ピンインというのは日本語のローマ字にあたるもので、中国語をアルファベットで表したものです。
日本語のローマ字と同様、欧米語で書かれた文章の中に中国の人名・地名などを書く際に使われる他、パソコンで中国語を入力する際にも使われています。
中国語をアルファベットで表すという試みは、最初はイギリス人によって19世紀に行われました。
アヘン戦争(1840~1842年)に従軍にする為に中国を訪れ、終戦後も中国にとどまって上海副領事、上海税関長などを歴任したトーマス・ウェードという人が、この試みを最初に成功させた人です。
この人が考案したアルファベットによる中国語表記法をウェード式と呼びます。
現在の中国で使われているピンインは、ウェード式を改良して1959年に中華人民共和国政府が決めたものです。
ピンインの導入の意図は本来、国民の労働生産性を向上させる為に画数の多い漢字という存在を廃止して、中国語をアルファベットで書くようにするといういかにも社会主義政権的なものでした。
さすがにこれには反発も強かったようで、ピンインは漢字を置き換える存在にまではなりませんでした。
代わりに導入されたのが漢字を簡略化する「簡体字」ですが、それについてはいずれ改めて紹介したいと思います。
日本人にとってローマ字というものは、パソコンを使わない人にとっては「小学校高学年で習ったもの」という以上の意味を持っておらず、複雑なローマ字(例えば「にゅ」とか)は忘れてしまったという人も多いと思います。
一方、中国人にとってのピンインは、日本人にとってのローマ字に比べると、かなり人々に浸透しています。
現代の中国人は子供の頃に、漢字の前にまずピンインを習うからです。
日本の子供は漢字の前にひらがなを習い、子供向けの本の漢字にはひらがなで読み仮名を振りますが、それと同じように中国の子供は漢字の前にピンインを習い、中国の子供向けの本には漢字にピンインで読み方が添えてあるのです。
中国人自身が外国由来であるアルファベットを使って自国語を習得するという事実は、中国語という言語の難しさをよく示していると思います。
下の写真が、僕が使っている中国語のテキストに載っているピンイン表です。
汚い字で書き込みがしてあってすみません^^;
ピンインのうち、多分半分くらいは日本語のローマ字と同じように発音すればだいたい合ってると思いますが、日本人には馴染みのないピンインも結構あります。
日本語の母音は、a、i、u、e、oの5つですが、中国語では次の6つです。
a、i、u、e、o、ü
ん?ü?なんじゃそりゃ?
「ü」は巻き舌にして「う」と発音する感じの音です。
あと、「e」は日本語の「え」とはちょっと違っていて、「あ」と「う」と「え」が混ざったような変な音です。
僕は日本語の通じない飲食店に行く時には、コーラを飲まずにスプライトを飲むことにしています。
これはコーラの中国での名称である「可乐」(kele)の発音が難しいからです。
じつは「中国語の母音は6個」という上の説明はあまり正しくありません。
そもそも中国語は「母音と子音」という概念ではなく、「韻母と声母」という概念なのです。
日本語の漢字の音読みを想像すればわかるように、中国語の漢字一文字の読み方は全て一音節です。
例えば「男」という字は「nan」というピンインです。
この最初のピンインの最初の子音である「n」が「声母」、 残りの「an」が「韻母」です。
つまり、「an」を読む時は、「a」と「n」それぞれの発音を順に読むわけではなく、「an」というひとつの音として発声します。
中国人で「楊さん」と「顔さん」という苗字の人が結構います(後者は少数派ですが)。
「楊」のピンインは「Yang」で、「顔」のピンインは「Yan」なので、日本人の感覚だと「最後にgが付くか否か」だけの違いです。
ところが、楊さんは「ヤン」で、顔さんは「イェン」なのです。
「ang」は「an」に「g」が付いたというわけではなく、全く別の韻母なわけです。
声母でやっかいなのは「r」です。
これは「ラリルレロ」の音ではありません。
中国語には英語の「r」にあたる音はないので、ピンインを作る時に「r」が余っており、英語に類似の音が存在しない中国語独自の音に、余った「r」 を当てはめたわけです。
とは言え、英語の「r」と少しは似ており、英語の「r」を発音する時みたいに舌を巻き舌にした上で、舌と口の天井の隙間を極度に狭くした態勢のまま、勢い良く息を出します。
聞いた感じは「ジ」に近い音です。
日本人はこの発音が苦手なのですが、なぜか中国語で「日本人」という単語のピンインは「ribenren」で、「r」が2回も出てくるのです。
自己紹介の定番である「私は日本人です」と言うのがとってもめんどくさくて困ってしまいます。