「若く元気盛んな人は、ことに男女の情欲をかたく慎んで、過失が少ないようにしなければならない。欲念を起こさないようにして、腎気を動かしてはいけない。房事を快くするために、烏頭や附子などの熱薬を飲んではいけない。」
若いうちこそ、しっかりと精神的にコントロールして、過ちがないようにということ。これだけを読むと、道徳的な面が強調されているように見えますが、益軒先生のことですから必ずや医学的根拠があるはず。実際、「年齢と交接の回数」 に、「成長の気を損なう」とありました。だから、「腎気を動かしてはいけない」んですね。
これを読むと、昔から人の欲って、変わらないものなんだなぁ~と思います。薬の助けを借りる人は、昔もいたってことですものね。烏頭(うず)も附子(ぶし、ぶす)も、からだを温めて冷えをとるほか、強心・強壮作用があるため、本来なら必要のない薬なのに、飲んじゃう人もいたんでしょうね、きっと。
烏頭と附子は、ハナトリカブトの根を乾燥させた生薬です。母根を烏頭、子根を附子と呼びます。いずれも熱性で辛味であり、アルカロイド性の毒を含んでいますので、生薬にするときにはその毒が薄くなるように処理されます。
附子といえば、狂言で、和尚さんが黒糖を附子と偽って、「触れてはならぬ」と言ってでかけますが、気づいていた小坊主たちがすっかり食べてしまって、和尚さんの大事なものを壊してしまったので、「お詫びに附子をなめて死のうとしたが死ねなかった」と言い訳をするという話がありましたよね?
生薬に関して参考にしたのは、『日本薬草全書』(新日本法規)、『生薬単』(エヌ・ティー・エス)。
『養生訓』の原文はこちらでどうぞ→学校法人中村学園 『貝原益軒:養生訓ディジタル版』