『養生訓』 日中の味付けの違い(巻七39) | 春月の『ちょこっと健康術』

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「中国の書で、『居家必要』、『居家必備』、『斉民要術』、『農政全書』、『月令広義』などに、料理の方法が多く載っている。その方法によると、日本の料理とは大いに異なり、みな脂っこくて味つけも濃く、甘美な膳立てである。その味もかなりくどい。中国の人は、胃腸が厚く、生まれつき丈夫なために、こうした重味を食べても滞塞することがない。今、長崎に来る中国の人も、またこのようであるという。

 日本の人は、壮盛な人でも、このような食事をとると、飽満・滞塞して、病気になるだろう。日本人の食事は、淡白で軽いのがよいのだ。脂っこく味の濃い、甘美なものを多く用いないことだ。料理人の腕前も、味の軽いものをよしとして、そうした味付けをする人を優れた職人と評価する。

 これは中国と日本の風土や気風の違いによるところが大きい。そうであれば、補薬を小服にして、甘草を減らし、棗を少しだけ用いることは、当然といわなければならない。」


益軒先生、読まれた書籍はいったいどのくらいあるんでしょうね。先生ご自身『大和本草』という薬草事典を書かれたくらいですから、薬草がらみで農業に関連する書も読まれたんですね。


そして、養生法には食事に関する情報は欠かせません。それで、『居家必要』と『居家必備』のような、そのタイトルから想像して、おそらく生活便利手帳的なものにも、目を通されているんですね。


Wikipediaに解説があったのは、次の3書。

・『斉民要術』は、中国北魏の賈思きょう(か・しきょう)が著した総合的農書で、農学史上最も古い農業専門書であり、中国に現存する最古で最も完全な農書とのこと。

・『農政全書』は、明代の学者、徐光啓によってまとめられた農書。

・『月令広義』は、明代の官僚で学者でもあった馮應京(ひょう おうきょう)の著で、中国の伝統的な年中行事・儀式・しきたりなどを解説した本。


さて、それらの書に載っていた料理がどんなメニューだったのか、そこまではわかりませんが、益軒先生に言わせれば、あぶらっこいもの、味の濃いもの、甘いもの。確かに、現代でも中華料理と言われて、思い浮かぶ一般的なイメージも、たぶんそれですよね。


でも、東洋医学(中医学)でも、そうしたくどいものは健康のためによくないと、昔から言われていて、肥甘厚味の過食は、胃熱証 をはじめとする病気の誘因になると考えられています(肥味=油っこい・脂っこい、甘味=甘い、厚味=味が濃いという意味)。


ここでまた「日本人は体気が弱い」 というのが出てきました。そして、「薬の量」「日本人に合った薬量を」 となっていること、「甘草の量」「棗の使い方」 に違いのあることは当然なんだという結論でしょうか。


さて、その日中の風土・気風の違いですが、確かにあると感じます。それは、中国に行ってみればわかる。島国の日本では決して感じることのできないものがあって、大陸の風というか、空気というか。ほんとに違うんです。


ただね、中国って、ひとくくりにはできないと思います。だって、広いんだもの。気候も、民族も違うし。だから、中国の医家たちの主張も違っていて当然で、それは「医書を比較する」 の解説に書いたとおりです。


『養生訓』の原文はこちらでどうぞ→学校法人中村学園 『貝原益軒:養生訓ディジタル版』


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