上護軍
ちょっといい?
 
 
朝餉の後も
ウンスと過ごした昨夜の
余韻に浸って
締まらぬ顔をしていたチェヨンに
イサが声をかけた
 
 
あ?なんだ?
朝っぱらから?急用か?
 
 
あら イサ おはよう
ご飯食べた?
まだなら一緒にどお?
 
 
いしゃ〜 あんにょん
 
 
奥の間では変わらぬ朝の光景
家族三人の食卓と
そのそばで眠る三つ子
そして
後ろに控える女中頭のヘジャと
その姪のオクリョン
一斉に視線を浴びて
イサはわずかにひるんだが
タンに軽く手を振ると
ウンスに向かって首を振った
 
 
いや 家で食べて来たから
大丈夫
すみません 朝餉の時刻に
 
 
いや 構わぬが・・・
あちらへ行くか
 
 
チェヨンは立ち上がると
イサを促した
ウンスの食事が終わると
次は三つ子の授乳
そのような場所から
イサを一刻も早く連れ出そうと
チェヨンは自分の書斎に
招き入れた
初めて足を踏み入れた
チェヨンの書斎に
イサは興味津々の様子で
辺りを見回し それから
勧められるままに椅子に腰掛けた
 
 
珍しいか?
何もない部屋だが・・・
 
 
書物が積まれた本棚が
壁際に配置され
部屋の真ん中には大きな机と
椅子が四脚
 
 
書庫を兼ねて
書斎を作ったのだが
もっぱら俺の留守中
妻が使っているようだ
いずれは子供達の部屋にと
思うておるがな
 
 
そう言ったチェヨンの目は
どことなくうれしそうだった
見ると
この四年で集めた医学書や
薬草の書物も書棚に並んでいる
 
 
そうなんだ
なんだか落ち着くいい部屋だね
 
 
そうか?
で なんの話だ?
 
 
あ ああ
昨日 王宮に行ったんだけど
倭寇の噂が耳に入って
 
 
そのことか・・・
気になるか?
 
 
まあね
気にするなっていう方が
無理な話だよ
 
 
オモニの故郷で今を生きている
イサだが
育った倭国を忘れることはない
ましてや
自分だけが生き延びたという
罪悪感もあり
倭国で暮らすかつての部下が
幸せに暮らしているだろうかと
気にかかる
 
 
小さな船で乗り付けて
村を荒らして引き上げてるって
 
 
ああ いかにも
 
 
それって母船が沖にあるって
上護軍は踏んでるの?
 
 
イサはどう思うのだ?
 
 
オレはどこかで誰かが
手引きしてるんじゃないかと
母船がいたところで
長期戦には不利だろ?
 
 
どこかで誰か・・・か
 
 
チェヨンは遠くを見るような
顔をした
 
 
イサの言い分にも一理ある
だが
軍議で策も練ったゆえ
イサは案ずるな
 
 
どこかに根城を持った集団が
倭寇のふりをして
狼藉を働いているのではないか
チェヨンたちもそう睨んでいた
そしてその狙いは
判書(パンソ)となった
チェヨンに対する挑戦のようにも
思えた
責務が重くなればなるほど
地位が上がれば上がるほど
人の妬みを買いやすい
ましてやこの春
妻も同時に昇進し
チェ家を疎ましく思う輩は
大勢いるはず
 
 
トクマンたちの第二陣が
出陣する運びとなった
スリバンにも密偵を頼んであるゆえ
追って知らせがあるだろう
 
 
上護軍は行かないのか?
 
 
敵の姿が見えぬ以上
俺は都を離れるわけには行かぬ
ちょうどよかった
俺が王宮へ上がっている間
ウンスや子供達のこと
イサに頼みたいと思うていたのだ
 
 
じゃあ もしかして
上護軍は
倭寇は目くらましで
狙いは自分だと思ってるわけ?
 
 
それは敵を捕まえねば
わからぬが・・・
だが狙いが何であれ
民が巻き添えを食らうことは
決して許すことができぬ
そうであろう?
 
 
そうだね
 
 
二人が難しい顔をして
話し込んでいるところに
ウンスがお茶を持って
やって来た
 
 
なぁに?朝から
怖い顔して
倭寇のこと?
イサったら それより
修練でしょう?
昨日は典医寺で
どんなことを習って来たのか
あとで報告してね
ヨン そろそろ
出仕の時刻よ
 
 
ウンスの後ろからついて来た
タンが満面の笑みで
イサに駆け寄った
 
 
いしゃ〜あそぼ
 
 
タン 
遊ぶのは
父上をお見送りしてからよ
 
 
ウンスはしょうがないわねぇと
笑ってタンに言い含めた
 
 
表門の横には
ほぼ完成したウンスの医院があり
新しい木の香りが辺りに漂い
大工たちが仕上げ作業に入っている
その作業を横目で見ながら
チェヨンは愛馬チュホンが待つ
門に向かった
 
 
行ってくる
 
 
うん
気をつけて
今日は私も子供達も屋敷で
大人しくしてるから・・・
行ってらっしゃい
 
 
後ろにずらっと控えた女中たちは
心得たとばかりに下を向いた
その隙に
ウンスは背伸びをして
チェヨンの頬にチュッと口づけた
 
 
魔除けのおまじない
 
 
チェヨンはウンスの唇の感触を
確かめるように
頬に手を当て 
柔らかに微笑んだ
 
 
だが
魔除けはイムジャにこそ
必要だぞ
 
 
今度はチェヨンがウンスの
唇に唇を重ねた
 
 
もう みんな 見てるのに
 
 
ウンスは照れたように呟いた
 
 
構わぬ
誰が見ていようと
 
 
しれっと言い返すチェヨン
それを見ていたタンが
 
 
ああああ〜〜
りんきよ〜〜
タンも〜〜
 
 
と 拗ねた声をあげ
そばにいるイサに
からかわれている
 
 
医院の前に植えた
チンダルレの花が
ちょうど見頃を迎えていた
 
 
image
credit by haru
 
 
『今日よりも明日もっと』
チンダルレの花のように
たおやかに
つつがなく
暮らせますように
 
 
 
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*
 
 
新年度が始まってそろそろ2週間
そして新学期が始まって初の週末?
でしょうか
環境が変わったり
新しいことが始まったり
何かと気ぜわしい春ですが
どうぞ皆様
安寧にお過ごしくださいね〜
 
 
 
またおつきあいくださいませ

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