昨日、2月15日に発表された「総合エネルギー政策特命委員会」(山本一太委員長)の中間報告につきまして、全文掲載いたします。


総合エネルギー政策特命委員会 中間報告
 

           平成24年2月15日
           自由民主党 政務調査会
           総合エネルギー政策特命委員会



○はじめに ~基本哲学~

東日本大震災に伴う福島原発の事故は、現在に至るまで周辺住民の方々に甚大な被害をもたらしている。わが党は、脱化石燃料の中核として、原子力政策を推進してきたが、安全神話に依拠しすぎてしまった結果、このような惨禍を招いたことにつき深く反省をしなければならない。周辺住民の方々、そして国民の皆様に深くお詫び申し上げる。
また、この事故の原因を解明し、教訓を活かすことが全世界に対するわが国の責務であることは言うまでもない。
今回の原発事故は、周辺住民の方々だけでなく、国民生活や産業活動に多大な影響を与え、放射能の脅威をあらためて示した。このような状況下、原発の新規立地が事実上不可能となっているが、わが党は、エネルギー政策の見直しに際して、以下の3つを重要なポイントとして掲げたい。
①エネルギー源の多様化やCO2の削減を目指す中、その「中核的役割」であった原子力の積極的推進が事実上困難になった現在、省エネルギーの推進や新エネルギーの活用など、あらゆる他の可能性を精一杯に検討し、追求すること。
②既に北米で活用されているシェールガス、実用化の見込みは先だが日本近海に多数賦存しているメタンハイドレードなど、様々な新たなエネルギー源の活用が模索されている。また、中東における民主化運動の更なる広がりや、イラン情勢の不安定化など、エネルギー供給地における不確定要因も多数存在している。こうした先行き不透明な状況下、いかなる事態・状況に対しても柔軟かつ機動的に対応できるような二枚腰、三枚腰の対応をする必要があること。
③原発については、国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の調査結果や、わが党が集中導入期間の設定などを実現させて積極推進している再生可能エネルギー特措法の効果など種々の動向を見極めつつ、安全性の徹底した確保や地元の理解・納得を前提として、短期的な必要最小限の電力量をまかなうべく活用すること。特に、向こう10年を「原子力の未来を決める10年」と位置づけ、その間、出来得る限りの再生可能エネルギーの導入及び省エネルギーを進めるとともに、様々な状況変化を踏まえた国民的議論を喚起し、原子力の利用について、中長期的な観点から結論を出すこと。

これまで我々は、32回の会議を経た結果として、議論の中間段階ではあるが、今後のわが国エネルギー政策のあり方、特に原子力政策の方向性について、以上の基本哲学を踏まえつつ、以下に示すこととする。


○わが党のエネルギー政策(主に原子力政策)を振り返って
高度経済成長下、エネルギーシフト(石炭⇒石油)により石油依存度が増大する中、わが国が原子力政策の推進に舵を切ったのはある意味必然とも言える状況であった。
すなわち、現在においても9割近くを占める石油の中東依存度を低減するためにエネルギー源の多様化が叫ばれ、ベースロード電源としての質の高い電力供給、コストの安さ、ウラン供給(特定地域への偏在が比較的小さい)などの観点から、原子力は夢のエネルギーとして推進されることになった。特に1970年代の二度にわたる石油ショックによりエネルギー供給体制の脆弱性が露呈すると、原子力推進に拍車がかけられた。
また、近年は地球環境問題への対応も重要なテーマとなり、CO2排出量が小さい原子力はこの観点からも重宝されることとなった。
こうした中、原子力の安全神話に過度に依拠し、原発建設をわが党として推進してきたが、福島原発の事故により多くの方々に甚大な被害をもたらしたことについては、党として猛省し、周辺住民の方々、国民の皆様に深くお詫びしなければならない。
さらに、原発から発生する使用済燃料に関しては、放射性廃棄物の処理方法や核燃料サイクル技術の確立が鍵になるが、これまで巨額な投資をしてきたにも関わらずその解決の目処がたっていない。このようなわが党の姿勢について反省するとともに、こうした議論が未熟なまま原子力政策がなぜ推進されてきたのか、特に電力業界や原子力を推進してきた官庁との過度な相互依存関係がなかったかなど、さらなる検証を行う必要がある。


○今後のわが国エネルギー政策のあり方
・当面の需要対策
省エネルギーの促進や再生可能エネルギーの導入促進に加え、定期検査等で停止中(今後停止予定も含む)の原発の再稼働を、万全な安全確保(有事・テロ対策も含む)と地元住民の理解・納得を前提に行っていく。その際には、国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の調査結果や、わが党が集中導入期間の設定などを実現させて積極推進している再生可能エネルギー特措法の効果など、種々の動向を見極めることとする。
・中長期課題(真のベストミックスとは?)
原発停止により火力発電への依存が90%以上となっており、そのための燃料確保がわが国経済へ多大な影響を与えている(貿易収支が31年ぶりに赤字に転落)。経済の持続発展のためにも「火力」「原子力」さらに「水力」「太陽光」「風力」などの「再生可能エネルギー」の割合を、いつまでに、どのようにするのか「電源構成のベストミックス」を早急に確立する必要がある。特に原子力に関しては、今後10年間を「原子力の未来を決める10年」と位置づけ、国民的な議論を喚起し、結論を出していく必要がある。
基本的な考え方としては、徹底的に省エネルギー政策を実施し、徹底した再生可能エネルギーの導入を図るとともに、適度の化石燃料の活用も行い、それらを前提として、種々の状況も踏まえながら、最低限必要な限りにおいて中長期的に原子力を活用するか否かに関して議論していくこととなる。

□ 再生可能エネルギーの可能性
水力、太陽光、風力発電など従来の再生可能エネルギーの技術開発の可能性を詳細に精査するとともに、宇宙太陽光や地中熱等の新しいエネルギー源についても可能性を探る。
また、昨年成立した再生可能エネルギー特措法の施行に伴う適正価格の設定や規制改革など制度面の強化にも努める。

□ 節電・省エネ技術向上、国民への啓蒙
国民全体で「節電」意識を向上させるとともに、「技術による省エネルギー」の目標を設定していくこととし、そのための政策を強力に推進する(省エネ商品、スマートグリッドの導入、火力発電所の高効率化等)。

□ 地球環境問題への対応
わが国のCO2削減目標は、原子力発電所の新増設に依拠する度合いが大きかった。福島原発事故後の状況や国際的動向の変化を踏まえ、現在のわが国の目標の見直しやポスト京都議定書に向けたわが国の貢献のあり方、特に省エネ機器等の積極的な海外展開などについて検討する必要がある。

□ その他
原発の新増設が困難である現状を踏まえ、化石燃料(石油、天然ガス)や試掘が始まったメタンハイドレードなど安定的調達を推進する。また、緊急時に備え、電力の東西融通、政府や石油会社間等の石油の供給体制整備を進める。さらに、電力関連会社間の競争原理の導入などを内容とする電力システム改革についての検討を進め、電力料金の低減を図る。


○原子力政策のあり方
・“原子力の未来を決める10年”
原発については、短期的な再稼働の可能性について上述のとおりであるが、現在の状況を踏まえると、中長期的に原発の新規立地を積極的に推進することは困難である。中長期的な原子力政策のあり方については、上述の国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の調査結果はもちろんのこと、わが党が集中導入期間の設定を実現するなどして積極推進している再生可能エネルギー特措法の導入効果(再生可能エネルギーの普及状況)、安全保障面から見た場合の核技術の保持、より安全な原子力発電に向けた研究の動向などを見極めつつ、国民的議論を重ね、原子力の利活用や研究をどのように続けるべきかについて検討することが必要である。
・原発立地地域対策
これまで原子力政策推進の一翼を担ってきた原発立地地域に対しては、仮に原発が無くなるとすると、地域経済が縮小の一途を辿ってしまう。今後、立地地域の特色に沿った対応を具体的に検討すべきである。
・原子力規制庁について
原子力規制庁について、政府は既に設置法案を閣議決定しており、また、わが党内において議論が行われている。一方、原発事故の検証は国会、行政、民間において行われており、まだその結論は出ていない。規制のあり方は今後の原子行政の根幹をなすものであり、「検証」が反映されなければならず、各検証が結論を得た後に決定をすべきである。


○原子力周辺技術のあり方
・核燃料サイクル開発
これまでの莫大な投資をどう見るのか。「止めるのか」「引き続き推進するのか」早急に結論を出していく。特に、エネルギー供給の観点及び純粋な研究開発の観点の双方から議論を展開する必要がある。
・使用済み核燃料廃棄物及び高レベル放射性廃棄物処理
原発稼働時に排出される使用済み核燃料廃棄物及び高レベル放射性廃棄物処理について、処分場の選定は極めて困難であるとの認識の下、原発内プールにおける貯蔵も限界であり、「ドライキャスク」等の新しい技術などによって安全で確実な方法で処理すべきである。
・国際貢献
福島原発における反省と教訓を活かしつつ、他国における原子力災害の予防策も含め、わが国が技術面、人材面で大きく国際貢献することは重要なことである。


○まとめ(最終報告に向けた取り組み方向性)
当委員会では、これまでの原子力政策全般について議論を行ってきたが、特に、過去の政策及び原子力技術の検証が不十分であると痛感している。
今後、最終報告に向けて「原子力政策のターニングポイント及び過去の政策決定過程に関する検証チーム」と「核燃料サイクル、放射性廃棄物処理の歴史に関する検証チーム」の2つを設け、これら課題の議論を深化させるとともに、わが国エネルギーの基本政策、特に、将来の需給構造のあり方について具体像をとりまとめていく。