新緑が山を彩り、初夏の使者キビタキがしきりと囀り始めた。



山を歩きながら思う。


自分の足が動かなくなったらどうする?


他人の行動が原因で山を自由に歩けなくなったら?


今までできた普通の生活が送れなくなったら?



世を拗ねたり、相手を恨んだり、塞ぎ込んで絶望したり、主体的に行動することなんてできなくなるのではないだろうか。



それを10代の若さで乗り越えようとするAちゃんの話の続きをしたいと思う。




小学校を卒業した彼女は、僕の長女と同じ地元の公立中学校へ進学した。


小学校と比べれば家からの距離が近い中学校。


それでも健常者の足で15分ほどかかる坂道含みの通学路だ。



Aちゃんは自分で車椅子を操り、いつしかひとりで登校するようになった。



会社に行く途中、遠目に彼女の車椅子が見えると心の中で頑張れ、とつぶやく。



いや、お前が頑張れよと言われちゃうな。


僕なんかよりよほど強靭な精神力を持っているんだから。




暫くしてママさんからAちゃんは車椅子バスケをしている、という話を聞いた。


自由がきかない体だが、出来ること・情熱を注げることはある。


もちろん学校での勉強や活動も普通にこなしていく。


運動会もクラスメートが支えて一緒に参加、元気なところを見せてくれた。




高校は長女が大阪の学校へ進学したこともあり別々になった。


それでもお母さん同士の交流は続く。


ときにAちゃんの様子を教えてくれる。


車椅子バスケにますます熱中しているとのこと、その時点ですごいなあと思う。




スポーツが得意な遺伝子を受け継いだのだろう、彼女はそこで頭角を現し始めた。



なんと、高校2年生で次世代強化指定選手に選ばれたのだ。



次の目標はパリで開催されるパラリンピックへの出場だ。



女子車椅子バスケ日本代表は、前大会は自国開催特典によって出場権を得たものの、自力出場は16年前の北京大会以来途絶えている。



彼女は若年ということもあって控えではあったがパラリンピック予選大会の代表メンバーに選出され、最終決戦に挑んだ。


そして4月17日からのクロスオーバー戦にてAちゃんも出場して勝利を掴み、ついにパリ行きの出場権を勝ち取った!



このメンバーがそのままパラリンピック2024に選出されるかはまだわからないそうだ。



だけどAちゃんなら、もし選ばれなかったとしても次の目標に向けてまた立ち上がるだろう。



だって、不撓不屈のココロをもつAちゃんなのだから。



そして何度も何度も自分の力で立ち上がる彼女には必要ないかもしれないが、僕はそーっと、だけど心からのエールを贈っている。