こんばんは^^

   
 落語の付け馬では、付け馬の妓夫(遊女屋の従業員)を連れて店を出た客は、後で倍にして返すなどと、上手い事を言って、たかるです。

  

 朝湯を浴びて、腹ごしらえにと一杯やりながら食事をしたりして、すべて妓夫に代金を払わせるです。
 だって、お金がないから、妓夫を連れているのです。
 
 さらに観音様にお参りしたりと引っぱり回し、近所に伯父さんがいるから、そこで金を借りようと提案。

 早桶屋(棺桶屋・葬儀屋)まで、妓夫を連れていくです。

   

 店の前に妓夫待たせ、客は店の中に入っていくです。

 そして店主に、特大棺桶を注文するのです。

 客はいったん店を出ると、話がついたからと妓夫に言って、早桶屋と引き合わせ、そのまま姿を消してしまうです。

  

 店主が急いで作りますから、なんて言うので、妓夫は金を作るのだと思い、出来るのを待つですね。

 でも、出てきたのは特大棺桶。

  

 妓夫はおどろいて、騙されたのだと、事情を説明するです。

 しかし、見抜けねえ、てめえが間抜けなんだと、店主は特大棺桶の引き取りを迫るです。
「こんな早桶は、よそには回せねえ。金を置いて、とっとと持ってけ」
「もう、お金がありません」

 妓夫が言うと、
「金がないだと!この野郎。おい奴(やっこ)仲(吉原)まで馬に付いて行け」

 付け馬に馬が付いたという、落ちなのでした。

  

 前の記事読んでない方は
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 バイト君一人と若者が、店内に戻ってきたです。

 春としては迷惑です。

 酔っ払いの中年男をつれ、どこかに行って欲しかったです。

  

「あの人は、なんですか」

 はあ?お前が連れてきたんだろ!

「あなたは?」

「クラブ・カレンだけど」

 うん?『憩いの場 セトル』じゃないんだ。

 どうなっているんだ?

「それ、お店の名前?」

「クラブつっても、キャバクラだけど」

   

「それで、なんの御用かしら」

「金を払ってもらいに、来たんだけど」

「何のお金?うちは関係ないと思うけど」

「いや、あの客、店で飲んだんだけど、お金もカードも持ってなくて。それで、コンビニをやってるから、店で払うって言われて、付いてきたんだけど」

「うちとは、何の関係もない人ですよ」

「でも、今もあの客が、この店のすべてを任されてるから、あの女に確認して来いって」

 あの女って、ねぇ^^;そう言ったかもしれないけれど、もう少し言い方があるでしょ。

  

 なんて言ってやろうかと、思いを巡らせていた時、常連客のUさんが店に入ってきたです。

「いらっしゃいませ」

 と、お声かけする春と、若者を見比べながら近寄ってきて、

「何かあったの?」

「いえ、特には」

「そうか。入り口に居たの、●屋の息子だろ。何かあったかと思ったよ」

 同姓が多いので、●屋の息子と呼ばれるですが、自分は神だという妄想を抱いたと噂される、躁うつ病(双極性障害)の人なのです。

 躁期にいろいろと問題を起こすので、有名人でもあるです。

 

(どんな問題を起こしたかは、妹の領分なので『くれなゐ』が書くです。くれなゐのブログは、こちらから👇) 

 

  

「へえ。(やはり)あの人が、●屋の息子なんだ」

 躁病者が、自分は誰よリも優れた人間で、偉いんだと、思いこむことはよくあるです。

 自分は何でもできる超能力者だ。

 なんていう、誇大妄想を抱いたりもしますです。

  

 ●屋の息子であれば、バイトに応募しておきながら、自分には店長が相応しいと、思い込むくらいは簡単だと思うです。

 さらに、全てを任されていると、大言壮語したのでしょうか。

 

●屋の息子って、何ですか。ここの人じゃないんですか」

 若者が話に割り込んできたです。

「だから言ってるでしょ。無関係だって」

「え~と。●屋の息子なんですよね」

「そだよ」

「●屋ってどこですか。近いんすか」

「Uさん知ってる?」

 話には聞くけれど、春は詳しい場所までは知らないです。

 

「クルマで5、6分かな。でも、店はもう閉めちゃってるよ」

「閉めてるって(夜中だから)?」

「1年くらい、前じゃないかな」

 Uさんはあっさりと、若者の期待を裏切るです。

「でも、親はまだ住んでいるとか」

「マンションの1階だから、店は借りてたんじゃないの」

 わずかな希望を打ち砕く、Uさんです。

「はぁ」

  

 ここで、見張り役のバイト君が、タクシーの運転手を連れて、店に戻ってきたです。

「どした?」

「タクシー代、清算して欲しいって」

 バイト君が言うと、運転手が話を引き取り、若者に

「すいませんが、そろそろ営業所に帰らないといけないんで。永くかかるようでしたら、他のクルマを頼んだ方が安いですし」

 タクシーを待たせると、時間料金がかかるです。

「あっ。客はどうした」

 出入り口を見た若者が言ったです。

 春もつられて見たですが、ガラス戸越しに、人影は見えないのです。

「支払いをお願いしたら、どこかに行っちゃいましたけど」

 若者は慌てたです。逃げられては、困るのです。

どっち。どっち行った

「あっ、お客さん、待って。(追いかけるなら)料金払ってから」

 今度は、運転手が慌てて、いまにも店を飛び出していきそうな勢いの若者を、引き留めたです。

 こちらも、そのまま逃げられては、困るのです。

  

「えっ」

 若者は、鳩が豆鉄砲を食ったというか、意表を突かれたといった表情です。

「いま、メーターを止めてきますから」

 若者はその場で、外に出る運転手を見送ったです。

  

 ほむ。少し多めのお金を、サッと渡してすぐ追いかければいいのにと、春は思ったです。

 

 戻ってきた運転手が、1万4千円弱(細かい数字は忘れたです)の金額を告げたのですが、若者は動かないです。

 財布を出そうとしないのです。

  

「どっからきたの」

 妙な間を埋めるように、Uさんが運転手に訊いたです。

○○駅のすぐ近くです」

 場所的には、憩いの場 セトル』と同じです。

「30キロあるから、そんなものかな」

 ざっくり云うと、こちらの地域では、初乗り1.5Km弱。

 以後、300m毎に100円かな。

 深夜だから2割増しです。待ち時間もあるし。

  

「そんな金、持ってないんすけど。ここで、お金を払ってもらう予定だったから」

 おずおずと、若者は言うたです。

 飲食代+つけ馬代(料金徴収料?)+タクシー代(往復分)を受け取れるものと思って、来ているのです。

 

「カードはないの」

 タクシーには、カードリーダーがついていて、カードで精算できるのです。

「もってないけど」

「じゃあ、どうするの」

「どうするって」

 若者が救いを求めるように、春に視線を向けたですが、無視です。

 

「後でじゃ、だめですか」

「誰か、代わりに払ってくれる人いないの」

「家に帰れば、親がいますけど」

「どこなの」

「○✕町」

 春にはどこか分からなかったけれど、運転手は知っていたらしく、

「なら、家まで行きましょうか」

 二人は店を後にしたです。

  

 うむ。付け馬に、付け馬がついちゃった。あは^^

 まあ、昔の馬は現代ではタクシーで、馬子は運転手なのだから、ちょうどいいかもです。

    

春の苑 紅にほふ 桃の花 下照る道に 出で立つをとめ