Case02
「返信が来ない。」



ご主人が、スマホを何度も見ている。

見る。

置く。

また見る。

……忙しい。

「まだ返信ないな」

さっきから、こればかり。

どうやら誰かにLINEを送ったらしい。

「忙しいのかな」

「いや、怒ってるのかな」

「もしかして、嫌われた?」

また始まった。

ボクには、よく分からない。

ボクなら、返事がなかったら――

寝る。

それだけだ。

ご主人はスマホを伏せた。

でも、三十秒もしないうちに、また手に取る。

「既読ついてる……」

それを見て、さらに悩んでいる。

既読なら、読んだんだからいいじゃないか。

……と思う。

でも、人間にはそう簡単じゃないらしい。

「なんで返してくれないんだろう」

「変なこと送ったかな」

「追いLINEしたら、うざいかな」

ご主人の頭の中では、もう何本もの物語が
始まっている。

ボクは隣で毛づくろいをする。

人間は、すごい。

たった一つの「返信がない」という出来事から、

ここまで色々なことを考えられる。

でも――

まだ返信が来ていない。

それだけだ。

怒っているのかもしれない。

忙しいのかもしれない。

寝ているのかもしれない。

スマホを見ていないだけかもしれない。

本当のことは、本人にしか分からない。

ご主人は、またスマホを見た。

そして小さく、

「まあ、いいか」

と言った。

ようやくスマホを置いた。

ボクは、その隙にご主人の膝に乗った。

「……お前は、返信早いな」

そりゃそうだ。

呼ばれたら来る。

呼ばれなくても、気が向いたら来る。

それだけ。

人間は、

返事が来るまでの時間にまで、意味をつけたがる。

ボクには、それがよく分からない。

でも――

待っている時間が長いと、
心細くなることくらいは、

なんとなく分かる。

だから今日は、

もう少しここにいてあげよう。

……ごはんの時間まで。