海の日記念

芦屋沖の竜灯

 

 今から290年ほど昔の本に書かれている話です。


 芦屋の浜でまっ黒な夜に沖の方を見ると、海中のあちらこちらから、ろうそくのあかりのような青白い光があらわれて、風がふく方向とは反対につらなって走る不思議な景色が見られました。


 浜の近くに住む村人たちは、この怪しい光を見るごとに

「あれは海中の魚の群れが竜の神さまをお祭りしているのじゃ」

と語り伝えました。

 

 百年ほど前まで、ときどきあらわれたそうですが、

 その後はすがたを見せなくなったということです。

 

 龍燈、龍灯、竜灯(りゅうとう)とは、日本各地に伝わる怪火。主に海中より出現するもので、海上に浮かんだ後に、いくつもの火が連なったり、海岸の木などに留まるとされる不思議な現象です。

 

 厳島神社で祀られている厳島明神が海神であるために、海神の住居である龍宮にちなんで名づけられたともいいますが、大阪湾では沖龍灯と呼ばれ、魚たちが龍を祀るために灯す火と言われた伝説もあります。


 民話では100年ほど前ですから、私の曾祖父や祖父の時代に見られたと本には書かれています。


 記録にはありませんが、叔父たちの話によると気象現象か当時は芦屋沖でもイカ釣り船がたくさん出漁していましたが、その灯りが海面に綺麗に映っていたと言っていたのを覚えています。

 海軍士官の叔父は南方洋上でこの龍灯を見たと言っていました。

 

 柳田國男さんは、「龍灯」は水辺の怪火を意味する漢語で、日本において自然の発火現象を説明するために、これを龍神が特定の期日に特定の松や杉に灯火を献じるという伝説が発生したとしています。


 また、「エルモの火」 悪天候時などに船のマストの先端が発光する現象として、 激しいときは指先や毛髪の先端が発光する。航空機の窓や機体表面にも発生することがあると科学的根拠が示されていますが、それでは伝説にならないでしょう。

 

 ロマンの無い話ではありますが、芦屋の漁師さんの伝説として「シケで沖から帰る時に暗い中でも一筋の青白い光が帰りの航路を示してくれる」というものがあります。


 ほんとかどうかより、海には龍神がいて大切に敬うとその恩恵でいざという時に助けてくれるという伝説です。

 叔父さんはこの伝説のような経験をして一命を取り止めたと自慢げに話していました。


あしや温故知新VOL.29に掲載したものです。