誕生日を迎えた朝

ウンスが

昨夜の火照りが残る体で

ゆっくりと起き上がると

寝台の枕元の卓に

布に包まれた品が置かれていた

 

 

ん?

これって もしかして?

 

 

ぱあっと瞳が輝いた

その姿にチェヨンは

心なしかニンマリとしている

 

 

ああ 誕生日の祝いの品だ

が・・・

大したものではないぞ

衣も簪もいらぬと言うゆえ

 

 

照れ臭そうなチェヨンの

横顔にウンスは微笑んだ

 

 

何かな?

 

 

そっと布をめくると

細く長い注ぎ口に栓がされ

持ち手は花の飾りが彫られた

つややかな高麗青磁の瓶

 

 

ん?

 

 

持ち上げて見ると

何やらチャプンと音がする

恐る恐る栓を開けると

深くかぐわしい

香りが広がった

 

 

え?!

もしかして葡萄酒?

 

 

ああ 

イムジャ 好きであろう?

今日に間に合ってよかった

マンボにせっついて

ようやく手に入れたのだ

 

 

ありがとう

嬉しい

でも 

どおして?お酒?

 

 

授乳をしているウンスは

不思議そうに

チェヨンに聞いた

 

 

そろそろ

ゴンも乳をやめる頃

であろう?

 

 

あっ!ええ

 

 

好きな酒を長く我慢して

ゴンに乳を与えてくれた

イムジャへのねぎらいに

と思うて・・・

誕生日のソンムルとしては

不服であろうが・・・

 

 

子育てと仕事を両立することの

大変さを誰よりわかってくれて

一緒に乗り越えてくれている

夫チェヨンからの

心のこもった贈り物に

ウンスはつい涙腺が緩んだ

 

 

ありがとう

ヨンの気持ち

すごく嬉しい

 

 

ウンスは涙ぐんだ声で

答えた

 

 

あ?なぜ泣く?

気に入らぬか?

すまぬ

 

 

慌てるチェヨンに

ウンスは首を振った

 

 

違う

違うの

その逆よ

ヨンの気持ちが嬉しいの

私のことよく見てくれていて

わかってくれて

それが嬉しい・・・

 

 

チェヨンは愛する妻を

抱きしめながら

ホッと安堵の吐息を漏らし

その唇に唇を重ねた

 

 

そこへ

オンマの誕生日が

待ちきれない

四人の子供たちが

押しかけて来た

 

 

おはよう

オンマぁ

ん?

どおして?泣いてる?

アッパ いじめた?

 

 

タンは訝る顔で

ウンスを見つめ

父親をちろりと見た

 

 

ううん

そうじゃないの

アッパの優しさが

嬉しかったのよ

これは嬉し涙なの

 

 

そおなの?

アッパがわるいこと

したかとおもった

 

 

まあ!

ヨンが私に

意地悪するわけないでしょう?

 

 

だよね〜

よかったぁ

だって今日はオンマが

生まれたいい日でしょう?

オンマがわらってないと

かなしいもん

 

 

タンは安堵した様子で言って

それから

タン サン スニョン 

ゴンを抱っこしたユニョン

と 五人ずらりと並んで

大好きなウリオンマに

センイルチュッカへ〜〜

「お誕生日おめでとう」

と張り切ってお祝いを言った

 

 

あのねぇ オンマ

サンきょう

ソダンいきたくないなぁ

きょうはず〜〜〜っと

オンマといたいなぁ

 

 

スニョンも

 

 

ユニョンも〜〜

 

 

子供達は大好きなオンマと

今日一日ずっと一緒に

いたいと思った

三つ子をたしなめるはずの

兄のタンも大きく頷いている

 

 

うふふ

しょうがない子たちねぇ

 

 

では

俺も王宮へ

行くのをやめるか?

 

 

子供に追随するように

涼しい顔で夫は言った

 

 

はあ?

まさかヨンも出仕拒否?

でも

みんなの気持ちは嬉しいけど

診療所の診察があるから

私 お休みできないわよ

 

 

そっかぁ

 

 

そっかぁ

 

 

そうだね

 

 

そおだった!

 

 

子供達は納得したが

チェヨンはまだ何やら

画策している表情

 

 

諦めが悪いんだから〜

ヨン 早く行って

早く帰って来て

今日は昼からの診察は

お休みにしたてあるの

へジャがご馳走を

作ってくれるって

 

 

そおなの?

 

 

食いしん坊のタンが

目をキランと光らせ

母親に聞く

 

 

ええ だから

みんなもたくさん学んで

いっぱい遊んで

お腹空かせて帰って来てね

 

 

わかった

オンマ

ぱーちいたのしみだな

ばぁばも来るでしょう?

 

 

ええ もちろん

ソダンの帰りに

ばぁばのところへ寄って

連れて来てね

 

 

わかったぁ!

 

 

ウンスは子供達の

頭を撫でて微笑んだ

 

 

ねえ にぃに

ションムル

いつわたすのさ?

 

 

サンがごにょごにょ

尋ねると

 

 

し〜〜〜っ

まだピミル

ぱーちいのときだよ

 

 

と タンは笑って

サンの耳元に告げた

 

 

 

それからウンスは

夫と子供達を見送って

診療所に顔を出す

すでに多くの患者が

顔を揃えていた

 

皆 毎年この日を

覚えていてくれて

庭で摘んだ草花や

畑で採れた野菜や

手作りの品々を

主治医に届けてくれるのだ

 

もちろんイサも

用意した贈り物を

そっとウンスに渡した

 

 

これ・・・誕生日の・・・

父上が

よろしく伝えてくれってさ

 

 

例年通り

チェ侍医は顔を見せずに

伝言を息子に頼んで

自分はいつも通りに

典医寺に出仕している

 

 

まああ

気を遣わせちゃったわね

 

 

いいや

父上もソンムル選び

楽しかったと思うから・・・

 

 

え?

 

 

実はこれ

サノさんが帰る前

一緒に出かけた時に

買ったみたいだよ

 

 

ああ なるほど

それで楽しかったのね

 

 

ウンスはイサの思いとは

違った解釈をして頷いた

 

 

それにしても

すごく素敵

 

 

ウンスは手にとって

うっとりと言った

チェ侍医が選んだ贈り物は

サノの選んだ翡翠の簪

ではなくて

裏面に豪華な鳳凰の柄の

螺鈿細工が施された

いささか映りの悪い

この時代の鏡で

その鏡を入れる緑色の巾着は

イサが選んだものだと言う

 

 

ありがとう

大切にするわ

チェ先生に

よろしく伝えてね

 

 

うん わかった

その一言

父上も嬉しいと思う

 

 

「大切にする」

養父が聞きいたら

泣いて喜ぶかもしれないと

密かにイサは思って

にこりとわらって頷いた

 

 

 

 

そしてその日の夜は

家族揃っての

ささやかな誕生日パーティ

 

子供達と夫と叔母に囲まれて

ウンスは

幸せなひと時を過ごした

 

子供達の祝いの歌は

いつものように

コムセマリ(熊三匹)

そして天界式の誕生日の歌と

続いて・・・

へジャが見よう見まねで作った

ケーキが現れ

ウンスが蝋燭を吹き消すと

サンがおめでとうと言って

子供達みんなで買った

ソンムルを手渡した

 

ウンスは満面の笑みで

ソンムルを受け取り

そのキラキラと光った玉は

喉のくぼみのあたりに

すうっと収まった

 

 

綺麗綺麗

みんなで力を合わせて

用意してくれたってことが

何より嬉しいわ

ありがとう!

 

 

オンマのお礼に

子供達は

鼻高々で

いい笑顔を見せている

 

 

にあうね〜

 

 

うん やっぱりいいね

 

 

うんうん

 

 

あぁ〜い

 

 

四人はウキウキした様子で

母親の胸元を見つめている

ゴンがその光る玉に

魅せられたように

握ろうとして

サンに叱られたのはご愛嬌だ

 

 

昼間にはポムもヨンファも

ヘミもジュヒも

祝いに来てくれたのよ

みんな元武閣氏で

私の警護をしてくれていたのに

今じゃあ みんな

素敵な奥様だものね

不思議な気がするわ・・・

特にポム 

あんなに幼く思えたのに

三人のオンマだもの

 

 

ウンスの楽しそうな報告に

チェヨンは目を細め

 

 

けーき うまうまだね

ばぁば どうぞ

これたべて

 

 

タンがばぁばにケーキを

切り分けて渡している

その隙に

 

 

あああああ ゴンがぁ

けーき

ぐっちゃにしたぁ!!!!

 

 

手で盛大に潰して

満足そうな笑顔を見せるゴン

その様子に皆 大笑い

 

 

サン ユニョンのけーき

とらないで!

じぶんのたべなさいよ

 

 

えええ? とってないよ

 

 

じゃあ その手に持った

タルギ(苺)はだれの?

サンのはまだ

けーきにのってるもん

 

 

あれ?バレた!

 

 

しれっと言って

ぺろっと舌を出したサンは

渋々ユニョンにタルギを

返した

 

 

ねえ にぃに

スニョン 

もうちょっと

ケーキたべていい?

 

 

うん まだあるよ

ちょっとつぶれたけどね

 

 

子供達は

いつも以上にはしゃぎ

いつも以上に

わちゃわちゃな卓は

賑やかな声が

絶えることはなく

屋敷は明るい陽の気で

満たされている

 

チェ最高尚宮は

こんな日を夢見ていた昔を

思い出し

こっそり目頭を拭って

独り言

 

 

強い思いが願いを叶える

あれは本当のことだねぇ

お兄様 空から見てる?

あのヨンがこんなに幸せな

家族に囲まれているんですよ

 

 

*******

 

 

『今日よりも明日もっと』

懐かしい匂い

子供達の笑い声

家族の暮らし

家も生きている

 

 

桜桜桜桜桜桜桜桜

 

 

桜前線が最速で

北海道にも到達したと

ニュースになっておりますが

今年の春はなんだか

とても早く感じるあせる

自分の人生の時間時計

時の流れがますます

早まっているのかしら??

 

気づけば

熊本地震から七年が過ぎ

あの頃の被害を改めて思うと

このブログにお越しの

九州の皆様も

どうされているかなぁ

安寧にお過ごしならいいな

と 昨日ふと思いました

 

 

そして高麗では

古い屋敷に新しい息吹

チェ家は陽の気に

満ちて幸せなようです

ウンスのお誕生日

無事にお祝いできてよかった

 

またおつきあいくださいね

 

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