『養生訓』 良い薬を選ぶ(巻七9) | 春月の『ちょこっと健康術』

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「薬肆(やくし)の薬に、良い薬とそうでないもの、本物と偽物とがある。気をつけて選ばなければならない。

 性の悪い薬と偽薬とを用いてはいけない。偽薬というのは、本物ではない似せただけの薬である。枸橘(くきつ)を枳殻(きこく)とし、鶏腿児(けいたいじ)を柴胡(さいこ)とするような類(たぐい)である。

 また、薬の良し悪しにも注意しなければならない。その病気に適した良い処方だとしても、薬性が悪ければ効果はない。また、薬の製法にも心を配るべきである。いかに薬性がよくても、作り方が治療法に合ったものでなければ、役に立たない。

 たとえば食物も、その土地によって、また時節によって、味の良し悪しがあるものだ。また、良い品物でも、料理が下手であれば、味が悪くて、食べられたものではないのと同じである。それゆえに、その薬性の良いものを選んで用い、その製法を精密にしなければならない。」


薬肆は、ここでは「やくし」としましたが、「くすりし」と読むこともあるようです。「肆」は、訓読みでは「つらねる、ほしいまま、みせ」と漢字辞典にありますので、この場合は「薬店」ですね。ここでは、薬店で薬草を買うときの注意について、言及されていることになります。


さて、枸橘(くきつ)と枳殻(きこく)、調べてみたら少々ややこしい話になっています。字書で調べると、どちらもカラタチの別名として出てきます。ってことは同じもの?カラタチは、ミカン科の植物で、日本では温州ミカンの台木として使われています。


漢方薬からみるとどうなるか?薬名として、枳殻は出てきますが、枸橘はなく、代わりに枳実(きじつ)が出てきます。では、枳殻と枳実の違いは何か?というと、枳実は、ミカン科の植物のまだ幼い果実をとって、まるごと干したもの。枳殻は、枳実にするものよりは大きく育った未成熟な果実をとって、2~4分割して干したもの。


その枳殻と枳実、いずれも健胃や下剤、利尿剤などに使われ、使い分けなければならない理由はないようです。しかも、いずれもカラタチの実ではなくて、ダイダイやナツミカン、クネンボなどの実が使われるとのこと。(参考:生薬の玉手箱、日本薬草全書)


益軒先生は、枸橘と枳殻は似て非なるものっておっしゃってますけど、それがどこから来た説なのか、残念ながら調べた範囲では、よくわかりませんでした。今回参考にさせていただいた『生薬の玉手箱』によると、李時珍が「枳実・枳殻を区別するようになったのは,魏晋以来である。」と書いているようなので、いずれかの医書には区別すべきことが書かれているのでしょう。


鶏腿児(けいたいじ)は、益軒先生の著書『大和本草』 にはカワラサイコとの記述があります。そのカワラサイコ、川原柴胡と書きます。川原に生える柴胡(さいこ)として、この名がついたようですが、これはバラ科であり、生薬の柴胡の原料となる三島柴胡はセリ科ですから、まったく異なるものです。


材料の品質の良いもの、製法のきちんとしたものを選ぶことは、料理の材料と作り方の良いものを選ぶのと同じことだという主張、これは納得ですね。


『養生訓』の原文はこちらでどうぞ→学校法人中村学園 『貝原益軒:養生訓ディジタル版』


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