メメを見失ったジャウトがイラついている。

耳が猫のイカミミ状態だ。

尾行は完璧だと思ったのにどうやって匂いを消したんだ。

 

つむぎが入院中で不在の宮元家にとある人物がやってきた。

執事である爺が応対した。

「こちらに宮元教授は御在宅でしょうか?」

爆発白髪頭の白衣の老人と坊主頭のいかつい男が立っていた。

「あの、失礼ですがどなた様でしょうか?」

「申し遅れました。私、宮元教授と同じ大学にいました干狩と申します」

「主に取り次ぎいたしますので中でお待ちください」

エントランスホールの椅子に掛けて待つ。

階段を上っていく爺が暫くして恰幅の良い主を連れて降りてきた。

 

「やあ、久しぶりじゃないか」と宮元教授がニコニコして降りてきた。

「あれから7年経ちますな。突然お邪魔して申し訳ない。少しお尋ねしたいことがありまして」

あれとは何を意味するのか宮元氏はちょっとだけ嫌な顔をした。

 

「尋ねたいこととは?」

「先般の強盗事件の事ですが・・・」

「まあ、とにかくお入りください」とだだっ広い応接室に通された。

壁に大きな絵が飾ってある大理石のテーブルがある。

助手の築根は緊張しっぱなしだ。

 

博士の話を要約すると強盗と一緒に入った動物の映った監視カメラの映像を見たいと言うことと、つむぎを助けたと言う猫を見たいと言う事の2点だった。

 

「あれは警察に他人に見せるなと言われていまして」

「そうおっしゃらずに。私と教授の仲じゃありませんか」

「う~ん」

宮元氏は口ひげを撫でて何やら渋っている。

 

「見てどうされるのでしょうか?」

「研究対象の動物に似ているかもしれないと思うと興味がありましてな」

「研究対象?」

「ヤマネコです。それも特殊な奴でね。教授の家に押し入った強盗とそのヤマネコが組んでいたかもしれないと」

「人と動物が組む?それは調教したということですか?」

「調教なんてそんな一方的なことじゃありませんね。協力と言った方が良いかもしれません」

「協力ねぇ。ありえませんな」

ところが干狩博士は含み笑いをするばかりだった。

気味が悪いと宮元氏は思ったが。

 

「まあ、いいでしょう。だが、見たことに対しての口外は絶対止めてくださいよ」

「もちろんです」

「石橋さん、あれを用意してください」

爺は部屋の奥にロールスクリーンを降ろすと部屋を暗くした。

プロジェクターから光が出てスクリーンに映像を映し出した。

 

深夜、薄暗い庭の壁から何かが飛び出した。

暗視機能もあるのだがそれでも距離があり過ぎてハッキリとは映っていない。

それは猫の巨大化したもののようだ。

「ヤマネコですな」と博士。

「馬鹿な。体長4メートルはある。虎並みの大きさじゃないか」

「じゃあ馬、に見えますかな?」

「・・・」

 

その動物は背中に人を乗せて2.5メートルを超える壁を難なく飛び越えてきたのだ。

「素晴らしい」と博士。

そうして強盗犯が裏庭に向かって走り去った。

映像はここで一旦途絶える。

次に映ったのは5分ほどしてからだ。

音声は入っていないが目出し帽の男が再度動物の背中にしがみつくとあっという間に塀を飛び越えて去った。

 

 

「あの飛び上がるときの姿勢は猫科の動物特有ですな」

「うむ。しかしあんなに巨大な猫科の動物はいない」

「いるんですよ。それは一度は私の手に入る予定だった」

「なんと。捕獲したのですか?」

「いいえ、売ろうとした人物がこの町にいたのです。直前で逃げられましたがね」

それでここまで、と宮元氏は合点がいった。

 

「テレビのニュースを助手が教えてくれましてね。いやぁ、良いものを見せていただきました。ではついでと言っては何なのですが・・・」

そこまで聞いて宮元氏は「お帰りください」と言った。

飼い猫を見せろと言うのだろう。

「猫は猫です。見せる程の事はない」

「しかし今の巨大ヤマネコと戦って追っ払ったと言うではないですか。なのに写真や画像が一度もマスコミに公開されていませんよね?不自然じゃないですか?お願いします、私に一度見せていただきたい」

 

「お帰りください。あの猫は娘の可愛がっている大切な猫です。好奇の目に晒すものじゃありません」

毅然とする宮本氏に食い下がる干狩。

「なんだか怪しいですな。どうしても見せていただけないのですか?」

「はい」

「7年前の事をほじくり返すわけじゃありませんが、私の言う事を聞いて貰った方が良いと思うのですがね」

干狩に不快感を覚えた宮元氏は「どういう意味ですか。それは脅しですか?」と憤慨して言った。

 

「まあそういきり立ちなさんな。昔の話じゃないですか」

宮元氏は「お引き取りを。爺、お見送りしなさい。私はこれで失礼します」と背を向けた。

 

何と言う執念深さだ。

あのことで脅迫までしおって。

しかもあいつは対象を解剖してはく製にしてしまう。

ミミは変わった猫だが娘の大事な猫に変わりはない。

守ってやらねばならない。

 

当のミミが部屋を出て降りてくる。

「ミミ、今はダメだ」

ミミを抱いて隠すが干狩はそれを見てしまった。

 

 続く