車で運ぼうとしたところがばれて、未遂に終わりました。たぶん、客室に順次入れていったので、1台2台無くなってもばれないと思ったのでしょう。というくらい、それぞれがかわいい犯罪なんです。わりと純真無垢に育った高校卒業したばかりの子どもたちが“やんちゃ”をしちゃったって感じです。

顔のコピー取りなんていうのもありました。カメラが高嶺の花。写真がブームではあったのですが、まだまだ一般的に普及しているほどではありません。なのに、会社にいったらなんだか良くわからないけど、書類を置いて、ボタンを押すと写真が出てくる機械があると思ったんでしょうね。見事に顔を置いてボタンを押すやつが現れたのです。それ以外にも、何でも自由にコピーするようになり、コピー機利用のルールを作ったような気がします。雑誌でも何でも、友達のために何でもコピーしていたようです。まあ、「手」をコピーするのなんか随分楽しんでいたようです。