ウンスは

珍しく気落ちした顔で

帰りの輿の中にいた

傍らには

夫のチェヨンがいて

ウンスの手をさすりながら

その様子を見守っている

 

 

ああぁ

あんなに勇んで行ったのに

まったく情けないわ

言いたいこと

全然言えなかったなんて

それに

大妃様はお忍びで出かけで

お留守だったし・・・

公主様のお迎えに

ソダンに行ったのかしら?

あの子達もそろそろ

帰ってくる時間よね・・・

あああ それにしても私

王妃様のところに

何をしに行ったんだか・・・

 

 

ため息をつく妻の肩に

手を乗せて

チェヨンは微笑んだ

 

 

気にするな

なんともイムジャらしい

ではないか?

それで良かったのだ

 

 

チェヨンは知っていた

肝が座った頼もしい妻は

心優しく情に厚く

自分のことより

相手のことをおもんばかる

性格だということを・・・

 

 
そうよね
だって王妃様に
あんなにすがるような
潤んだ瞳で見つめられたら
何も言い返せない
あぁあ〜

 

 

王妃様は

今回の王子様の件を

直接ウンスに頼むと

話したわけではなかったし

王命に従うようにと

言われたわけでもなかった

ただ王妃様がそれを望んで

いるのだという空気感は

伝わってきた

だから

はっきりきっぱり

「できぬものはできぬ」と

言おうと思っていたのだが

 

 

受諾の返事が欲しい

わけではないのじゃ

ただ王子のことを

今後も心に留めて

やって欲しいのじゃ・・・

妾のわがままな願いだと

承知しております

姉様を悩ませていることも

存じております

ですが二人の将来のこと

結論を急がないでくだされ

 

 

そう言われてウンスは

ぐっと言葉を飲み込むしか

なかったのだ

 

 

イムジャは心根が優しい

憎まれ役は俺一人で十分だ

 

 

いざとなったら

自分が矢面に立とうと

決めているチェヨンは

ウンスにそう言った

 

 

ええ?

ヨンだって十分優しい人

じゃない?

王様と面と向かって

喧嘩なんてことしないわよ

この場合の正面突破は

王様を思っての策だもの

王様に察して

欲しかったんでしょう?

王様のメンツを考えながら

王様の方から

王命を取り下げるように

仕向けようって・・・

 

 

まあ だが

あまりうまい策では

なかったようだ

王子様の方がよほど

父親である王様に

真摯に向き合われていたぞ

 

 

そうねのよね〜

いい子なのよね〜

ウ王子・・・

 

 

ウンスはしみじみ言って

二人は顔を見合わせ

苦笑した

もしもユニョンがウ王子と

大人になって恋に落ちて

嫁に行きたいと言い出したら

文句のつけようがない相手

 

ふぅと息を吐いたチェヨンの

腕が肩にかかり

ウンスはぎゅっと

引き寄せられた

 

輿の中は二人きりの空間

そして予定通り?

やがて

首筋から口づけが始まり

ウンスは小さな声を漏らした

 

輿に乗る主人の代わりに

愛馬チュホンを引いた

テマンの

わざとらしい咳払いが聞こえ

ウンスはハッと我に返ると

慌てて夫を押しのけた

 

 

ダメダメダメ

もう新婚じゃないの〜

油断も隙も無い人なんだから

ここじゃあ ダメよ

 

 

別に構わぬではないか

 

 

ぷうと膨れて

少しいじけた口調で

チェヨンは言い返した

チェヨンの耳にも

もちろんテマンの咳払いは

聞こえていたが

そんなことは過去の事例から

気にするほどの

ことではなかったのだ・・・

 

 

とにかく

今は無理

 

 

そんな押し問答を

繰り返しているうちに

輿はやがて

屋敷の門の前に

静かに着いた

 

 

 

何やら屋敷が騒々しい

 

輿に気づいたヘジャが

飛んで来て

主人夫婦を安堵した顔で

迎えた

 

 

ヘジャ

何かあったの?

 

 

ええと

何からお話ししたら良いか

お屋敷に・・・王子様が

突然いらっしゃいまして・・・

 

 

え?ウ王子が?

 

 

はい

そればかりか

若様が・・・公主様を・・・

ソダンからお連れになられて

なんと大妃様も一緒に・・・

 

 

えええ?

じゃあ 王子様と公主様と

大妃様が今うちに?

 

 

はい・・・それでその・・・

公主様と王子様が

喧嘩になりまして・・・

 

 

ウンスはクラクラした

留守の間になんてことだ

チェヨンはヘジャの

わずかな説明でおおよそを

察したふうで

ヘジャに尋ねた

 

 

それで 皆は?

如何しておる?

 

 

はい

幸い大妃様はポム様が

お相手をされております

公主様は奥の部屋で

若様とお話なさっております

それから・・・王子様は・・・

・・・ユニョンお嬢様と

お庭に・・・

それと・・・

 

 

まだ何かあるの?

 

 

ウンスは頭を抱えた

状況はおおよそ予想がついた

姉と弟は王宮で

滅多に顔を合わせないから

今回の王命の件で

あからさまに

直接話をする機会は

なかったのだろう

偶然チェ家の屋敷で

二人は顔を揃えた

 

ウ王子の一件は公主様にとって

寝耳に水の出来事だった

だから

タンを慕っている公主様の

不満がここぞとばかりに

爆発し

弟君に何か

言ったのかもしれない

もしくは

大妃様がウ王子に

何か尋ねたのかもしれない

それで大げんかに??

 

 

奥様・・・

若様はさすがでございます

 

 

は?え?タン?

 

 

ヘジャの思わぬ答えに

驚いてウンスは首をかしげた

 

 

公主様が王子様に

食ってかかったのを

咄嗟にお止めした上に

やんわりと公主様を諭され

実にお見事でした

 

『ウ王子はミレちゃんの

大事な弟なのに

どおして怒っているの?

ミレちゃんが守ってあげる

べきでしょう?

ミレちゃんが怒るから

ウ王子困った顔していたよ

ぼくはやさしいミレちゃんが

いいな

それにぼくはおこりんぼより

オンマみたいに

お心がきれいな人が

ステキだと思うけどな〜』

 

若様はそうおっしゃいました

その若様の言葉が

よほどこたえたのか

公主様は

「言い過ぎました

ごめんなさい」と

素直にウ王子様にあやまられて

その場は収まったので

ございますよ

 

 

へええ

タン やるじゃない

 

 

ウンスはチェヨンと

目配せして微笑んだ

 

 

ですが・・・あの・・・

若先生と王子様と・・・

それと

ユニョンお嬢様が・・・

 

 

ああ そっちか〜

そっちもあるかぁ〜

一体 何があったの?

 

 

ウンスは眉間にしわを

寄せながら

ヘジャの言葉を待った

 

あたりは日暮れどき

春といえども

風はまだ冷たかった

 

 

*******

 

 

『今日よりも明日もっと』

我を通しても

うまくいくとは限りません

だけど通さなきゃならない

意地もあるんです

 

 

桜桜桜桜桜桜桜桜桜

 

 

あちらこちらで桜の開花宣言

ですね〜

満開の日も近そうです

どうぞ安寧にお過ごしください

またお付き合いくださいね

 

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