ジャウトは人化して同じく人化しているメメを尾行した。
「匂う、メスのヤマネコの匂いがプンプンする」
それはメメも感じていた。
ヤマネコの匂いがする。
後ろを振り返るが誰も居ない。
その時だった。
「メメ、怪しい男がメメをつけてるぞ、気を付けろ」
アキトが知らせてくれた。
「それとさっきはごめんな。言い過ぎたよ」
「わたしもイライラしてた。ごめん」
メメは角まで来ると一気に走った。
そして音もなく塀を軽々と飛び越えた。
「あ!いない!」
ジャウトは自分も匂いでバレるだろうと距離を置いていたせいで見失った。
角を曲がったが既にメメの姿は無かった。
「俺をまいたつもりか」
鼻を空に向けると匂いのする方を探す。
「こっちか」
塀の向こうだと分かると通行人がいるにも関わらず塀を飛び越えた。
皆何事が起こったのかと驚いた。
メメは他人の家の庭を素早く駆けぬけ飛び上がると屋根の上を走っていく。
「いた!」
ジャウトも後を追う。
メメはわざと動物病院へは向かわず以前捕まってしまった神姫朗の叔父、羽佐間家の近くにあるカレー屋に飛び込んだ。
「いらっしゃいませ」
店員に声を掛けられたが答えず、ドアからそっと外を覗く。
「あの・・・」
「しー!」
カレー屋の前を太ったゲジゲジ眉の男が通り過ぎていく。
「あいつだ!」
「あの~、お客様、ご注文は何になさいますか?」
「あ、すみません。お邪魔しました」
「なんなのよ!」
メメは怒っている店員を置いて外に出るともと来た方向へと引き返して行く。
カレーの匂いでヤマネコの匂いがかき消されたためジャウトはメメに気が付かずに真っすぐ行ってしまった。
やっとのことで津田動物病院に着いた。
誰も見ていないことを確認して中に入った。
女性の受付の人が動物を連れていないメメに問いかける。
「何か御用ですか?」
「あの、名嘉村と言いますが、こちらにミミちゃんと言う猫が・・・」
「ミミちゃんの飼い主の方ですか?」
「いえ、友人の飼ってる猫ちゃんなんですがお見舞いがしたくて。昨日も来たんですが」
そうだったのですね、ちょっとお待ちくださいと女性は奥に引っ込んだ。
看護士の女性が奥の廊下へとメメを導いた。
ガラスで仕切られた部屋のケースの中にミミが横たわっている。
苦しそうに小さく息をしている。
可哀そうなミミ。
「怪我の具合はどうなんでしょう?」
「危ない状態が続いています」
「暫く見てて良いですか?」
「はい」
忙しいのだろうか、看護師は直ぐに立ち去った。
どこかにドアは無いかと思っていたらあるにはあったが診察室から丸見えだった。
チャンスを伺うメメ。
獣医と看護師が犬を抱いて別室に移動した。
何か処置があるのだろう。
今だ、とメメはドアを開けてケースが並んでいる部屋に素早く入った。
ケースの中のミミの包帯を外す。
「わたしが分かる?ミミ」
返事がない。
「今助けてあげる」
傷口を舐めるメメ。
「わたしの寿命を分けてあげる。だから良くなって、ミミ」
ペロペロと傷を舐めると炎症が消えていく。
傷口もやがて消えた。
それと入れ替わりにメメの体力が奪われて行く。
酷いめまいと動悸がする。
メメは自分の命の源を妹のミミに分け与えているのだ。
赤味を増すミミの肉球や鼻。
荒かった息遣いもスースーと穏やかになった。
手足がピクピクと動いた。
「ミミ、大丈夫よ。お姉ちゃんが悪い部分を治して・・・あげたわ」
その場に倒れ込むメメ。
ミミは咄嗟に目を覚ました。
長い間意識が無く、悪夢の中を漂っていたミミの意識が戻った。
「ここどこ?」
包帯がほどかれ、傷が消えていた。
何が何だか分からない。
自分はいったいどうしてここにいるのか?
徐々に思い出した。
あの夜、宮元つむぎの家に侵入した泥棒とジャウト。
そのジャウトと戦って怪我をしたんだ。
床を見ると人化した姉が倒れていた。
「お姉ちゃん?どうして・・・あ!!」
そう言いかけて全てが分かった!
メメは自分の傷を治そうと力を使い果たしたんだ!
メメに飛びついて頬を舐めるミミ。
「お姉ちゃん、こんなになって・・・ごめんね」と涙がこぼれる。
命を救ってくれた姉の頬に涙が落ちる。
「お姉ちゃん・・・ごめんなさい」
「あ、ミミ。気が付いたんだ・・・良かった」
「お姉ちゃん!」
メメの頬を何度も舐めるミミ。
「治ったのね。心配したわ」
そのミミを抱きしめるメメ。
「おねえぢゃん・・・」
「あ!」
見ると廊下から獣医と看護師が群がって見ていた。
とりあえずメメはつむぎに言葉を飛ばしてメメの回復を連絡したらすごく喜んでくれた。
「つむぎさんも倒れたけど今は安静にしてるみたい」
「そう、良かったわ」とミミ。
「つむぎさんを泥棒とジャウトから守ったのね」
「負けちゃったけどね」
「ううん、立派よ。でももう無茶しないでね」
「うん」
暫くするとつむぎからミミに返事が来た。
「爺が動物病院にあなたを迎えに行くらしいから待っててね」
暫くはつむぎの屋敷からは出られないだろうけど安全だと思った。
しかし安全とまではいかないことが起こった。
続く