019 あしや温故知新VOI.19 「旧芦屋図書館、松濤館」
「1930年、金庫業の実業家松山与兵衛氏が旧逸見銀行だった建物「松濤館」を美術品収蔵庫として現在地(兵庫県芦屋市打出小槌町2 打出公園のすぐ北側)に移築、市が買い取り、1954年に芦屋市立図書館となりました」
と記録にあります。
建築概要は
2階建の組積造(石造り)の鉄筋コンクリートの洋館です。1990年に改修しています。建築面積は150㎡。登録有形文化財(建造物) で東と北の外壁はルスティカ風に花崗岩を積み、重厚な外観が残っています。
隅部は円弧状とし、2連アーチ窓を配し、軒にデンティルを施すイタリア・ルネッサンス邸宅風の意匠が見られる素敵な建築物です。
北隣の小槌幼稚園の土地も、元は松山さんのお屋敷の敷地でした。松山邸の母屋は第2次世界大戦の戦火で焼けたので、ご家族はしばらくこの建物にお住まいだったそうです。
また、戦後しばらくしてからはアメリカの進駐軍に接収され、そのあと警察予備隊(自衛隊の前身)も駐留していたとの記録も残っています。昭和に歴史が重ねられた貴重な文化財です。
小説家の村上春樹さんは少年時代を芦屋市で過ごしたことがあり、この建物が図書館本館だった頃によく利用したのです。村上さんの小説『風の歌を聴け』(1979年)に登場する「古い図書館」のモデルになった建物がこれなのです。
ここが図書館になり、エアコンが設置されたらそれを目当てに多数の子供たちや受験生が殺到しました。私などは単に涼みにいっただけですが、それでも読書に触れるチャンスが多くなりました。
図書館員の方に「あんたら勉強しないんだったら、隣の猿公園で遊んで来たら?」確かに私たちは図書館の正しい使い方も知らずに漫画「世界偉人伝」、特にベイブルースと野口英世博士の物語を何度も読み返してました。私は小学校3年生でしたがこの物語が大好きでした。
作家の村上春樹さん。「いちばん個人的に好きだったのは、昔の芦屋市立図書館です」と述べられているように村上春樹さん自身もこの図書館を利用された時代の方です。
重厚な組積造建築物は永遠に残して欲しいと思います。
2023年6月1日
打出小道プロジェクト
「打出の小道プロジェクト」の一環として、打出公園の古くなった公園施設の改修とともに、隣接する打出教育文化センターと打出公園を一体的に整備することで、打出公園が地域で使いやすく、さらに魅力的な場所になるようにリニューアルを行います。
公園閉鎖期間:令和5年7月3日から令和6年3月29日まで
が発表されました。
【参考文献】
芦屋市史 昭和31年 本編・資料編
芦屋市史 昭和46年 本編・資料編
芦屋郷土誌 細川道草 昭和38年
芦屋の里 島 之夫 昭和4年
阪神間モダニズム 納屋 嘉治 平成9年
芦屋の生活文化史 民俗と史跡をたずねて 昭和54年 芦屋市教育委員会