アン・ドチは

リコの屋敷からの帰り道

まっすぐ帰る気がしなくて

市場をぶらぶらしていた

 

リコに言われたことは

どれも正論で耳が痛い

反論できない自分を

リコが不甲斐ないと思っても

仕方がないだろう・・・

だけど

科挙への未練は捨てて

内官として王家に

お仕えすると決めたことは

正しい選択だと思っていた

 

 

自分の考えをちゃんと伝えれば

こんなに

モヤモヤしなかったろうに・・・

 

 

リコのツンとした唇を思い出し

アン・ドチは苦笑した

 

 

せっかく

久しぶりに会ったのに

やはりリィは鬼門なのかな?

 

 

リィと呟いてドキンとした

懐かしい・・・

幼い頃のリコの呼び名だ

 

二歳年下のリコは

どこへ行くにも何をするにも

兄たちの後ろをついて来た

兄に疎ましがられると

一緒がいいと 駄々をこねて

叱られて 泣き出して

なだめる役回りはアン・ドチ

 

妹がいないアン・ドチには

ほっぺたを膨らませて

トテトテついてくるリコが

とても可愛らしく思えた

 

 

それが

今日のリコは

嫁入りの話が出るくらい

もうすっかり大人だった

 

すらりと伸びた手足

利発そうな顔つき

鼻の頭に墨がついていても

たとえどんなに毒舌でも

美しく 眩しかった

 

 

いやいや

妹だから・・・

リィは妹だ

 

 

よこしまな妄想を振り払い

言い訳がましく独りごちると

アン・ドチは早足で歩き出す

 

 

ところが

その目の先に

リコがいた

 

声をかけようとして

ドチは一瞬尻込みをした

店先をぶらぶら眺めながら

時々店主と談笑している姿

 

まるで知らない女人のように

いつのまにか

大人になったリコの

物憂げな表情が余計に

大人びて見えた

 

ドチの視線に気がついたのか

リコは顔を上げドチを見た

そして逃げるように走り出した

 

 

待て リコ

待ってくれ

どうして逃げる?

 

 

アン・ドチの声の声に驚いて

それを避けるように

周りも見ずに

勢いよく走り出したリコは

勢い余って あろうことか

たむろしていた柄の悪い連中の

輪の中に飛び込んでしまった

 

 

ええっと?

失礼しました・・・では

 

 

おい ちょっと待て

あん?失礼だと?

あああ 大いに失礼だ

飛んで火に入る夏の虫だな

お前

この落とし前どうつけてくれる?

 

 

ええ?ここは公道よ

みんなが通る道を塞いでいる

あんたたちの方が

おかしいでしょう

邪魔になるじゃないの

 

 

生意気だ

少し懲らしめてやるか

 

 

そうだな

少しいたぶってやろうぜ

いいとこのお嬢様か?

親から金を巻き上げるのもいい

 

 

リコが腕を掴まれた時だった

 

 

やめろ

その娘に手を出すな!

 

 

アン・ドチ!

どうして来たの?

私は大丈夫よ

早く逃げて

 

 

アン・ドチは震える手で

その辺にあった枝を持って

構えた

 

 

震えているじゃないか

くくくっ

こりゃあいい

少し遊んでやるか

 

 

男たちがドチとリコを

取り囲んだ

 

 

二人して

捕まってどうするのよ!

助けを呼びに行くとか

考えなかったの?

 

 

ごめん

リィが腕 摑まれたの見て

頭に血が上った

 

 

普段は冷静なくせに

後先考えないで〜〜

困った人ね

 

 

剣術の腕前はからっきしの

アン・ドチをなじるように

リコは言ったが

その声は少し弾んでいた

 

だが それも束の間

リコを背に隠した

アン・ドチは震えて見えたが

それでもリコを見捨てて

その場から逃げるようなことは

しなかった

 

 

柄の悪そうな連中が

今にも

二人に襲いかかろうと

している

これでは確実に共倒れだ

 

そこで

リコは腹の底から

大声をあげた

 

 

誰かぁ

助けて〜〜〜〜!

 

 

その大きな声に

一瞬ひるんだ男たちだが

「うるせえ!」

逆上してアン・ドチに

殴りかかって来た

 

ドスン

 

鈍い音がリコの耳に広がった

アン・ドチのみぞおちに

誰かの拳が入った音だ

 

ドスン

ボコっ

うっ

 

顔を殴られ

呻く声

 

 

やめなさいよ!

無抵抗の人を殴って

何が楽しいのよ!

 

 

そりゃあ 楽しいぜ

お前ら両班が

こんな世の中に

したんじゃないか

腹いせに仕返ししてやる

 

 

そんなの言いがかりよ

なんでも人のせいにして!

 

 

うるせえ!

 

 

今度はリコの頬めがけて

男の拳が降って来た

 

 

どすっ

 

 

殴られた音はするのに

痛くなかった

 

 

アン・ドチ!

 

 

ドチは

リコの体をかばうように

抱きしめて

その背中に一撃を受けたのだ

 

 

大丈夫か?リィ

 

 

ゲホゲホむせ返りながら

ドチは聞いた

 

 

うん・・・でも・・・

アン・ドチ 

アン・ドチ・・・

 

 

目のはしが切れていた

唇からも血が流れている

 

 

じっとしていて

絶対 リコに

指一本触れさせないから

 

 

アン・ドチは

リコを守るため

さらに

ぎゅっと抱きしめた

 

息がつまるほど

抱きしめられて

もうどしていいのか

わからなくて

 

みんな見て見ぬ振り

誰も助けてくれなくて

 

もうダメだ

と思ったリコは

ぎゅっと目をつぶり

覚悟を決めた

 

 

ところが・・・

 

 

あたりが急に静かになった

 

 

 

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村

 

 

大型連休最終日ですね

いかがお過ごしでしょう?

リコの物語にもう少し

おつきあいくださいませ