今日は金曜日。

明日は休日。

 

毎週休日は友人と外に飛び立っているのでワクワクします。

何処に飛び立とうかな?

湖のほとり?

山の渓流?

それとも里山の花を見に行く?

 

僕、ヨッシーの羽根はね、瑠璃色をしてるんだよ。

友人のムラさんはね、ルビー色をしてるんだ。

二人は古くからの友人でね、このケージ(籠社会)で生まれ育ったんだよ。

 

家族はいません。

いや、もしかしたら他所のケージにいるかもしれないけどね。

それは飼い主さんのみが知ってることだし、僕らがそれを知ったからと言って親兄弟に会いに行けるはずもないんだ。

 

首輪に付けた装置は2時間にセットされていて空を飛んでいても2時間経ったら元居たケージに帰りたくなるんだ。

不思議な首輪なんだよ。


空は良いよ~。

限りなく広くてさ。

横も縦も上下も前後も四方八方どう飛んでも何にもぶち当たりはしない。

だから思いっきり自慢の羽根を広げて飛べるんだ。

鉄柵なんか気にせずに。

 

2時間飛ぶとお腹もペコペコだ。

外にある木の実を食べることもあるけどあんまり美味しくない。

友達は虫を食べるんだけど外の虫は気持ち悪いって言って突きもしない。

そう、僕らはケージで出されるご飯が一番美味しいって知っている。

 

だから外に住んでいる連中を哀れに思う。

あんな小さくて不味い木の実を食べて池の水を飲まなきゃならない。

それだっていつもあるとは限らない。

 

木に止まったまま寒さに震えながら寝なきゃならない。

それにタカだって狙っていていつも怯えて暮らさなきゃならない。

 

そんな生活は嫌だ。

僕もムラさんも2時間の自由を満喫したあとは他の仲間と「今日は何処に行った?」って話し合いながら美味しい餌をつつくのが楽しいんだよ。

 

「あ~今日のあいつら、可哀そうだよな」

「あの茶色い奴らか」

「そうそう、稲刈りした後の稲のおこぼれを漁っててさ」

「惨めったらしいったらありゃしねえな」

そう言って僕らは昼間あった茶色い奴らの事を笑いあう。

 

すると水色の羽根のマー君が「でも、俺、聞いちゃったんだ」と言う。

 

「何を?」

「そのさぁ、茶色い奴らがさぁ、俺らを見て、可哀そうな籠の奴らだ、って笑うのを」

「へ?」

「ん?誰の事が可哀そうなんだ?」

「だから俺らの事が・・・」

「ちょ!あんまり笑わさないでくれ、逆じゃね?それ」

「そうだ、逆じゃん。奴らの方が断然可哀そうだぜ」

「そうか・・・俺さ、ケージに帰ってから考えたんだけど、ここってさ、守られてるけど自由はねえじゃん」

「いやいや、マー君どうした?2時間だけど遊びに行けるし安全だし良い巣だってあるし最高じゃないか」

「そうだよ。不満なんてある訳ないよ。茶色い奴らの負け惜しみに決まってるよ」

 

「そ、そうかな」

「そうだよ。僕らほど恵まれてる暮らしをしてるものはいないよ」

「そう・・・だよな。俺どうかしてた」

「また来週遊びに行こう。そして茶色い奴らを見て笑ってやろうぜ」

「う・・・うん・・・」

 

ケージにいるから安全で不自由はない。

週末には楽しい外出があってワクワクする。

普段は美しい声で鳴いてご主人様たちを喜ばせる仕事もある。

いっぱい働いていっぱい遊んで、それでいい。

 

ところが・・・。

ある日を境にご主人様を見なくなった。

その時はまだのんきなものだったが、二日経ち、三日経った頃も状況は変わらなかった。

 

居ない!

ご主人様が居ない!

どこに行ったんだ?

 

三羽は次第に焦りだした。

 

窓の外に茶色い奴らがやって来て憐れむ目つきで僕らを眺めている。

そのうちの一羽はミミズを美味しそうに飲み込みやがった。

 

「あんなもの・・・」

「美味しそう・・・」

「いや、お前正気か?あんな臭いミミズなんか・・・」

そう言ったときムラさんのお腹がグーっと鳴った。

もう餌箱の餌も尽きて水も腐っている。

 

「誰か・・・僕たちをここから出してくれ」

「外に出たいんだ」

マー君は半泣きになって叫んだし、ムラさんは鉄の柵に体当たりしては跳ね返されてフンで汚れた地面に落ちた。

「外に出たい。柵の外に」

「出たとしてどうする?ミミズ食うか?」

「あぁ・・・それも嫌だ」

「でも腹減った」

 

結局僕らは外に出ても何もできやしない籠のとりなんだ。

 

 

 

+*+*+*+*+

 

昼休みの会社の屋上。

 

三人のサラリーマンが弁当を食っている。

バスケットやバレーボールが出来るぐらい広いその屋上は金網が張ってあって鳥かごのようだ。

 

「村さんは来月定年でしたね」と吉田が聞いた。

「おう。長かったなぁ・・・」

「今どんな気分ですか?」と池田正志ことマー君が聞く。

「そうだな。籠の外に出る とり みたいな気分だよ」

「いやいや、籠ですか?会社は」マー君がおどける。

 

「籠みてえなもんじゃねえか。朝から晩までピーピー鳴いて」

「じゃあ、聞きますがもし僕らが籠の とり だとして、籠が突然無くなったらバーッて飛び出しますか?」

「あぁ・・・それはねえかもな」と村山さん。

「どうしてですか?」

 

「籠の とり はな、籠が無いと不安なんだ。そこを離れるとどうしていいか分からん。餌のとり方も敵からの逃げ方も巣の作り方も何も分からない。だからきっと籠の近くでじっとしてるか家の周り飛び回ってるかだな」

「そんなもんですかね」

 

「俺も来月から何をしたらいいか分からん」

わっはっはと笑ったが村さんは結構マジで言っている。

 

「なんでですか、映画だって平日なら空いてるし、旅行だって日数を気にせず行けるし、それこそ自由じゃないですか」

「働いてるからこその娯楽ってこともある」

「じゃあ村さんの作る美味しいコーヒーあるじゃないですか。喫茶店をやるとか」

「趣味を仕事にしたら駄目だ。結局しんどくなる。それよか・・・ほら、あそこ見て見なよ」

 

そこには金網があってその向こうの青空から飛んできたインコらしい とり が一羽いた。

 

 

「あいつもきっと思ってる。こんなはずじゃなかったって」

インコはチュルチュルと鳴いて僕らの頭上から飛び立った。

何処か行く当てはあるんだろうか?

 

それとも籠を探しているのだろうか?

 

   終