クリニックでの診察に限らず、妊活サイトや妊活雑誌を見ていると、40代妊活女性に向けたメッセージの要点は、「卵子の質をいかに保つか/高めるか」に集約される気がします。

 

そこには往々にして、「妊娠・出産は、年齢が若い方が良い」という暗黙の価値づけが潜んでいる気がします。

それは事実のようにも思えますが、個人的には、女性の人生を「卵子の質」だけで一元的に捉える見方になりかねない、と感じています。


「40代よりも、20代〜30代前半に妊娠した方が、妊娠率は高く、流産率や染色体異常率は低い」


確かにこれは、生き物として自然の摂理だと頷きます。


でも、だからと言って、

「妊娠・出産は、年齢が若い方が良い」

という価値づけを自明にすることは、問題だと思うんです。

この見方は、極論すれば、

「女性は、学業も仕事もどうでもいい。経済的自立もどうでもいい。結婚相手も誰でもいいから、とにかく早く妊娠・出産するのが正解」
「事情がどうであれ、40代で妊娠・出産するのは不正解」


…と言っているに等しいと思うからです。

ですが、今の社会で女性が安心して生きていくためには、学業や、仕事への配慮は欠かせません。さらに、生涯の伴侶を選ぶとなると、時間をかけて熟考して然るべきです。時に怪我や病気が訪れれば、そちらの治療が優先されます。

人生は、こういった様々な要素が絡み合いながら進んでいくわけで女性は妊娠・出産のためだけに生きているわけではないし、それだけを考えて生きていけるわけでもありません。

そんな実情を無視して、「若いうちの妊娠・出産は正解/40代だと不正解」といった価値づけが、暗黙のうちに横たわっているとしたら…

それは、いつかの閣僚発言と同じで、女性を「子を産む機械」として見ているに等しいと思うんです。「なるべく妊娠率を高め、流産率と染色体異常率を低くして…」という意見は、一見すれば正論ですが、効率と生産性を重視するという意味で、工場や畜産に対するスタンスとも重なります。

生身の人間の人生は、そんなに効率よく運ぶものではないはずです。

何が言いたいかと言うと、

「先に挙げた自然の摂理を、どのように自分の人生に組み込んで意味づけていくかは、個々人の自由意思に委ねられるべきであって、少なくとも、社会や他者から押し付けられるものではない」

…と思うんです。

ちなみに私の場合は、生い立ちの事情から、子どもは持たずに生きていく予定でした。それが、夫と長男のおかげで180度価値観が変わり、「妊活したい!」と思えるに至りました。

そのため、40代妊活が、私の人生では最速であり、「もっと若いうちに妊活しておけば…」というタラレバは100%あり得ないので、そのような後悔をせずに済んでいます。

でも、今の社会は、妊活している40代女性に、そういった方向での後悔を強いている雰囲気すらあるなぁ、と感じます。

 

「なぜ早く妊活しなかったの?ほーら、自業自得だよ。後悔しなさい」

 

…とでも言いたげな雰囲気と言うか。

 

妊活に限らず、「若いことは良いこと」「歳をとることは悪いこと」という風潮が強い気がします。かつては、もっと歳を重ねることを尊ぶ時代があったのでしょうか…

話が少し逸れましたが、暗黙の前提のように、目に見えないけど存在するモノをきちんと可視化して、自覚したいとよく思っています。