初代国立劇場さよなら特別公演 9月 | 歌舞伎好きの手帖

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主に歌舞伎観劇の感想

「妹背山女庭訓」

太宰後室定高(中村時蔵) 蘇我入鹿(坂東亀蔵) 久我之助清舟(中村萬太郎) 腰元小菊(市村橘太郎) 采女の局(坂東新悟) 太宰息女雛鳥(中村梅枝) 大判事清澄(尾上松緑)他

 

国立劇場のさよなら公演は「妹背山」の通し上演である。9月は太宰と大判事の物語、10月はお三輪の物語。

2ヶ月とも見るべきだろうが、「御殿」のお三輪がいじめられるシーンは見るのが辛いので、大好きな「吉野川」が上演される9月でとどめておく。

初めて歌舞伎を見たのが、高校生の時に連れてゆかれた「歌舞伎鑑賞教室」だった。演目は菊五郎劇団の「魚屋宗五郎」、解説は亡き尾上松助さん、こんな贅沢な出会いを国立劇場はさせてくれたのだった。

 

「春日野小松原」「太宰館」と初見のシーンが続く。「春日野・・・」は、春日大社へお参りする途中の、鹿がのんびりと遊んでいるあたりだろうか。深呼吸したくなるあのあたりの景色を思い浮かべながら舞台を見ていると、一層これからの辛い展開に心が痛む。
深窓育ちだが情熱を内に秘めた梅枝さんの雛鳥と、賢く意志の強そうな萬太郎さんの久我之助の取り合わせ。「実は・・」というハッピーエンドがあってほしいなあと詮無いことを思ってしまった。頭の回転が速そうな橘太郎さんの小菊が場を救ってくれる。吉本新喜劇なら間違いなく小菊が主役だろうな。
「太宰館」で、本公演の主役二人が登場。時蔵さんの定高はもっと早く演じてほしい役だった。松緑さんの大判事は、どうしても先人を意識しているような力みはあったが概ね自然体で演じており、彼らしい人間臭いキャラクタになっていて今後が楽しみである。ただ役の上では、大判事の方が定高に食って掛かる場面が多く苦笑。亀蔵さんの蘇我入鹿にも戦慄させられた。
「吉野川」は、前方真ん中の席で見ていたのでまさに川の中。大判事定高が、対立から子供の犠牲によって和解へ至るまでを、贅沢な形で見届けることが出来た(寝たけど・・・)。領地争いは妥協を許さない問題ではあるが、解決の代償が大きすぎる。今でも。