養成所虹の寮母ホン・ソアは
ガランとした寮の中を見回し
心地よい寂しさを感じていた
 
寂しさが心地よいというのは
いささかおかしな感覚だが
晴れやかな顔で
医官の免許状を受け取った
寮生たちの巣立ちは
寮母としての自慢でもあった
 
卒業式にはソアの
叔母でもある大妃様や
養成所に深い理解を示した
王妃様も御臨席され
それは華やかなものだった
 
正装した医仙様は美しかったし
白い布地に紫の縁取りを施した
医官の衣に袖を通した
七名の寮生たちは輝いて見えた
 

ソア自身に子や娘はいないが

二年の月日を共に過ごし

自分の娘を慈しむ気持ちで

その成長を見守ったものだ

そして

医仙様の養成所にかける志の

一翼を寮母として担えたのなら

これ以上の喜びはないと思った

 

ソアは窓を開け

寮の空気を入れ替えた

日頃は寮生たちがやっている

掃除を軽く済ませると

ふぅと一息

 

二期生たちも短い春休みで

卒業式の後

それぞれ帰省していて

寮はとても静かだ

 

しっかり者の寮長だったヒロは

研鑽を積むため

もう一年典医寺に残るといって

朔州郡守であるキム・ドクチェ

とヨンファ夫婦の屋敷に

下宿することになっている

 

 

寮にも遊びに来ます

ここで受けたご恩は

決して忘れません

 

 

ヒロはそう言っていた

私も 私も

卒業生たちは皆

卒業後も

寮に顔を見せてくれると

約束してくれた

それも

嬉しい出来事だった

 

数日後には二期生が戻り

三期生の合格発表と

受け入れが始まる

 

 

さて 今年はどんな子が

入学して来るのかしら?

 

 

腰掛け程度にしか

思っていなかった寮母の仕事が

今では天職のような気がして

ソアは 「う〜〜〜ん」

と 背筋を伸ばした

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

ミジュは今日で

診療所の勤めも最後か

お疲れ様

 

 

朝 診療所の準備を

していたイサは

下働きを一年間

文句も言わずに頑張った

ミジュに労いの言葉をかけた

 

両班の家柄に生まれ

大事に育てられたミジュにとって

たとえそれが修行としても

下女のような扱いの

雑用仕事をこなすことは

耐え難いこともあったはずだ

だがミジュがそれを糧として

今年見事に合格を果たした

 

 

とうとう後一日に

なってしまいました・・・

なんだか寂しいです

でも

若先生

実習でまたお世話に

なるかもしれませんから

その時はどうぞよろしく

ご指導ください

 

 

ミジュはイサに深々と

礼をし感謝の意を表した

思えば 

二年連続不合格という

絶望から始まった

診療所での修行だった

試験のために

医学の知識を詰め込んで

なんでもわかった気になって

自分がなぜ不合格だったのか

わからなかった未熟な頃を

思い返すと

ミジュは顔から火が出る思いだ

 

知識だけで

患者を治すことはできないし

医官の仕事は医女や薬員や

下支えの者たちがいて

初めて成り立つのだと

そんな当たり前のことを

菊花診療所でしっかり学んだ

 

 

他のみんなよりは

ちょっと出遅れたけど・・・

そのぶんいい経験が積めました

ユ先生や若先生のように

患者に寄り添うことのできる

医官になります

 

 

ミジュの言葉に

イサは嬉しそうに頷いた

 

 

ミジュ きょうで

おわかれなの?

 

 

朝の支度を終えたユニョンが

診療所に顔を出して

少し喜んでいるような表情で

イサに尋ねた

 

 

ああ そうだよ

養成所に入る準備もあるし

ユ先生が

「今日で最後にしましょう」

って言ってたからな

ユニョン姫はこれからソダン?

 

 

あいっ

きょうはスニョンもいく日よ

イサにいってきますを

いいにきたの

 

 

そっか 今日は兄弟姉妹

四人揃ってお出ましの日か

 

 

イサはユニョンの頭に

手を置いて微笑んだ

 

 

この春から

三つ子も兄タンと同じ

ソダン(書堂)に通学を

始めた

まだ五歳の三つ子にとって

学問というよりも

お遊びの傾向の方が強い

場所なのだが

にぃにのソダンに憧れていた

サンは特に張り切って

朝寝坊もせずに毎朝

ソダンに通っている

 

一方 スニョンは

ソダンに行くことに

あまり

気が進まないようだった

 

もともとは外遊びより

家で静かに絵を描いたり

書物を読むことの方を

好む性格だったのだが

剣術を本格的に学び出してから

テマン夫婦の道場に通い

腕を磨くことが楽しくて

ソダンに行くことで

道場に通う回数が減るのが

残念な様子だった

 

賢いスニョンは

漢字の習得も早く

書物を読むのも得意だった

だから両親は無理に

ソダンで学ばせるよりも

好きなことをやりたいという

スニョンの気持ちを優先し

他の二人よりもソダンに行く

回数を減らして

その分を

剣術の稽古に当てることを

許可した

 

もちろん

我が子がやりたいことを

やらせてあげたい

伸ばしてやりたいという

チェヨンとウンスの思いも

あってのことだった

 

 

スニョンちゃんと一緒だと

姫 嬉しそうだな

 

 

あいっ

ユニョンはやっぱり

スニョンといっしょがいいな

たのしいもん

でもね おけいこは

ユニョン

ニガテなのよねぇ

 

 

剣術にはまるで興味のない

ユニョンは大人ぶって

ブンブン首を振って

答えた

 

 

ユニョン いくよ

にぃにがまってるよ

 

 

あぁっ いま いく

イサ またね

 

 

そこへユニョンを呼びに

サンとスニョンがやって来て

二人に連れられて

タンやソクテが待つ正門に

ユニョンは急いだ

 

その姿を見守っていると

ミジュがしみじみ

イサに言った

 

 

若先生

スニョンお嬢様のことは

スニョンちゃんで

ユニョンお嬢様のことは

姫 なんですね

それだけ特別なお方って

ことですよね?

 

 

え?ああ そうか

意識したことなかったな

スニョンちゃんのことも

姫って呼ぶこともあるよ

 

 

そうかしら?

私には姫って言葉

特別な響きに聞こえたけど?

気づかないふりしていても

もう十年もしないうちに

ユニョンお嬢様は

お母上様譲りの

素敵な女人に成長されますよ

このまま まっすぐ

若先生贔屓が続いて

お嬢様が大人になられたら

若先生は一体どうされる

おつもりですか?

 

 

観察眼のあるミジュは

イサに静かに問いかけた

 

 

それはどういう意味かな?

ユニョンちゃんはオレのことを

年の離れた兄のように

慕ってくれているだけだと

思うけど・・・?

他意はないよ

さてと 

ユ先生が来る頃だね

そろそろ

診察を始めようか

 

 

イサは困った顔で

曖昧に笑うと

聴診器を首にぶら下げた

 

 

*******

 

 

『今日よりも明日もっと』

春はなんだかウキウキする

新しいことを初めてみたり

新しい出会いに

ときめいてみたり

 

 

桜桜桜桜桜桜桜桜桜

 

 

春はいろいろなことが

新しく始まります

三つ子もソダンに通い

新しい道に踏み出したようです

 

 

さて

今朝は歓喜の祝日の朝を

迎えられた方も

多かったのではないでしょうか?

 

明日も良い日になりますように!

またおつきあいくださいませ

 

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村