これは母から後で聞いた話です。
私の手術中、病室で待っていた母は、手術終了直後に執刀医から別室に呼ばれました。
「手術は無事に終わりましたよ。
かなりの大きさで少々手こずりましたが、全て摘出しました。
これがその筋腫です」
トレーに乗せられた筋腫を見て、母は驚愕したそうです。
大きさは約15センチ。所々白い部分がある肉色の塊は、ずっしりと重そうに見えました。
言葉を失う母に、執刀医は続けました。
「重さは約2キロです」
「そんなに!?」
※ 実際、手術前と後では、(絶食していたせいもありますが)体重が3キロ減っていました。
こんなに大きな物がお腹に詰まっていたなんて…。
どんなに苦しかっただろう…。
母は溢れてくる涙をこらえ、
「ありがとうございました…」
執刀医に頭を下げるのが精一杯だったそうです。
ストレッチャーに乗って病室へ運ばれた私は、まだ意識がもうろうとしていました。
「みどり!」
母の声がしました。
ゆっくり声のした方を向くと、母は今にも泣き出しそうな顔をしています。
「大丈夫だから…」
私は一言だけつぶやき、また目を閉じました。
傍らでは、母と看護師さんが何やらやりとりをしています。
その会話を聞きながら、私はまた深い眠りに落ちていきました。
次に目覚めた時、辺りはすっかり暗くなっていました。
ベッド脇に座っていた母が、私の顔を覗き込んでいます。
「気分はどう?」
「うん…。痛み止めが効いてるから痛くないよ…」
「良かった。さっき看護師さんにね、『後は私たちにお任せください』って言われたの。
お母さん、そろそろ帰るね。明日また来るから」
そう言って母は帰宅しました。
消灯時間を過ぎても、定期的に看護師さんが私の所へ来て、点滴を交換したり、傷口を見たり、血圧を測定していきます。
私の状態は安定していたのですが、深夜になぜか熱が出てしまいました。
1人苦しんでいると、気づいた看護師さんがすぐに氷枕を持ってきてくれました。
「水が飲みたいんですが…」
喉の渇きを訴えると、看護師さんはなぜか水で濡らしたタオルを持ってきました。
「まだ水分はとれないんです。だからせめてこれで…」
そう言って彼女は、私の顔や口元を濡れたタオルで拭き始めました。
その夜は一睡もできませんでしたが、看護師さんの献身さが苦しみの中に差す一筋の光のようで、ありがたく思いました。