アンリ·バルダ先生、サントリーホールでのリサイタル。
ショパンソナタ 第2番 葬送
第3楽章 Marche funèbre
また話が戻り恐縮ですが、2019年名古屋公演では、この第3楽章の演奏が、このソナタの白眉だったのです。
その時私は思った…………こんな危険な事をして、成功させた演奏を、私は、知らない。
バルダ先生は、その時、いったい何をしたのか………。
中間部の静かな美しい部分を、透明なソノリティの完璧な最弱音で全てを整え、聴衆に、嘆きの後の浄化の世界を見せたのです。
美しい、完璧なソノリティの静かな世界でした。
激しい2楽章の後での、この完全にコントロールされた響きの中での葬送の嘆きの浄化の表現。
ただただ、うっとりし、感嘆するだけでした。
さて今回のサントリーホールで、バルダ先生、今度はいったいどう来るのかと、私は思っていたのです。
さて葬送のマーチは、重々しい中に、どこか荘厳な趣を持ち、始まる。
あの白眉だった最弱音中間部を、今度は、どう表現されるか…………ドキドキです。
何と今度は……………たっぷりとしたエスプレッシーヴォで歌われ、サントリーホールの中で、その歌は、隅から隅まで響いたのでした。
名古屋公演は、小さめなホールだったから、微妙な表現で聴かせてくれたのね………ちょっと遅いけれど、今頃、解ったわ💦。
第4楽章 Finale
こういうのは、バルダ先生めちゃくちゃに上手いのです。
今回は何故か、弾かれる前から、予想がついた。
そしてこれも、完璧に凄かった。
骨太のユニゾンのメロディーは、不思議な不吉さを保ち、最初から最後まで、縦横無尽に動き回る。
天から地へと降りてきたかのような、このうごめく何かは、いったいここで何をしているのか………。
不気味な音楽ではあるが、バルダ先生の表現、今回はドラマティック。
そしてさらに私は、何故か妙にリアルなものを感じていた。
そして最後、突然の様に、B 、変ロ音のオクターヴが鳴り、曲は終わる。
あれは勝利の鐘の音か、或いはただ一つ鳴らされた、弔いの鐘の音か…………。
名古屋公演では、細心の神経を使っての葬送の後、第4楽章は、吹き渡る風の様に彈き終え、また違う表現で聴かせて頂いたのでした。
さて今回、前半の締めのこの第2番のソナタ、サントリーホールの空間を満たして余りある、素晴らしいショパンでした。
まだ、前半がおわっただけなのですが、この充実感………。
後半が、さらに楽しみに。