あなたに恋をして…

あなたに恋をして…

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アラン…
 
Happy Birthday!
 
だいぶご無沙汰してますが、この日のためにカムバックです!!!(笑)
 
 
最近はめっきりお話を書くこともないのでお祝いのお話なんて書けないと不安だったのですが、毎年言ってるけど出来はさておきお祝いしたい気持ちが大切!
とにかく表現しましょーって感じで。
 
 

その気持ちの名前を(アランBD2024)

 

「あ、レイナちゃん」

レイナと庭を散策していると、嫌なヤツが声をかけてきた。

俺が一人で歩いていても声をかけてくることはあるが、基本的に無視を決め込む。

しかし今日ヤツが話しかけた相手はレイナで、当然レイナは足を止めるから俺も立ち止まらざるを得ない。

「こんにちは、レオ」

「こんにちは。レイナちゃんに会いたくて探してたんだよ」

そして俺のことはまるで目に入っていないかのように、レイナと話し始めた。

「レイナちゃんは1月23日が何の日か知ってる?」

「……1月23日?」

俺は口の中だけで小さく舌打ちをする。

「うん。実はね」

レオが勿体ぶるように言葉を切って、俺をチラリと見た。

「俺……の誕生日なんだ」

 

そして1月23日。

今日……俺、の誕生日でもある。

だからといって特段予定がある訳ではない。365日のうちのたかが1日。

いつもと変わらない日常……いや、レイナが出掛けてしまったが故に暇だ。

 

この間レオが話し掛けてきた時、レイナは驚いて何故か俺の顔を見て何かを言いかけ、その後ハッとしたように視線を逸らした後、再びレオを見た。

レオは吹き出すように笑うと、その日に出掛けようとレイナを誘った。

レイナはしばらく考え込んだあと、その誘いを了承し……そして今に至る。

 

あの時、俺が同行するかどうか考える前に、レオがニヤニヤしながら俺に告げた。

『デートについて来るなんて無粋じゃない?』

レオの言葉は不愉快だが、確かに同行したところで退屈なだけだ。

そう考えれば面倒な役目を免除されて嬉しいはずなのに、何故かむしゃくしゃした気分が拭えない。

一緒に行きたかった訳じゃない。

ましてや誕生日を祝ってほしかったなんてガキみたいな思いはない。

それなのにこのモヤモヤは何なんだ?

自分で自分の気持ちの説明がつかず、ただ苛立ちがつのる。

「クソ……っ!」

この苛立ちは剣にぶつけるしかなく、俺はいつもの如くひたすらに剣を振っていた。

訓練中の騎士も何人かいたが、機嫌の悪い俺には近寄ってこない。

「おい、誰か相手しろ」

「ひぇ……きょ、今日はもう上がろうと思っていたので失礼しますっ……!」

部下たちは蜘蛛の子を散らすように退散し、俺は一人闘技場に残された。

 

最近はなんだかんだとレイナと一緒にいることが殆どだったから、ぽっかりと空いた時間に何をしたら良いのか戸惑う。

今頃アイツはレオと一緒に過ごしているのかと思い浮かべたところで、イライラとした気分がまた湧き上がってきて、そのことに更に苛立つ悪循環。

余計な思いを振り払おうと再び剣を構えたところで、ジルが血相を変えて走ってきた。

「アラン殿!城下でプリンセスとレオが襲われたと言う一報が……!」

 

俺は部下への指示をジルに託すと、すぐさま単身城下へと馬を走らせた。

街はざわついていて、騒ぎが起こっている場所はすぐ分かった。

馬から下りると、俺は路地裏へ駆け込む。

果たしてそこにはレイナを背に庇うレオがいた。

レオとレイナの背後は壁だが、周りをぐるりとガラの悪い奴らに取り囲まれている。

相手は5人。俺一人で相手をするには少々分が悪い。

しかも奴らは最近物騒な事件を立て続けに起こしている裏組織の一部。だとすると他にも仲間がいるはずだ。この場だけを抑えても、次々と仲間が現れると厄介だ。

 

「アラン」

どうしたものかと戦略を頭の中で練っていると、小声で呼ばれ袖を引かれた。

見れば顔なじみの酒屋だ。

「レオたちのいる横の細い路地に入れば、俺の店の裏口があるんだ。あいつらの気を逸らしてくれれば店に匿える」

俺はもう一度状況を見定める。

レオがこっちの意図に気づいてくれれば、隙をついて逃げ込むことは出来るだろう。

ただ俺がこちらから切り込んで、敵を惹きつけている間に逆方向に逃げたらマズイことになるかもしれない。

奴等の目的が何なのか、それが分かればこちらの動き方ももう少し考えられるが……。

そんなことを思い巡らせていると、レオの声が聞こえてきた。

 

「お前ら、逆恨みか?」

あからさまに嘲るような響きを持ったその言葉に、奴等は怒りを顕にする。

「だったら何だ?邪魔なものは消す、それだけだ」

「へぇ?俺はお前らに会ったこともないんだけどな」

「はっ!お前が俺たちを捉えようと動いてんのは知ってんだよ。何人もの仲間がお前のせいで牢屋行きだ。恨みがねぇ訳ないだろう」

なるほど。

レオが組織の殲滅のため動いているのは俺も知っていた。

俺が物理的に奴等を捕縛するのに対し、レオは捕らえた奴等や周囲から情報を集めて資金源や協力者などを潰して組織の弱体化を図っている。

 

「じゃあ、俺に対しても相当恨みがあるんだろうな」

「アラン=クロフォード!」

消していた気配を明確な殺気に変えて姿を見せると、男は歯ぎしりの音が聞こえそうなほど顔を歪めた。

レオと違って、俺はこの中のリーダーらしい男とは面識がある。

こいつの眼の前で何人もの仲間を捕らえたが、こいつ自身は辛くも取り逃がした相手だ。ここで会ったのもラッキーと言えるかもしれない。

「……」

レオにチラリと視線をやると、いつもと変わらず不敵に笑っていた。

そしてほんの僅か指先を横の小路に向けて曲げてみせた。

レイナも思ったより落ち着いている。

俺は意識を眼の前の光景に留めたまま、瞼を閉じる。

感覚が研ぎ澄まされ、雑音が消え、周囲の状況が手に取るように脳裏に浮かんでくる。

目を開けると、俺はゆっくりと剣を鞘から抜いた。

リーダーらしき男は眉間のシワを深めて俺に剣を向けたが、ジャリッと音をさせた足元は僅かに後ずさっている。

「……そんなんで俺と対峙しようなんて100年早ぇよ」

「何だと!?」

相手が吠えるより早く、俺は踏み込んでリーダーの手前にいた男の短剣を弾き飛ばし、すぐさま剣を返すと峰打ちでそいつの足を折る。

その隙にレオがレイナの手を引いて小路に駆け込むのが見えた。

「そうはさせるかっ!」

どこから現れたのか、小路の先から声が聞こえる。

しまった……やはり仲間が出てきたか。

騎士団の奴等が到着したのを感じ取って切り込んだのだが、相手もそれなりの人数がいる。

「レイナちゃん!」

レオがレイナを引き寄せ、相手の腹に拳を叩き込むが、剣と素手じゃ相性が悪い。掠った剣がレオの腕を傷つけていた。

不意打ちを食らった相手も苦しそうな顔をしながらも体勢を立て直している。

あと数メートルで例の酒屋の店の扉。

レイナを安全な場所に連れて行くだけでも加勢したいが、こっちの状況もそう簡単では無い。

止むを得ず、まず俺がこっちで目の前の奴等を片付けているうちに、レオが猛然とレイナを連れて走り出した。

「レオっ!」

扉の寸前でレオはレイナの手を離し、開いた扉にレイナが吸い込まれるのを見た。

ひとまずレイナの安全は確保出来たが、レオは?

扉で遮られた視界に冷や汗が背を伝う。

扉が再び閉じ、開けた視線の先では、相手の剣を躱して体当たりを食らわせ大きく肩で息をするレオの姿。

俺も大きく息を吐く。

「貴様……っ!」

こちらからレオの表情は見えないが、恐らく平然と人をバカにしたような笑みを浮かべているのだろう。相手が苛立っているのが分かる。

剣の無い状態で挑発してどうするんだ。

レオのことだ、策がない訳では無いんだろうが、時折自分の未来が無いような発言をするレオを思い出し、嫌な予感が脳裏に過ぎる。

「よそ見とは舐められたもんだな、騎士団長サマよ」

その時、俺の至近距離で声がした。

振り下ろされた剣に即座に対応し、俺は目の前の男を突き飛ばす。

「レオ……っ!」

俺は予備の剣をレオに向かって放ると、虚を突かれたようなレオと一瞬目が合った。

「俺が知らないと思ってんのか?しっかり働け」

「ええー」

それだけ言うと俺は再び眼の前の男と向き合う。

「お前と会えて僥倖だよ。今日は逃さねぇからな」

「あんなひょろひょろの官僚なんかに剣を渡してどうにかなると思ってるのか?まあ、お前さんの『助けようとした』って言う建前か」

俺はため息をひとつつく。

男はニヤニヤしながら言葉を続けた。

「ここで会ったことを後悔させてやる」

俺はもう一つ、息をつく。

つくづく馬鹿なヤツだ。

「お前、組織じゃそれなりの地位にいるんだろうが……状況把握が出来ねぇなら上に立つのに向いてねぇよ。腕っぷしの強さだけじゃ組織はまとまらねぇからな」

「何だと……!?」

周囲には騎士団が集まり始め、すでに何人も捕縛されている。仲間がアジトから出てくるところも確認しているだろうし、恐らくはそちらも制圧しているはずだ。

辺りを見回して漸く状況に気付いた男が喚く。

「クソっ……!だがお前が見捨てたあの官僚はもうダメだろう。後はてめぇだけでも……!」

「本当に残念なヤツだな……」

俺が3つ目のため息をつこうとした時、背後から声が聞こえる。

「アラン?まだ遊んでんの?」

「こいつがお喋りなんだよ。すぐ終わらせる」

レオの登場に目を見開いた男の懐に潜り込むと、その首筋に剣をピタリと押し当てる。

「俺は捕まえるのが仕事なんで、お前の命はレオ次第だな」

往生際悪く剣を持つ手を動かそうとした男の手首にも鈍色の剣が押し当てられた。

「動くと危ないよ?まぁ、大人しくして謝ったところで、デートの邪魔された恨みは消えないけどね」

俺は結局3つ目のため息を吐くことになった。

自分が絶体絶命の危機にあった自覚がないのか?

ジロリとレオを睨むと、剣を引く素振りで男の腕を切り付けていた。

「ああ、ごめんね?ついうっかり……プリンセスを危ない目にあわせた罪は大きいから」

男が騒ぎ立てる前に、俺は素早く首を打って意識を失わせた。

「団長!そいつも引き取ります!」

「ああ、頼んだ」

駆けつけた部下に男を任せ、俺は酒屋に連れられて戻ってきたレイナの元へと向かう。

「怪我はない?」

「うん。レオが守ってくれたから……それに」

レイナが言葉を切って俺を見上げる。

「アランが来てくれるって、不思議と怖くなかったんだ」

「あ、そ」

不意に向けられた信頼に、こそばゆい気分が込み上げる。

「えー、俺じゃ信用ない?」

しかし割って入った声に、俺の気分はまた冷え込む。

「アンタ……危ない目に遭うかもって分かってんなら剣くらい持ってけよ」

「ごめんごめん……ここまで来るつもりなかったから大丈夫だと思って。てか、アラン何で知ってたの?」

何を、という対象を曖昧にしたままの問い。

それでも俺はレオが何を聞きたいのか察した。

「……そんなの、アンタが身体鍛えてんのは見れば分かる」

「まー……女の子にはモテたいからね」

それだけが理由だとは思えないが、聞いたってコイツは答えないだろう。

「今日はもう取り敢えず城に戻れ」

レイナに向かってそう言うと、レイナは瞬きをした後、残念そうに眉を下げた。

「そう……だよね。まだ準備できてないんだけどなぁ……」

「準備?」

聞き返すと、レイナがしまったという顔をした。

そしてチラリとレオの顔を見た後、再度俺の顔を見ると、おずおずと切り出す。

「あの、ね。アラン……お誕生日おめでとう」

「は?」

すっかり忘れていた。そう言えば今日は1月23日。

レイナは俺のプレゼントを選びに城下に来たと言う。

しかし……。

「つーか、何でお前が知ってんだよ?」

俺は話した覚えはない。ましてや……。

はたと思い至ってレオを睨む。

レオは舌を出して、おどけたように肩を竦めて見せる。

俺はまさに苦虫を噛み潰した気分で、盛大に顔を顰めて舌打ちをする。

「あ、あの、アラン、レオ」

レイナが俺たちの袖を引いた。

「ね、二人のお祝いをしたいからケーキだけ買って帰ってもいい?」

俺はもう一度大きく舌打ちをすると、レイナの背を押した。

「帰るぞ」

「え……やっぱりダメ?」

 

あからさまに気落ちした様子のレイナを有無を言わさず馬に乗せ、まっすぐに城へと変える。

レオも他の騎士の馬を借りて、すぐ城に帰ってきたはず。

「……行くぞ」

「え?どこへ?」

訝るレイナを促して、城の厨房へと向かう。

シェフに許可を得て材料を並べると、レイナが目を丸くした。

「え、アラン。ケーキなんて作れるの?」

答えず俺は作業を開始する。

「それ、混ぜて」

レイナにも手伝いを頼むと、嬉しそうに顔を綻ばせてボウルを手に取った。

スポンジを焼いている間に、クリームを混ぜる。

飾り付けに使うフルーツを準備したところで、レイナがスキップをするようにレオを呼びに行った。

 

「え、何?いい匂い……」

意味も分からず連れてこられたらしいレオが、厨房にいる俺を見て目を見張る。

「え、アラン?ケーキなんか焼けるの?」

「……いいだろ、別に」

オーブンからスポンジを取り出すと、いい感じに膨らんでいた。

正直、普段自分が食うための料理しかしないから、ケーキは見様見真似だ。上手く出来てホッとする。

「アランに料理の才能があるなんて知らなかった」

皿においたスポンジに、無言でクリームを塗っていく。

「ん」

レオとレイナにフルーツの入った容器を差し出すと、目を輝かせたレイナがレオの顔を覗き込む。

「ね、レオ。一緒にケーキ完成させよう?」

珍しく戸惑った様子を見せたまま、レオもぎこちなく頷く。

元々器用なレオは、直ぐに楽しそうに飾り付けを始めた。

 

完成したケーキをこっそりレイナの部屋に運び、3人でテーブルを囲む。

レイナが紅茶を注ぐ音が心地良く、穏やかな時間が流れる。

「なんだか大変な日になっちゃったけど、改めてアラン、レオ、お誕生日おめでとう!」

「ありがとう、レイナちゃん。アランも……ほら、ちゃんとお礼言って」

「……別に」

「全く……仕方ない弟でごめんね」

「おい……っ!」

薄々勘付いてはいたが、やっぱりレオがバラしていたようだ。

コイツと双子だなんて事実は、出来れば伏せておきたいのに。

レイナは案の定知っていたようで、フフッと安心したような笑みを零す。

「今日の事件……二人が協力してたんだなって知って、嬉しかった」

「は?コイツと協力なんてあり得ねぇよ」

とんでもないことを言い出すレイナに、そんなふうに思われるのは心外だと慌てて否定する。

「まあまあ、直接じゃないにしろ、結果としては協力したことになるんじゃない?」

「……」

認めたくはないが、確かにレオの言う通りではある。

俺がレオに協力したわけでも、レオが俺に協力したわけでもないが、この国のためにそれぞれの立場で尽くした行為は目的が同じなのだから、方向性は一致する。

「それにしてもせっかくのデートだったのに、邪魔されちゃったね。また今度行こうね」

「アンタ……」

抜け目なく再度レイナを誘おうとするレオに待ったをかける。

「ダメだ。もうアンタら二人では出掛けさせない」

「ええー!?何で?今日絡まれたのは俺のせいじゃないでしょ?」

「アンタが狙われたに決まってるだろ。プリンセスを巻き込むな」

懲りないレオを本気で睨む。

「……ホントにそれが理由?」

「どういう意味だよ?」

全く悪びれずに軽い調子で尋ねられた意味が分からず、聞き返す。

レオはフッと笑みを消して真顔になると、俺の瞳をジッと見つめた。

その視線に心の底を覗かれそうな感覚がせり上がってきて、俺は思わず目を逸らした。

「……まあ、いいや。今んとこはそういうことで」

レオも俺から視線を外すと、ポツリと呟く。

「俺も、まだ自分の気持ちが定まらないからね」

更に小さな呟きに、俺は息を呑んだ。

思わずレオを見ると、レオは下を向いたまま自嘲気味に笑った。

「お互い様だろ?俺たち、そろそろ前に進まないと」

その言葉は、俺の耳から入ってどろりと苦味を残しながら胸に重く溜まる。

「さて。せっかくだからケーキを頂こうよ。紅茶も冷めちゃうしね?」

空気を変えるようなレオの声が響いた。

「うん!あ、ロウソクが無いや……ごめんね」

「ガキじゃあるまいし、そんなの無くていいだろ」

俺も重い気持ちを振り払うように声を出すと、ケーキをカットする。

「いっただきまーす……あ、美味い!」

一口目を食べたレオが、目を丸くする。

「ホントだ!すごく美味しい……!」

レイナも驚いたように声を上げ、笑顔になる。

俺も一口食べて、知らず口元がほころんだ。

「……確かに。上手く出来たな」

レオがケーキを頬張りながら俺に問いかける。

「アラン、いつの間に料理なんて出来るようになったの?」

「さあ……?家を出てからずっと自炊してたからな」

「ああ……そっか」

思い出が一瞬胸の中を交差し、すぐにそれを振り切るように頭を振る。

「食ったら出てけよ。アンタは事後処理があるんだろ?」

「ずるいよな。今回は俺も現場仕事だったのに」

文句を言いながら、レオがケーキを食べ終えて部屋を出ていく。

 

「ねぇ、アラン」

「ん?」

二人になった部屋で、レイナが俺をじっと見つめた。

「アランがどうやって生きてきたのか、私はまだ知らないけど……」

レイナは一度視線を下げた後、言葉を整理するように少し黙った。

「アランとレオは仲の良い兄弟だったんだなって思うから、また二人が自然に付き合えるようになるといいなって思ってるよ」

告げられた言葉に、戸惑う。

「……仲良くなんか、ねえよ」

「そう?二人は似てるなって以前から思ってたんだけど……」

「は?」

レイナは楽しそうに笑った。

「大好きな二人が仲良くしてくれたら、私も嬉しいな」

『大好き』という言葉に引っかかりを覚える。

「……無理じゃないか?」

その感情が絡んだら、アイツと仲良くは出来ない気がする。まだそれはほんの予感。

俺も、アイツも、まだ自分の気持ちや状況の整理が出来ていない。

ただ……そのうち。

ずっとこのままではいられない。

「……レイナ」

「えっ!」

滅多に呼ばない名前を呼ぶと、分かりやすく驚いた。

「来年は。俺だけを祝えよ」

「えっ?でもレオは……?」

「いいだろ、アイツは」

「良くないでしょ」

「いいんだよ」

自分の気持ちに名前をつけないままでいることは、我ながら狡いと思う。

ただもう少しだけ、このままで。



ロマンスにもシリアスにもなりきれない話ですみません(汗)
時系列的には割りとプリンセスになって間もない時期ですね。
レオが「俺たち双子だから」と打ち明けて「アランには内緒だよ?」と言った頃。
双子に起こった事件をまだプリちゃんが知らない頃です。
 
レオもアランもプリちゃんのことが気なるけど、自分は王になる気がなくてどうしたもんかな〜っていう悩みの時期。
だけど二人の絆だけは失われたことはないと思っているし、拗れて絡んでしまった二人の関係性を真っ直ぐに直していくのがプリちゃんだなって思うわけです。
 
もう何年も王宮はプレイしていないし、他のゲームやらラノベやらでいっぱい新たなキャラに出会い、惹かれるキャラもたくさんいるけど、私にとってはやっぱりアランなんですよね。
ほ〜んとに、好きです(〃∇〃)
アラン、お誕生日おめでとう。
 
 
 

こんばんはスター

先日のアランbirthdayから1ヶ月近く経ってしまいましたが、書き終わってからな〜んとなく別のシチュエーションが頭に浮かびまして・・・。

あれから10年経ったアランとプリちゃんの様子を描きたいなと思ったんです。

以前は、結婚してからのことをお話にするのはあんまり好きじゃないと言うか、全くイメージが湧かない感じだったんですけど、後日談的にさらっと触れるのはアリかなぁ…と。←何目線!?

アランが旦那様なんて、ドキドキし過ぎて上手く想像出来ないんですけど(*ノω・*)///

大したお話ではありませんが、ほっこりして頂けたら嬉しいです。

 

 

Tiny happiness

 

うとうとしている私の耳にドアを開く音が小さく響いた。

まだ少し重たい瞼を上げると、大好きな人の姿が目に入る。

嬉しくて起き上がろうとして、ふと布団に重みを感じる。視線を動かして、私は更に笑みを深めた。

「……あれ、父さん?」

私のすぐ目の前でふわふわと焦げ茶色の髪が揺れた。

「またお前はここにいたのか。母さんの負担になるからほどほどにしろって言ったろ」

大股でベッドサイドまで歩いてきたアランは、男の子の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。

「僕は父さんの代わりに母さんを守ってたんだ!」

「はいはい」

アランは男の子……私たちの息子アレックスを肩に担ぎ上げる。

「ちょっと何すんだよ……っ!俺はまだ母さんと一緒にいるんだ!」

「お前は一日中さんざん母さんと一緒に過ごしてたんだろ。これからは俺の時間だ」

「は?ずるいぞ、大人だからって……!」

「俺だってずっとレイナに付き添ってたかったのに仕方なく公務してたんだよ。二人きりにさせろ」

「父さんは国王なんだから仕事するのは当たり前だろ」

二人の喧嘩は日常茶飯事ではあるのだけれど、ちょっとあたふたとしてしまう。

「だったらお前は王子だろ。仕事もしねぇでゴロゴロしやがって……」

「は?俺はまだ子供だからいいんだよ!」

「はいはい、じゃあお子様はもう寝る時間だな」

アランはしてやったりの表情でアレックスを抱え直すとドアの方へ歩き出す。

「待てっ!俺だってまだ母さんと一緒にいたいんだっ!」

「ダメだって言ってんだろ」

じたばたと暴れるアレックスを侍女に渡したアランは、さっさと背を向ける。

「ずるい、ずるい!決闘だ!父さんに決闘を申し込む!」

「アレックス……!」

思わず口を挟むと、アランは振り向いてアレックスを見た。

「いいぞ、受けて立ってやる。お前にだってレイナは渡さない」

「ちょっと、アランまで何言ってるの!?」

 

その後も決闘だと叫ぶアレックスを部屋から追い出し、アランは私のところへやってきた。

「もう、アランってば大人気ないんだから……」

「いいだろ、あいつは1日べったりだったんだから。それより……」

アレックスが座っていた椅子に腰掛け、私の額に手をあてた。少しひんやりとしたアランの手が心地よい。

「……まだ少し熱があるな」

「でも随分良くなったよ」

少し険しい顔で眉を寄せるアランの手に、自分の手を重ねる。

私はここ数日、体調を崩して臥せっていた。

ただでさえ忙しいアランに公務を全て負わせてしまっていることに申し訳無さがつのる。

謝罪の言葉を口にしようとした瞬間、時計の針がカチリと音を立て日付が変わったことを告げた。

「あ……」

アランと自然と見つめ合うと、アランが柔らかく目を細めた。

「間に合ったな」

「うん……アラン、お誕生日おめでとう」

「ああ、ありがとな」

アランと出逢って、恋をして、アランを選んで選ばれて、そして私たちは夫婦になった。

アランの誕生日を祝うのも、もう10回目を数える。

国王となったアランは自分の誕生日を忘れたくても忘れられない。

だって国王陛下の誕生日は、毎年華々しく祝われる。

「……ホントにこんな大切な日に……ごめんなさい」

「好きで寝込む奴なんかいないだろ。ま、どんな日だろうとお前が寝込むのは困るんだけど」

そう言うと、アランはじっと私の顔を覗き込んだ。

「少し起きれる?」

頷くと、アランは私の背中に手を回して、ゆっくりと私を起こして背中に枕を置いてくれた。

「ちょっと待ってて」

そう言うとアランは一度廊下に出て、ワゴンを押して戻ってきた。

「……!これって!」

驚く私にアランはニヤリと笑う。

「俺が気付かない訳ないだろ」

そう言うアランの手元のワゴンには、美しいショートケーキが載せられていた。

「う……驚かそうと思ってたのに」

「100年早ぇよ」

そう、アランの誕生日にとケーキを焼くつもりでいた。臥せってしまったせいで何も準備が出来なかったのだ。

「それにしても……ごめん。アランのお誕生日なのに」

「お前が最高級な材料準備してくれてたおかげで美味いケーキになった」

アランは笑いながらケーキを切り分けてくれる。

「久々に料理していい気分転換になったし」

目の前に真っ赤な苺が刺さったフォークが差し出され、おずおずとそれを口に含む。

「美味しい……!」

「だろ」

アランが本当に嬉しそうに笑うから、私も自然と楽しくなる。

「アランと一緒に作りたかったな」

「お前の誕生日には一緒に作ろう」

二人で一緒にいることが、いつの間にか当たり前になっていることがこの上なく嬉しい。

「あ、でもきっとアレックスが一緒にやりたがるね」

「まあ、ケーキ作るときくらいは混ぜてやるか」

他愛ないおしゃべりをしながらケーキとお茶を楽しんで、アランが私をまた布団に横たえた。

「あんま起き上がってるとまた具合悪くなるからな」

今日は夜からアランの誕生祭が開かれる。アランは朝から準備に追われるはずだ。

「私もパーティーには出られるといいんだけど……」

「無理すんなよ。明日は大人しくしてろ」

「でも……」

アランは私の頭をポンポンと優しく叩き、チュ……と軽くキスをした。

「俺はお前がいつまでも寝てる方が辛いんだけど?」

「……分かった。早く治すよう大人しくしてます」

「そうして」

そしてアランはもう一度私にキスをして、静かに部屋を出ていった。

 

 

ーーー誕生祭当日。

昔は自分の誕生日なんか忘れているのが常だった。

今だって自分の生まれた日になんか興味なんかない。

そうは言っても、一国の主になってしまったらもはや俺の誕生日は個人のものではなく公のもの。

面白くも何ともないが、国を挙げての行事となれば来賓の饗しやら何やらでやることは尽きない。

 

午前中からバタバタと1日を過ごし、いよいよメインイベントのパーティーだ。

レイナは今朝になっても熱が下がりきってはいないため、休ませることにした。

俺にとってはそれだけのこと。レイナには日付が変わってすぐに祝ってもらっていたし、つまらないパーティーを何とか一人でやり過ごして終わりのはずだった。

しかし。

「今宵は王妃様が欠席されるとのこと。陛下のパートナーにはぜひうちの娘を!」

「いや、他国から来られた姫君が相応しい」

「いやいや、それよりも……」

何とも騒がしい。

俺が王となりレイナとこの国を治める日々がこれだけ続いているのに、未だに俺たちの間に割り込めると思う輩がいることが心外だ。

俺の意見も心情も置き去りにして、目の前で喧々諤々と声高に議論される俺のパートナー問題に嫌気がさす。

「いい加減にしろ!」

静まり返ったその場を睨みつけると、俺は席を立った。

「陛下、どちらへ…!?」

それには答えず、俺はその場を後にした。

 

密やかなざわめきが伝わってくる。

俺はパーティー会場の幕の外で立っていた。

「国王陛下の御成〜!」

その一言でしんと静まったホールへと、俺は足を踏み出す。

眩しい光の洪水とともに、再びざわめきが大きくなる。

「ア、アラン……やっぱり恥ずかしいよ」

「なんで?」

恥ずかしそうに告げるレイナは俺の腕の中。

パーティーに立たせるにはまだ心配だが、それなら俺が抱えていればいい。

そう思い至って、レイナに最低限の格好をさせて無理やり連れてきた。

俺のパートナーはレイナしかいない。

周りにそう無言の主張をする意味もある。

 

唖然とするもの、眉をひそめるもの、頬を染めてうっとりと見つめるもの……色々な表情を見渡しながら、俺は告げる。

「今日は俺の誕生日を祝うためにわざわざ集ってもらったことに礼を言う。俺の后たるレイナはあいにく体調を崩しているためこのような形で失礼をする。

しかし、健やかなる時も、病める時も、俺たちは常に共に有りたいと思う」

レイナがいるから、俺はここにいる。

それはきっかけであり、そして俺を動かす原動力だ。

「この先も二人でこの国を守っていこうと思う」

わぁ……っと歓声が上がり、乾杯の掛け声とともにあちらこちらでグラスのぶつかり合う音が響く。

俺もグラスを掲げ、レイナと軽くそれを合わせた。

「大丈夫?」

「大丈夫……だけど、恥ずかしいよ」

「じゃ、戻るか」

「えっ!?」

俺はレイナを抱いたまま、ホールを後にする。

「ちょ、アラン……まだパーティー始まったばっかりだよ?」

「もういいだろ。どうせ俺がいてもいなくても変わんねぇよ」

「そんなこと……んっ」

レイナの口を口づけで塞ぐ。

「俺はお前と二人で過ごしたいんだけど?」

「そういう言い方ずるい……!」

俺を追ってきた大臣や官僚たちも、レイナにキスをしたのを見て絶句したようだ。

視線をやると、俺がもう戻るつもりがないのを悟ったようで渋々と引き返していった。

「あー!また父さんが母さんを独り占めしてる!」

「……また煩いのに見つかった」

アレックスが駆けてくる。

 

あの頃は想像もしなかった幸せがここにある。

一人で『守る』ことに固執して幸せになることから逃げていた。

俺の脚に齧り付いたアレックスと3人でレイナの部屋へと向かう。

笑い声が響く廊下に、俺はこっそりと奇跡に感謝した。

 

***

 

この後、待望の第二子として女の子が生まれ、アレックスは妹を守ることに闘志を燃やし、母のことは父アランに任せるようになり、アランは再びプリちゃんを独り占めするようになったのでした(*´艸`*)

 

アランに双子の男の子が生まれても良かったかな!?

アランは息子相手でも対等に接しそうだな、なんて思うんですよ。

良き国王、良き夫、良き父親のアランに乾杯赤ワインロゼワイン

だ〜いぶご無沙汰しておりますが、生きてますウインク

年に数回の更新になってますが、ブログもちまちま続けていきたいと思いますので、今年もよろしくお願いしますm(_ _;)m

 

さて。

何回目になるんだろう……もしかして10回目?

一目惚れして以来、ずーっと大好きな人。

アラン、

       Happy Birthday ♪飛び出すハート

 

 

 

王宮からは遠ざかってしまっているんだけど、今でもアランのことは本当に大好きですラブラブ

新しい萌えが供給されなくても、いつでも好き照れ

 

とは言っても、シナリオから離れてしまっていると、アランの口調とかちょっと迷子になってるかもしれませんがアセアセ

だけどお祝いはしたいと思って、今年もお話を捧げます。

誕生日関係ないストーリーなんですけどね…。

ハニールート王室会議を経て、両思いになった次期の二人です。

レオ目線とアラン目線のハイブリッドピンクハート

プリちゃんはあんまり登場しないので、甘くはないけどアランのプリちゃんへの気持ちが伝わるといいなぁ…。

 

 

 

 

【揺らがぬ想い】

その日、俺はジルの執務室でアランと話をしていた。
官僚と騎士団長の打ち合わせであるから、アランも俺に対する態度は事務的だ。
兄として少々淋しい気持ちもあるが、以前は仕事の話でさえ出来ないほど拗れていたのだから、これでも大した進歩だと思う。
少し感慨に浸ってしまい、今は真面目な話し合いの場であることを思い出し、思考を切り替える。
「で、黒幕は?」
「いえ、今回は本当にただの短絡的な人攫い目的だったようです。政治的な意図は見当たりません」
「ふうん……」
その時、ドアをノックする音がして、俺たちは口を噤んだ。
ジルが注意深くドアを開くと、そこには可愛らしい少女が立っていた。

「貴女は……」
ジルが器用に右眉だけを上げて少女を見つめた。
俺も少し眉を寄せてその娘に視線をやった。
「……ご無事と伺ってはおりましたが、お元気そうな姿を目に出来て安心いたしました。ですが今日はどのようなご用件で?」
少女はジルの質問に笑顔を返すと、彼の後ろ……即ちジルの執務室の中を覗き込んだ。
そしてお目当ての人物を見つけたようで、輝くばかりの笑顔を弾けさせた。
「アラン様……!」
「は?」
ジルの脇をするりと抜けた少女はアランの目の前でふわりとドレスのスカートを広げてお辞儀をする。
「貴方にお礼がしたくて訪ねて来ました」
「礼?」
かなりの美少女に潤んだ瞳と甘えたような声で話しかけられていると言うのに、本人はまるでそこに惹かれる気配はなく、ただ面食らったように眉を寄せている。
俺は少女があまりにも不憫で、思わず助け舟を出した。
「アラン、こちらは先だっての誘拐未遂事件でアランが救い出したマリベル・サザード伯爵令嬢だよ」
アランはやっと合点がいったように、ああ……と若干表情を和らげていた。
「マリベルです。あの時は本当にありがとうございました。怖くて仕方がなかったのですが、アラン様が来てくださって……」
「別に仕事だ。礼なんか良い」
明らかな“意図”を感じる話し方を途中で遮って、アランは興味なさそうに一言告げた。
「え……」
まさかこれほどに無関心とは思いもしなかったのだろう。マリベル嬢は驚いて固まった。
アランの性格上、こうなることは分かってはいたけれど、些か同情を禁じ得ない。
俺は苦笑しながら、それでもこれ以上ここにいられるのも困るので、退室を促そうと口を開きかけたが、可愛らしい顔に似合わず、ご令嬢はなかなかに強情だった。
「アラン様。伯爵令嬢を救って下さったのです。お礼を受けるのは当然です」
「……どこの令嬢だろうと令息だろうと平民だろうと、ウィスタリアの国民なら助けるのが騎士団の仕事だろ。別に特別じゃない」
爵位を笠に着るような言い方に不快感を覚えたらしいアランは、更に冷たく言い捨てた。
マリベル嬢は一瞬怯んだようだが、それでも譲らずにアランを真正面から睨みつけた。
「いいえ。お礼ではないのならご褒美を差し上げます。私の入り婿として貴方をサザード家にお迎えします」
男3人は呆気にとられて言葉を失ったけれど、一番最初に立ち直ったジルが慌ててアランの袖を引いた。
「アラン殿、そろそろ馬術のレッスンのお時間では?」
そしてアランが口を開くより先に強引に執務室から追い出した。
「ジル、私はまだアラン様とのお話が済んでいないのよ?」
「マリベル様、そのようなお話をいきなりここでなさるのはマナー違反ではございませんか?それに私とレオもまだ話の途中だったのです。今日はひとまずお引き取り下さい」
彼女もアランが立ち去ってしまった以上、ここに居続けても無駄だと感じたらしい。不満を全身で表しながらも、その場を後にしていった。

「……あれって、プロポーズってことだよね?」
静寂が戻った部屋で、思わず確認してしまう。
「ご褒美って……」
ジルも大きく息を吐いた後、苦笑気味に頷く。
「まぁ、あの美貌と言い家柄と言い、断る殿方はまずいないでしょうからね」
「あれ、ジルは受けるんだ?」
軽口を叩くと、恐ろしい冷気を伴った視線を向けられた。
「貴方なら喜んで乗り込んでいきそうですね」
「もちろん」
俺の答えにもジルはますます視線を冷たくした後、再び大きく息を吐いた。
「タイミングが悪いですね。まだ宣言式の準備ができていません。アラン殿は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫でしょ。一度覚悟が決まれば、アランは強いよ」
あの王室会議でのアランはまだ記憶に新しい。守るべき女性を守る覚悟を決めた男はそう簡単に折れるはずがない。
「……そうですね」
ジルも同じ場面を思い出していたのだろう。口元に薄っすら笑みを浮かべると、組んでいた腕を解いた。
「まぁこちらもできる限りの援護をいたしましょう」
「だね」
俺たちはニヤリと視線を交わすと、お互いの仕事に戻った。

アランがレイナちゃんのひたむきな想いを受け入れて、二人が晴れて「恋人」となってからはまだ日が浅い。とは言え、随分前からアランの気持ちがレイナちゃんにあることは明白であったし、レイナちゃんの気持ちを受け入れると決意したのなら、その気持ちは揺るぎないものだろう。
だってレイナちゃんはこの国のプリンセス。プリンセスに選ばれた男はこの国の次期国王だ。生半可な気持ちで恋愛など出来ないのだ。
アランは国王として申し分のない資質はあると思っていたし、レイナちゃんともお似合いだと思っていたけれど、その葛藤は理解できる。
そして……それを乗り越え、決意を固めたアランをほんの少しだけ羨ましいと思った。

閑話休題。
そんな二人に今更横槍を入れようとしても、それはまず無理だろう。
そうは思うけれど、この世の中、まだまだ貴族社会の名残は色濃い。要は、身分制度、爵位は大きくモノを言う。俺たちはいわゆる平民だ。抜け道はあるけれど、未来の国王と王妃の婚姻にあまり禍根は残したくないし、二人の婚約はまだ公に出来ていない。伯爵家の権威で裏から手を回されると少々厄介だ。
「さて、どうしたもんかね……」
行儀悪く椅子にふんぞり返って机に足を投げ出すと、俺は天井を仰いだ。

「アラン様」
1週間も空けずに、マリベル嬢はまたアランを訪ねてきた。
きっとあの娘は諦めずに突撃してくるだろうと思っていたので、俺も騎士団の訓練に居合わせていた。
そして今日、彼女が登場した理由は分かっている。
「アラン様、お返事が頂けないということは、検討して頂いているということでよろしいでしょうか?」
「……返事?何の?」
アランは訝しげに眉を寄せる。
それはそうだろう。『返事』をすべき書簡は俺が持っている。
「マリベルちゃん、アランは訓練だから俺と話そうか」
「気安く『ちゃん』などと呼ばないでください」
けんもほろろな返答に俺は肩をすくめたけれど、俺の介入の意図はアランに伝わったらしい。アランは彼女が俺の方を向いた隙にさっさと背を向けて訓練を開始しに行った。
「あ……」
慌ててアランに手を伸ばしたマリベル嬢だけれど、俺は彼女の肩に手を置くと、やや強引に少し離れたベンチへと彼女を誘った。
「騎士団の訓練は邪魔しないで。君の求めるものはここにあるから」
「……何故、それを貴方が?」
俺の手にある書簡を見て、マリベル嬢は露骨に不快感を表した。
「確かに貴族の婚姻は家同士の問題だけど、今のウィスタリアではそんな風習もだいぶ廃れて来ているのは知っているよね?ましてや平民は自分たちの好きな相手と結婚する」
マリベル嬢はサザード家としてクロフォードの家に婚姻を求める書簡を送ってきた。
そんなこともあろうかと、俺は叔父の目に触れる前にそれを回収した。叔父まで巻き込まれたら、厄介なことこの上ない。
「それはアラン様に見せて頂いているの?」
「いや、これはこのまま君に返すよ」
「失礼じゃありませんこと?」
いや、こないだの君の高圧的なプロポーズに比べたらそれほどでも……という言葉が喉まで出かかって、慌てて笑顔で飲み下す。
「知らないようだから言っておくけど、騎士団長は一代限りにおいて侯爵相当の権限を有する。だからうちに圧力をかけても、アランには断る権利があるんだよ」
驚いた顔を見る限り、知らなかったんだろう。
まぁ、これまで荒くれ者の騎士団長に嫁ぎたいなんて貴族令嬢はほぼいなかったから、あまり実態のない法であったんだけど。
「だからアラン自身を落とすしか無い訳だけど、アランは根本的に女性に興味はないからね」
「それなら大丈夫ですわ」
きっぱりと言い切って、自信たっぷりに笑うマリベル嬢だけれど、その思いも分からないではない。
ウィスタリア一と言われる美少女、加えて伯爵家。伯爵家は財産もそれなりに蓄えていると聞く。ジルも言っていたけれど、大抵の男は彼女に言い寄られたらノーとは言わないだろう。
けど、世の男が全員彼女に落とされる訳じゃない。
「……まぁ、君が頑張ることを止めはしないけど、無駄だと思うよ」
マリベル嬢は俺の言葉などまるで意に介さず、涼やかに笑うと肩にかかるブロンドの髪を払った。
「ここでアラン様を待たせて頂いてもよろしいですわね?」
伯爵令嬢がこの冬の寒空の下で騎士団の訓練を見学しているなんてどうかと思うけれど、本人が望むならまぁ良いかと俺は黙って頷いた。

「レオ!どうにかしろよ、あの女……」
数日後、苦り切った顔でアランが俺を訪ねてきた。
すぐに音を上げるかと思いきや、マリベル嬢は意外にも粘り強い。何とかアランを振り向かせようと、未だに奮闘しているらしい。その根性と健気な姿勢には賛辞を送りたい。
「アランも少しは絆された?」
「そんな訳ねぇだろっ!」
アランが俺を頼ってきてくれることなんて今まで記憶にないから、頬がにやける。
ただこればっかりはアラン自身で彼女を諦めさせてもらうのが一番なのだ。
「レイナちゃんがいるからって断ってないの?」
「……アイツは巻き込みたくない」
レイナちゃんの名前を出した途端、声が小さくなって僅かに頬を赤らめる姿が、我が弟ながら可愛らしい。レイナちゃん自身に見せてあげたい。いや、この場面をマリベル嬢に見せてやったら、少しは諦めるのではないだろうか?
「アランの気持ちも分かるけど、アランのことを諦めさせなくちゃいけない訳だから、アランの気持ちが他の女の子に向いていることをしっかり伝えるのが一番手っ取り早いと思うんだけどね」
ただアランの懸念の通り、マリベル嬢がアランとレイナちゃんの関係を知ったら、間違いなく邪魔をする。と言うか、レイナちゃんを傷つける恐れもある。そう考えるとアランがレイナちゃんのことを気取られたくないという気持ちは十分に理解できる。
それにアランにレイナちゃんとイチャイチャしろなんて言ったら、却ってぎこちなくなって恋人同士らしい甘いムードは期待できない気がする。
「……お前も難儀なヤツだよな」
「俺のせいだって言うのかよ?」
思わずアランを責めるような口調になって、アランに不本意だという眼差しを向けられる。
「まぁ……とどのつまり、そういうことになるんじゃない?アランがカッコ良くて、騎士団長で、正義感が強くて、剣技に優れてて、ぶっきらぼうで、優しくて、レイナちゃんの恋人だから」
「は……?」
投げやりに言ってしまったけれど、見放すのも可哀想だ。
「俺やジルも出来る限り何とかするよう協力はするけど、真面目な話、次期国王やプリンセスの評判になるべく配慮した形でマリベル嬢の求婚を退ける必要がある。アラン自身で彼女を諦めさせるのが一番良い方法なのは事実だ」
アランはしばらく沈黙した後、大きく息を吐いた。
そして更に大きく舌打ちをすると、俺を睨みつけた後、乱暴に足音を立てながら出ていった。
「……俺、全く悪くないんだけどなぁ……」
俺は苦笑しながら、アランの出ていった扉をしばらく見つめていた。

 



訓練が終わると、決まってマリベルとか言う伯爵令嬢が俺を待っている。
迷惑だとはっきり告げたにも関わらず、それを理解しようとしない。一体、どんな神経をしているんだ。
この令嬢をレイナに近づけるのは危険だと判断したので、レイナにも訓練場には来るなと言ってあるし、迂闊に会いに行けば後をつけられると思ったので、会いにいくことさえままならない。
「アラン様、今度馬に乗せて下さいませ。ピクニックに参りましょう?」
「断る」
「あら、私がお弁当を持参いたしますし、アラン様は私を馬に乗せて下さりさえすれば良いのです」
「……じゃ、誰か他の奴に運んでもらえよ。俺はアンタの馬車じゃない」
いつも会話は噛み合わない。
いい加減、こんなやり取りに疲れて、俺は普段顔も見ない令嬢を正面から見据えた。
「いいか、最初にも言ったけど、俺がアンタを助けたのは仕事であって個人的な感情からじゃない。助けたことを感謝してもらうのはありがたいけど、俺にとってはただの仕事だ。礼やら褒美やらを受け取る義理はないんだ。だからこれ以上付き纏うのはやめてくれ」
一息に言うと、珍しく令嬢は息を呑んで黙った。
通じたか?と安堵しそうになった瞬間、それを後悔する。
「私が貴方を気に入ったの。貴方が断るなんてあり得ないわ」
……あり得ないのは、どっちだよ。
「……俺にだって選ぶ権利はある」
「私の婿になれるのに嬉しくないの?」
もう何を言ったらいいのか分からない。
うんざりして視線を逸らすと、近づいてきて俺を下から覗き込んだ。
「私は自分で言うのも何ですけど『ウィスタリアの至宝』と呼ばれてますのよ?見た目にしても爵位にしても財産にしても、貴方に不満はないでしょう?」
俺は盛大に舌打ちをすると、頭をガシガシと掻いた。
どこからツッコんだら良いのだろう。
「……ハッキリ言ってそのどれにも興味はない。俺の相手は俺が選ぶ。そしてそれはアンタじゃない」
俺の言葉に、今度こそ令嬢は黙った。
ようやく通じたかと踵を返そうとして、しかし背後から聞こえた声に俺は息を呑んだ。
「アラン……?」
振り返るとそこには、不思議そうな顔をしたレイナが立っていた。
レイナは令嬢を見やり、紹介してほしいという顔で俺を見上げた。
「……はぁ」
もう仕方ないからレイナを巻き込んでしまおう。レオの言う通り、それが一番手っ取り早いのかもしれないし、逆にそれしかこの女を諦めさせる方法はないような気がする。
「……サザード伯爵令嬢。こないだの誘拐事件の被害者だ」
「ごきげんよう。どなたか存じませんが私はアラン様の婚約者ですわ。どうぞよろしく」
レイナは驚きに目を丸くし、俺は盛大に頭を抱えた。

そのままレイナとその場を立ち去りたいと思っていたのだが、タイミング悪くレイナに公務が入った。
しかしあからさまに不機嫌な様子のこの女にこれ以上口を開かせるより良かったのかもしれない。レイナには後できちんと説明して誤解を解いておこう。
「……あれがプリンセス?」
レイナを呼びに来た官僚が「プリンセス」と呼びかけたことで気付いたらしい。
「アラン様はあの庶民プリンセスとどのようなご関係?」
いちいち使う言葉が癇に障る。
「騎士団長はプリンセスの専属護衛だ」
ムカつく腹の中を抑えて、とりあえず事実を述べる。
「そう。でも私と結婚すればそんなお役目から解放されますわ」
「あいにく俺は護衛の任務に誇りを持っているし、騎士を辞めるつもりはない」
令嬢は眉を上げて俺を睨んだ。
「伯爵家の当主になるのよ?それ以上の爵位でなければ満足しないと?」
本当に話が噛み合わない。
「ある意味そうだと答えておく。騎士団長は国を守り、国を大切に守ろうとする国王やプリンセスを守るものだ。たかが伯爵家の当主になったところでその規模のやりがいは得られない」
『たかが伯爵家』などと言ったことでおそらくこのプライドの塊のような令嬢の機嫌を損ねたであろうことは容易に想像がつく。だが俺は相手が口を開く前に畳み掛けるように続けた。
「騎士としての職務に手は抜きたくないからアンタでも誘拐なんて言う犯罪からは守る。けど俺が心身を捧げて守る相手は俺がそうしたいと思える相手であって欲しいと思う。そしてアイツはそれに値する。大切なものは命をかけても守るし、くだらない悪意からも守る」
暗にアイツに嫌がらせなんぞするなという牽制も込めて言ってやったが、果たして伝わったか。
令嬢はしばらく悔しそうに黙り込んだ後、ポツリと言った。
「……アラン様が珍しく饒舌なこと」
「これ以上邪魔をされたくない」
そう言うと、俺は踵を返して令嬢から離れた。

 



「貴女がプリンセスですって?」
俺の執務室でレイナちゃんと公務をしながら解説をしていると、突然マリベル嬢がやってきた。
ここの部屋の主は俺なんだけど、それはまるで無視してレイナちゃんを上から下まで値踏みするように眺めている。
「えーっと、マリベル嬢?俺たちは仕事中なんだけど、なにか用?」
「レオ、貴方アラン様は女性に興味がないと仰ったわよね?」
俺の方も見もせず言葉を放ったマリベル嬢。これは流石にアランも話したな。
「言ったね。嘘じゃない、アランは女の子に興味はないよ」
「ですが、このプリンセスには興味をお持ちなんでしょう?もう飽きても良い頃なのでは?」
相変わらずの自分勝手な言い分に俺は苦笑した。
「それは無理なんじゃない?だって二人は深く愛し合っている恋人同士なんだから」
おどけたように言ってみせると、マリベル嬢は歯ぎしりが聞こえそうなほどの鬼の形相になって、レイナちゃんは真っ赤になってはにかんでいた。
そんなレイナちゃんの様子を見たマリベル嬢は、俺の言った言葉が嘘ではないことを感じ取ったらしい。スッと表情を失くすと、レイナちゃんを冷たく睨んだ。
「プリンセスがアラン様を選んだと?」
「あ、えっと……」
それは即ち、次期国王が決まったことを意味する。
言ってしまって良いものかと悩んだレイナちゃんは、言葉を濁して俺を見た。
俺は頷くと、レイナちゃんをかばうように半歩前に出て、マリベル嬢と向き合った。
「その通りだよ、マリベル嬢。さっきも言った通りアランは女の子に興味はないけど、レイナちゃんだけは例外だった。葛藤はあったみたいだけど、今は晴れて二人は想いを通じ合わせた」
「……国王の座が手に入るなら、確かに伯爵家の当主などでは不満ですわね」
困った娘だな、と思った。でもアランを諦めてくれるなら、いいか。
「まぁ……一応言っておくと、アランは国王になりたくなかったみたいだけどね」
アランが権力欲の塊みたいに言われるのは不本意なので、念の為一言告げる。
「……それでは、アラン様が可哀想なのでは?」
「え?」
一瞬、虚を突かれた。
「だって、アラン様は国王になりたくないのでしょう?それなのにプリンセスがアラン様を縛り付けるなんて、アラン様がお辛いだけですわ」
「……」
面倒くさい。
まさにそこが二人の間に横たわる大きな溝だった。今もレイナちゃんからすると、王になりたくないアランを選んでしまったという負い目になっているだろう。案の定、少し視線を泳がせている。
マリベル嬢はそこを突く。
「プリンセスはアラン様がお好きなのね?だったら自由にさせてあげるべきではなくて?」
「マリベル嬢」
俺は思わず声を上げた。
「ねぇ、何故君はそんなにアランに固執するの?君だったらアランじゃなくてもよりどりみどりじゃないの?」
ほんの少し満更でもない表情を浮かべた後、マリベル嬢は優雅に笑った。
「私、アラン様に一目惚れしてしまったのですわ。こんな経験、初めてですもの」
薄っすらと頬を染めて告白する少女は、初々しく恋する乙女そのものだけれど、この令嬢はそんな清純な娘ではない。
「俺にはただの意地に見えるけど?自分に落ちない男は気に入らない……って」
彼女のことは色々と調べたけれど、ロクな噂はなかった。父親伯爵共々、貴族の権威を全てとする尺度の持ち主。彼女の場合は更に政治的無知とその美貌故、意に沿わない者は従えないと気に食わないようだ。自分に靡かない男は、たとえ上位貴族であっても、執拗にアプローチをかけては相手の婚約を破綻させたり、振り向かせた挙げ句こっ酷くフッたりと容赦ない。
「君の父上はこの話を本当に認めてるの?」
しかし度を過ぎれば、伯爵家の名に傷がつく。状況によってはその地位が危うい。父伯爵は流石にそんな事態になるまでこの娘を放置はしないだろう。
騎士団長とは言え、アランは平民。伯爵家にとって婿となっても大した旨味はないはずだ。
そこに触れると、マリベル嬢は明らかに狼狽えた。
「あ、当たり前じゃない!お父様は私の好きにして良いと……」
「へぇ……。うちに送られてきたあの書簡、伯爵に確認したら知らないって言うんだよね」
途端、マリベル嬢は口を噤んだ。
「諦めなよ。アランとレイナちゃんの間には割り込めない」
「そんなの...!まだ公にされていないじゃない。アラン様だって私のことをもっと知って下さったら……」
食い下がるマリベル嬢に冷たく告げる。
「宣言式は2週間後だ」
「えっ!?」
二人の女性の声が重なる。
「ああ、レイナちゃんにもまだ言ってなかったっけ?公開プロポーズは再来週」
にっこり笑って片目を瞑ると、レイナちゃんはまた可愛らしく頬を染めた。

 



俺は慌ただしく城下に向かっていた。
馬にはレイナも乗っている。本当は城に置いておきたかったが、万が一を考えると俺が側にいたほうが守れる。そう言われて、やむを得ず連れてきた。
少し前、俺宛に差出人不明の封書が届けられた。
中身は謂わば『脅迫状』。
貴族の令嬢を拐かした、返して欲しくばプリンセスを連れてこい、交換で貴族令嬢は返してやる、騎士団長だけで城下へ来いーーー。
プリンセス制度の反対勢力かもしれないが、いまいちその要求の本質が見えてこない。プリンセス制度と言うより、寧ろ俺が次期国王になろうとしていることが許せない輩かもしれないとも思う。いずれにしても、コイツを危険に晒すようなことは絶対にしない。


そう誓ったところで、指定された城下の外れにある倉庫に辿り着いた。
レイナは少し離れたところで、信頼できる部下に預けた。
馬を降りると、明らかに金で雇われただけであろう身なりの悪いゴロツキが現れた。そしてその後方に後ろ手に縛られたドレス姿の令嬢が見えた。
「……またお前か」
正直、助ける気力が削がれた。そこにいたのはあのサザード伯爵令嬢。なんとなくこのお粗末な筋書きが見えてしまった。
「アラン様、お待ちしておりましたわ...!さあ、私を救って下さい!」
こんな元気な女が誘拐されたなんて、誰が信じる?馬鹿らしくなってため息をついた。
「一応、訊いてやる。何が目的だ?」
令嬢は無視して、頭と思われる体格の良い男に尋ねる。
「さあ?俺はこの令嬢を縛って、騎士団長を呼び出せば良いって言われてるだけだからな」
確かにコイツらはそれしか聞かされていないのかもしれない。どう決着すべきか悩んでいると、令嬢がキンキン声で話しかけてきた。
「アラン様、プリンセスはどこ?早く私と交換して下さいませ。もう身体が冷えてしまったわ」
……もう、このまま帰ってしまおうかと割と本気で思う。この女、助けたところで誰も喜ばない気がしてきた。
「……断ると言ったら?」
「別に構わねぇよ。俺たちはあのお嬢さんでも問題ない」
「何を言っているの!?」
ゴロツキの言葉に、俺はスッと目を細めた。
あの令嬢が金でコイツらを雇って自作自演の誘拐劇をやってみせたことはほぼ間違いないだろう。しかし恐らくそれを知って、あるいは見越して、この令嬢を嵌めた。
コイツら自身なのか、裏に誰かいるのか。
貴族の令嬢がこんな裏稼業に手を出したりするから、あっさりと利用されて自分が危ない目に合う。
「……自業自得だろ」
救いようがない。周りに迷惑をかけ過ぎだ。主に俺に……だが。
「ホントにな。か弱いお嬢ちゃんが俺らみたいなのを従えられると思うのが間違いだ」
俺の呟きに頷きながら、ゴロツキはニヤニヤと嫌な笑いを浮かべる。
「でもまぁ、騎士団長様をおびき寄せるには役に立ってもらったぜ。べっぴんさんは高く売れるし、俺らにとっちゃ上客だった」
するとどこから現れたのか、武器を手にした輩が5〜6人ほど俺を取り囲んでいた。
「騎士団長様は次期王様だって?恵まれた奴はやっぱ相当な恨み買ってんだなぁ」
なるほど、俺が次期国王になるのが面白くない奴らの企みか。ジルとレオが急ピッチで宣言式の準備を進めていたけれど、その前に俺を消してしまえという算段か。
「……短絡的だな」
男は俺の言葉に首をすくめてみせると、錆びついた剣を手に立ち上がった。
「お陰様で俺たちにゃこうして仕事が入って、大金が手に入る。悪く思うなよ」
「思うに決まってんだろ」
俺はそう言うと、剣を抜いて間髪入れずに頭と思しき男に斬り込んだ。
人質がいると面倒なので、甚だ不本意ながら、まずはマリベルを解放する。
「向こうに騎士がいる。そこまで走れ!」
「走るなんて無理ですわ…っ!」
……ったく、せめて俺の足手まといにならないようにとか考えないのか。
俺は素早く近くにいた雑魚を数人片付けると、令嬢を担いでレイナと護衛の騎士の元へと駆け込んだ。
「頼む!」
令嬢を乱暴に下ろすと、俺は奴らの元へ戻る。
「へぇ……律儀にプリンセスまで連れてきてくれてたのか。感謝するぜ」
レイナの居場所を知らせてしまったことに、俺は舌打ちをする。こうなることは分かってはいたけれど、仕方がなかった。後は俺がコイツらをねじ伏せれば良いだけだ。
「行け!」
男は手下にレイナを攫うように指示を出す。それを阻止したいが、この男を倒さねばならない。あの雑魚どもは俺の部下でも十分対応可能だと、レイナのところへ行きたい気持ちを抑え込んで、男と対峙する。
「お前さんに直接恨みはないが、今の騎士団は優秀で仕事がやりにくいんだよなぁ。丁度いい、もう引退させてやるよ。あの世でのんびりしな」
「俺はたった今、お前に恨みが出来た」
言うや否や、俺はさっさと決着をつけるべく男に襲いかかる。一刻も早くレイナのところへ行きたい。
男は弱くはないが、所詮はゴロツキ。もう少しで倒せる……と言うところで部下の叫びが聞こえた。
「団長……っ!」
振り向くと、レイナが拘束されていた。
「良し!そのままアジトへ行け!」
男は嬉々として叫ぶ。
「させる訳ねぇだろっ!」
俺も叫び返すと、男の剣を弾き飛ばし、脚を斬りつける。
「ぐお……っ!」
体勢を崩した男の腹に、更に蹴りを加えると、男は地面に沈んだ。
「レイナっ!」
すかさず逃げた雑魚たちの後を追う。
こんな一瞬で俺が追いつくとは思ってもいなかったのだろう。レイナを担いで闇に紛れて歩いていた男たちはぎょっとしたように飛び上がった。
レイナを盾にしようとしたようだが、遅い。
俺はあっという間に雑魚二人を沈めると、レイナをこの腕に取り戻した。

薬でも嗅がされたのかレイナの意識はなかった。それでも規則正しい呼吸を確認して、俺は安堵の息を吐いた。レイナをギュッと抱きしめると、自分の手が震えていることに気づく。
「守れて……良かった」
レイナの髪に口を押し付けて絞り出した声も、震えていた。
ただ腕の中にある温もりに感謝する。やっと……やっと勇気を出して手に入れた大切なもの。
目の奥がキュッと痛んで、俺は瞼を閉じるとしばらくレイナの温もりを確かめ続けた。

レイナを横抱きにして倉庫まで戻ると、集まってきた部下たちが後始末をしていた。
レイナを任せていた部下は蒼い顔をして項垂れていたが、俺の姿を目にとめると駆け寄ってきて土下座をした。
「団長……団長……本当に申し訳ありませんでした……っ!!!」
「もういい。それより何があったか説明しろ」
レイナを任せるのだ。部下の腕は俺は信じていた。表立って連れて来たのはコイツ一人だけだが他の騎士も闇に紛れてあちこちに配置されていたのは知っていたはず。たかがあの程度のゴロツキにレイナを奪われるなどあり得ない。
部下はチラリと離れたところにいるマリベル嬢に視線をやると、少し言いにくそうに口を開いた。
「あのご令嬢が大人しくしていてくれれば、問題はなかったんです。けど……ご令嬢はゴロツキどもがこちらに向かってくると怯えて、プリンセスが奴らに捕まってくれれば自分は助かるのだとプリンセスを押し出して、剣を抜こうとした私に抱きついてきて……」
俺は無言のまま唇を噛み締めた。血が滲んで鉄の味がする。全身がわなわなと震え、自分でも殺気が抑えられない。
その時、俺に気付いたマリベル嬢が顔を輝かせて走り寄ってきた。
「アラン様...!この度も助けていただきありがとうござい……」
俺に抱きつこうとしたようだが、俺の腕の中にはレイナがいる。その上、隠そうとしていない俺の殺気に当てられて流石にこの空気に気付いたようだ。
「プ、プリンセスもご無事で良かったですわ」
取って付けたような言葉に、俺の殺気が増す。
「……二度と俺の目の前に現れるな」
言葉を交わすのも、視界にその姿を入れることさえ疎ましい。
しかし背を向けようとした俺に、令嬢は更に言い募る。
「わ、私は被害者ですのよ?アラン様だって私が大切だと思うから助けてくださったのでしょう?」
俺は腕に抱いていたレイナを一旦部下に預けると、徐に腰の剣を引き抜いた。そしてそれを令嬢の目の前に突きつける。
「なっ……!」
顔色を失くす令嬢に、しかし庇う者は誰もいない。
「はいはい、アランそこまで」
その時、張り詰めた静寂を断ち切る声が響いた。
現れたレオは令嬢の腕を引いて、俺から距離を取らせた。
「レオ……!」
嬉しそうにレオを見上げた令嬢は、しかし次の瞬間顔を顰める。
「ちょっと、どういうこと!?」
レオは涼しい顔で令嬢の両腕を後ろ手に縛り上げていた。
「言い訳はお父上と一緒に牢屋で聞いてあげるよ」
「牢屋!?何故、私が……!」
「分かってるでしょ?だいたい調べは付いてるから確認作業だけで大丈夫だから」
「な、何が大丈夫ですの…!?」
「うん、俺、女の子には優しいから。後でゆっくり話を聞いてあげるからね」
そう言うと、レオは令嬢の肩を抱いて歩き出した。
「アラン、レイナちゃんをよろしくね」
俺は頷くと、剣を鞘にしまう。


「団長!プリンセスが目を覚まされました!」
その声に振り返ると、ちょうどレイナと目が合った。
「アラン...!無事で良かった……」
「バーカ……。それ、俺のセリフ」
よろめいたレイナを抱きとめながら、改めて無事だったことに心の奥が震える。
「……どこにも行くなよ」
「ごめん……」
「いや、俺が悪かった。手加減なんかしてないでさっさと片を付けてれば良かった」
レイナの頭のてっぺんに唇を落とすと、頬を両手で挟んで顔を上げさせる。
「大丈夫か?どこか痛くない?」
レイナは少し考えるように上の方に視線をやった後、ふわりと微笑んで俺を見た。
「少し頭がぼーっとするけど、痛いとかはないよ」
「そっか、じゃ、いつも通りだな」
「ちょっと、アラン、それどういう意味!?」
笑いながら、もう一度レイナを抱きしめる。
「帰るぞ」
「うん」

 



「アラン=クロフォード、ウィスタリアのプリンセスとして貴方を次期国王に指名します」
レイナちゃんのその言葉の後、水を打ったように静まり返った会場が、次の瞬間大歓声に包まれる。
「次期国王陛下、バンザーイ!」
「プリンセス、バンザーイ!」
この国の全ての国民が二人を認めたわけではないだろう。
それでもこの会場を見ている限りは、好意的な雰囲気が伝わってくる。
悩んで、すれ違って、そして結ばれた二人だからこそ、きっとこの先の困難にも立ち向かっていける。この国をしっかりと導いていかれる。
ほんの僅かな羨望を感じながら、俺は目を細めて二人を見つめた。

*end*

 

何をテーマに書こうかかなり悩んだんですが、やっぱりヤキモチがいいかなぁ…ラブと。←なにが「やっぱり」なんだか…

当初はプリちゃんが突然現れた令嬢にヤキモチ妬いて…って感じで考えていたんですが、書き始めてみたらヤキモチって言うよりアランの一途な気持ちを書いただけになった(笑)

 

久しぶりに書くと、楽しいですねルンルン

能力の低下は否めませんが、また少し書こうかなぁ・・・なんて思ったりしました。

書きかけで放置しているアランお兄ちゃんのお話もちゃんと仕上げたいんですよね・・・。

 

それでは毎日寒いですが、皆様ご自愛くださいねニコニコ