30年近く前の話。

通っていた中学校に清掃員の女性がいました。

名前はサチ子さん(仮名)。

自分の母と祖母の間くらいの年齢で、当時の働く女性としては高齢なほうだったと思います。


生徒にもサチ子さんサチ子さんと呼ばれて慕われている人でした。




ある時、学校創立の記念文集が出されました。

教職員紹介のページもあり、校長先生から用務員にいたるまで全員が直筆で自己紹介や生徒へのメッセージを寄せていたのですが、


サチ子さんのページはただ一言

「顔は悪いが気持ちは良い!!」


これだけでした。





これだけでしたが、思春期真っ只中の私は衝撃を受けました。

人並みに自分の容姿にも思い悩む年頃でしたが、

それ以上に自分の「気持ち」はどうだろう。

サチ子さんの言葉にそう考えずにはいられませんでした。 



「顔は悪いが気持ちは良い!!」



それがサチ子さんの自負しておられた生き方なのか、それともこうありたいという座右の銘のようなものだったのか。


どちらにしても…

仕事に手を抜かない姿、

生徒の呼びかけに朗らかにこたえる姿を思い出すと、顔のくだりはともかくとして、「気持ちは良い!!」の部分の清々しさはまさにサチ子さんにふさわしい言葉でした。



後ろめたいもの、人に言えないドロドロしたものをたくさん抱えていた多感な時期の私。

サチ子さんのように「気持ちは良い!!」とサッパリ宣言できる日は来るのだろうか…と。



多感な時期も大昔のことになり当時のサチ子さんの年齢に少しずつ近づいてる私ですが、サチ子さんの清々しさ、心の美しさには到底及びません。


むしろ歳を重ね、余計なプライドやひねくれが出てしまい、中学生の時の自分より人として劣っているのではとさえ思えます。



「気持ちは良い!!」と自信を持って言えるようになることは、おそらく私の永遠の課題になるでしょう。