真っ暗な袋の中でメメは爪を立てて抵抗したが丈夫な袋は傷一つ付かない。

暴れていたら何かでガツンと叩かれた。

シャー!!

メメは荒い息を一つ立てると元のヤマネコのサイズに戻っていく。

 

「なんだ?!猛獣?」

謎の人物は突然膨らんだ袋に驚いているようだ。

「この声!」

聞いたことのある声だ。

 

ヤマネコの爪で袋を引き裂く。

袋から覗く鋭い爪先に驚いた人物は慌てて何かに袋ごと押し込んだ。

「いったいどういう事なんだ?中に入ってるのはあの猫じゃないのか?」

急に膨らんだ袋。

そして分厚い布袋を引き裂いた鋭利な爪。

そいつは金属の檻にメメを袋ごと入れた。

 

「アキトさん、私を連れ去った人はどうもあの朗って人みたいです」

「え?朗君が?」

「声が朗さんの声でした。大きくなって袋を破りかけたのですが檻に入れられたみたいです」

「メメ、怪しまれるから猫に戻るんだ」

「はい」

「朗君は猫カフェ勤務らしいから場所を検索してみる。出れそうか?」

「頑丈で駄目です」

「泥棒め。とにかく公園目指して行くからね」

 

走るアキト。

公園に着いた。

スマホで現在位置に一番近い猫カフェを検索すると「猫カフェにゃん太」が引っ掛かった。

今行くからな、メメ。

 

雑居ビルの2階へと続く階段を駆け上がり廊下の一番手前のドアを開けて飛び込んだ。

「あの・・・」

「いらっしゃいませ」

あ!

受付らしき女性店員のエプロンは肉球柄。

朗の着ていた服のと同じデザインだ。

間違いない!

 

 

「こちらに神姫朗って人来ていませんか?!」

「お客様ですか?」

「いえ、こちらの店員さんです」

「いませんね」

チェーン店にも関連業者にもそんな人は居ないと言う。

そんなバカな。

 

どうしましたか?と口ひげの中年男性が出てきた。

女性店員が顛末を話す。

「店長です。お客様のお知り合いでしょうか?神姫って人はうちにはいませんね」

「いえ、この辺りの猫カフェに勤めてて彼の着ている服のロゴがここのと一緒なんです」

「服もネット販売してますので・・・それじゃないですか?」

常連にも居ないという。

 

「そうですか・・・」

「その人が何か?」

「いえ、良いんです」

どうにも怪しい。

ガラスのドアの向こうには猫たちとお客さんがくつろいでいたが何処にもメメは居ない。

「ご用はそれだけですか?」

「す、すみません」

 

困った。

アキトは二階の猫カフェ「にゃん太」を見上げて立ち尽くす。

 

テレパシーを飛ばす。

「メメ、猫カフェには朗って人は居ないって。今どんな状況なんだ?」

「真っ暗です。鉄製の長細い部屋の机の上に置かれてるの」

「音とか匂いとかしない?」

「時々カンカンって音が続くの」

「もしかして電車の遮断機の音かな?」

「分からない。壁が邪魔して良く分からないわ」

「もう少し辛抱してくれ。絶対助け出すからな」

 

とぼとぼと歩いて立ち去るアキトを店長と女性店員が見下ろしていた。

 

「朗を付け回してる借金取りが去ったな」

「あの人、そんなに悪質そうには見えませんでしたけど」

「ま、とにかく暫く用心してあげよう」

「はい」

 

ここじゃないとすると朗の家かもしれない。

地下室か何かか?

とりあえず帰った。

 

メメが来てからはあの怖い夢も見なくなった。

スリスリしてくるメメ。

僕の事を心配してくれるメメ。

公園に行って嬉しそうにしているメメ。

可愛いメメ。

何とか助け出したい。

 

メメも頑丈な檻に入れられていた。

 

暗くても見えるヤマネコの目で見まわしたが窓はおろか何も置いていない。

天井には長細い蛍光灯と左の壁に換気口と何かの箱が付いている。

ドアの右には蛍光灯のスイッチ。

 

その鉄のドアが開いた。

灯りを付けて朗が入って来た。

 

「メメちゃん、おなかすいたろう?ご飯だよ」

檻の下から皿を差し込んで檻の上からカリカリをパラパラと落とす。

皿はチャラチャラと音を立てる。

カリカリは半分ぐらいが外に飛び散った。

 

メメは低く唸って毛を逆立てて朗を威嚇した。

「そんなに怒らないで仲良くしようぜ」

ギャ!と飛び掛かって引っ掻こうとするが朗は飛び退いた。

「おお怖!まるでヤマネコみたいだな。でもまあいつまで強情張れるかな?フフフ」

朗は立ち去ったがドアの隙間から明るい光と花壇のような庭園のような景色がちらっと見えた。

ここは部屋の一室じゃないんだ。

 

メメは朗が置いて行ったカリカリを食べずに丸くなった。

 

思い出すのは故郷の事。

 

(ヤマネコの)お母さんとお父さんがメメとメメの妹ミミを卵に入れた。

「この卵に入って。川に流すからね。大丈夫、流れが緩くなるまで誰にも割る事は出来ません」

「メメ、ミミ、元気でな」

「お父さん、お母さん!」

 

二つの卵がゆっくりと閉じていく。

二つの卵は滝へと続く渓流に流された。

追っ手が来たが二つの卵は滝壺へ流れたので追うのをやめた。

「お父さん、お母さん」

メメは泣いていた。

滝から落下したショックで気を失ったメメ。

そんなメメを優しく拾い上げてくれたのはアキトさん。

 

アキトさんに抱きつきたい。

優しく撫でられたい。

側で眠りたい。

 

アキトさんに会いたい。

 

 続く