『養生訓』 灸に使う火(巻八37) | 春月の『ちょこっと健康術』

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「灸に用いる火は、水晶を天日に照らして、その下に艾(もぐさ)をおいて、火を取るのがよい。また、火打石(ひうちいし)で白石あるいは水晶を打って、火を出すとよい。火を取ったならば、香油を灯火に入れて、艾しゅ(がいしゅ)にその灯の火をつける。あるいは香油をぬった紙燭(ししょく、しそく)をともし、艾しゅを先にに身体につけておいて、それに紙燭の火をつける。松、柏、枳(からたち)、橘(たちばな)、楡(にれ)、棗(なつめ)、桑(くわ)、竹など八木の火はよくないので、用いないがよい。」


お灸につける火にまで配慮したことがわかります。水晶は凸レンズ状にみがいたものでしょう。子どものころ、理科の実験で、太陽光線を集めて黒紙を燃やしたのと同じやり方ですね。これは、太陽のパワーをいただくという思想です。太陽は陽気のかたまりのようなものですからね。


火打石(ひうちいし)は、江戸時代に使われた発火道具。時代劇で、家を出るときにカチカチッとやっているシーンがありますが、あれが火打石。水晶、石英、めのう、黒曜石などが使われたようです。白石というのは文字通り白い石ですから、石英のことかもしれませんね。


紙燭(ししょく、しそく)とは、木を長さ45センチ、直径1センチほどの棒状に削って、先端を焦がして油を塗り、火をつけるもの。手元を紙で巻くため、「紙燭」と呼びます。また、木を使わずに、紙や布を細くひねって、油を染み込ませたものも、紙燭といいます。ここでは、「香油をぬった」とありますが、「松、橘、柏、枳、楡、棗、桑、竹など八木の火はよくない」とありますから、前者のタイプで、木に香油をぬったのでしょうね。


さて、そのよくないとされた八木、なぜよくないのか?までは書かれていませんが、「艾しゅの大きさ」 に引用されていた『明堂灸経』からの引用だろうと思われます。『鍼灸大成巻九』に「『明堂下経』曰「古来,灸病、忌-松,柏,枳,橘,楡,棗,桑,竹-八木火、切宜避之。…」とありますので、たぶん間違いないでしょう。


千葉県船橋市には八木が谷という地名があって、その名の由来とされる一説に「八種類の木(松、カラタチ、橘、柏、楡、桑、ナツメ、竹)が繁る谷あいの土地」というのがあります(Wikipediaより)。木の種類が、益軒先生が挙げられたものとピッタリと一致しているということは、この8種類にはやはり何かいわくがありそうです。


艾しゅ(がいしゅ)は、「艾しゅの大きさ」 でご説明したとおりです。現代では、艾しゅを皮膚へのせてから、紙燭ではなく、線香を使って火をつけます。その線香へはライターで。今度、益軒先生にならって、太陽光から虫眼鏡を使って採火してみようかしら?


『養生訓』の原文はこちらでどうぞ→学校法人中村学園 『貝原益軒:養生訓ディジタル版』


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