「花の御所始末」
足利義教(松本幸四郎) 畠山満家(中村芝翫) 安積行秀(片岡愛之助) 足利義嗣(坂東亀蔵) 陰陽師土御門有世(中村亀鶴) 茶道珍才(澤村宗之助) 同重才(大谷廣太郎) 畠山左馬之助(市川染五郎) 執事一色蔵人(市村橘太郎) 同日野忠雅(松本錦吾) 明の使節雷春(澤村由次郎) 廉子(市川高麗蔵) 足利義満(河原崎権十郎) 入江(中村雀右衛門)他
実在の人物が登場するけれど、借りているのはイメージだけかな。迫力満点で見応えのある、ユニークな演目だった。独裁的な恐怖政治を敷き、やがて暗殺される室町幕府六代将軍足利義教をリチャード三世と重ね、父や兄を殺して権力の頂点に昇りつめた男が破滅してゆく様子を描いた御芝居で、作者は宇野信夫、昭和49年帝劇での初演だそう。
幸四郎さんはこの手の悪人がよく似合うし、芝翫さんも権力欲の塊である満家をねっとりと演じていた。義教から離れず汚れ役を一身に担う珍才・重才の無表情が不気味だった。雀右衛門さんが亀蔵さんや幸四郎さんの妹役で染五郎さんと恋仲という設定であるのを自然に受け入れられてしまうのがすごい。実の息子達に恐れを覚えて苦悩する母親を演じる高麗蔵さんもよかった。
…ただBGMが極めてダサイ。今回の上演に合わせて作り直したのだとしたらがっかりだ。江戸時代の音楽がかえって古びないことの不思議さを思った。
「髑髏尼」
髑髏尼(坂東玉三郎) 平重衡の亡霊(片岡愛之助) 鐘楼守七兵衛(中村福之助) 善信尼(河合雪之丞) 町の女小環(中村歌女之丞) 女房長門(坂東新悟) 蒲原太郎正重(中村亀鶴) 烏男(市川男女蔵) 阿証坊印西(中村鴈治郎)他
平重衡の妻新中納言局は、我が子壽王丸と共に逃亡中を北条方に襲われ、夫の忘れ形見である壽王丸を殺されてしまう。局は阿証坊印西の手で剃髪するが、我が子の首と愛用の手車をたずさえてさすらい歩くところから髑髏尼と呼ばれ、修行者の中にも加えられず人々に疎んじられた。最後は今宮の木津から漁船に乗って沖へ出、首と共に入水したという。この説話をもとに吉井勇が書き、大正6年に初演されたのが本作である。「源平盛衰記」に出ている説話だそうだ。古今東西、戦争は決して戦いの場だけで済まないのが悲しく辛い。
芝居はまさに平家の血を引く子供達を北条の武士が(同じ一族だが…(´;ω;`))探し出し、容赦なく殺害してゆく場面から始まる。血のにおいの中で人々が脅えている様子がよく伝わってくる。男女蔵さんの烏男は冷ややかな性根を感じさせ、このような役を自然に演じられるようになった彼に感嘆した。
感嘆といえば、七兵衛を演じた福之助さんに対しても同様。正直顔がなあ…と思うのだが、美しい髑髏尼へ恋心を抱く醜い鐘楼守(どこかで見たような設定)という難しい役どころをきっちり演じきった。玉三郎様の御芝居で何度か見ているので、抜擢の度に努力しているのだと思う。御芝居では、祈祷を行う髑髏尼の傍まで寄ってきた七兵衛が、暴走して彼女を手にかけた後自分も死ぬという展開。玉三郎様は安定の美しさ、七兵衛に殺される瞬間に被り物をとって剃髪した頭を見せるところにどぎまぎさせられる。
よく考えれば七兵衛の存在が唐突で(だから福之助さんは本当に大変だったろう)、彼の「戦争未亡人」への執着を見せるなら前半はもっと端折った方がいいんじゃないかと思ったりするが、何となくイメージだけで陶酔出来てしまった。久しぶりに歌舞伎座に立つ雪之丞さんを見られたのも嬉しくて、次は是非緑郎さんと一緒に出てほしいと強く願った。
福之助さん応援するよ~