あら タン
こっちに来てない?
 
 
サンの部屋から奥の間に
戻って来たウンスは
開口一番そう尋ねた
 
 
いいえ 見てないでするぅ
ねえ ミョン?
 
 
ポムが答え
息子のミョンはキョトンとした
顔で母親ポムを見ている
 
 
部屋から走り出したから
てっきりミョンのことろへ
急いだのかと思ったんだけど・・・
どこ行ったのかしら?
 
 
気がつくと廊下に寝そべっていた
タンの愛犬フンの姿も見当たらない
 
 
ちょっと探してくるわね
 
 
でしたら 私も
 
 
素早くヨンファが立ち上がる
 
 
ううん ヨンファ
休んでいて
屋敷の中からいなくなるはずないし
閨の布団の中かもしれないわ
 
 
ウンスはスニョンやユニョンの
授乳を終えたばかりのヨンファを
気遣ってそう答えた
 
 
ならば ポムが行くでするぅ
医仙様お一人にはできませぬ〜
 
 
大丈夫よ
ここは屋敷の中なんだし
それに刺客を送り込むような
一番の敵はもうこの世にはいないわ
 
 
なれど やっぱりダメでする
医仙様に何かあれば
夫チュンソクの体面に
関わりまする
 
 
大げさねぇ
 
 
ウンスは笑った
 
 
じゃあ 手分けして探しましょう
私は閨を見てくるから
ポムは厨房にいるへジャに聞いてみて
ヨンファはもしもタンが来たら
ここに留め置いてね
目が離せない年になったもんだわ
寝てばかりの頃が懐かしい・・・
 
 
ウンスはやれやれと
動き出した
 
 
ポムと別れて手始めに
閨に向かった
寝台の布団をめくって見たが
タンはいなかった
隣の子供部屋にも気配はない
ウンスの衣装部屋に埋もれていた
ことがあるから
そこも念入りに探したが
いなかった・・・
 
 
どこに隠れたのかしら?
 
 
ウンスは首をかしげて
厨房に向かう
 
 
ポムやへジャが見つけたかしら?
フンも一緒なら庭かな?
ソクテに頼もうか?
 
 
少し焦り気味に厨房に顔を出すと
女中たちが集まっていて
何やら 不穏な空気が流れていた
 
 
へジャ タンを見かけなかった?
 
 
ウンスの登場により一層
空気がこわばる
 
 
いえ 今ポム様に話を伺って
探しに出ようと思っておりました
ソクテには庭をお願いしています
ミヒャンとオクリョンは
奥をもう一度 見て来ておくれ
 
 
どうかしたの?
 
 
へジャに
ウンスは尋ねた
 
 
いえ なんでも・・・
 
 
ポムが口を挟んだ
 
 
なんだか揉めてまするよ
なくなったとかなんとか
 
 
は?なんの話?
へジャ 話してちょうだい
 
 
へジャは困った顔をした
その時ウンスは
人影に隠れて
涙目の顔をしている少女に
気がついた
 
 
あら?この子がえっと・・・
 
 
ほら ちゃんと奥様に
挨拶しなさいよ
 
 
ハヌルが言って聞かせる
 
 
あ あの あの
あたい あの
 
 
クリムが緊張のあまり
声をわなわな震わせていると
へジャが代わりに口を開いた
 
 
今日から奉公するクリムです
先ほど連れて行った時には
まだサン様のお部屋にいらしたもので
挨拶に伺うのが遅れてすみません
 
 
ああ そうだったのね
いいのよ 構わないわ
奥のことはへジャに任せて
あるんだし
クリム
チェ家へようこそ
どうぞよろしくね
 
 
にこやかな笑顔でクリムに
話しかけたが
まるで人見知りのポムの息子のように
クリムは柱の陰に隠れてしまった
 
 
奥様にちゃんとご挨拶なさい
 
 
ミヒャンが声をかけるが
固まったまま
絞り出すように声をあげた
 
 
あたい やって・・・ない
 
 
ん?さっきからどうしたの?
やってないとかなくなったとか?
初日からなんかトラブル?
あ えっと・・・
事件?とか?
 
 
いえ そんなたいそうなことでは
ただ・・・厨房にあった
ポム様からの頂き物が・・・
見当たらなくて
 
 
へジャが言った
 
 
それで?
 
 
この子の袖に入ってるの
あたし 見たんです
だからそれとなく
注意しようと思ったら
知らないって言い張って
 
 
ユウが口を挟む
 
 
ユウもあたしも
チェ家の女中として
恥ずかしくないように
クリムを仕込まなきゃって
そう思って・・・
それで注意したんです
だって女中のしでかしたことも
お屋敷の体面に関わるって
いつもへジャさんが言ってるから
そしたら この子が泣き出して
 
 
ハヌルが続けた
 
 
そ 話はわかったわ
ユウとハヌルの気持ちはわかった
チェ家のことを考えてくれたのね?
ありがとう
 
 
いえ そんな・・・
 
 
ウンスの言葉に
二人は熱くなっていた
頭がすっと冷えた
 
 
きっと何か行き違いが
あったんでしょう?
ね?クリム?
袖の中のものはどうしたの?
 
 
さっき・・・みんなで
食べたとき の・・・
あたい 食べないで
家に持って帰ろうと思って・・・
そしたら ない ないって
騒ぎになってて
でも 本当に・・・知らない
 
 
ああ それで
みんなに問いただされて
びっくりしちゃったのね
 
 
クリムはこくんと頷いた
 
 
体面も大事だけれど
仲間を信頼するもはもっと大事
同じチェ家の仲間なんだもの
私はクリムの言うことを信じるわ
どお?ユウ ハヌル
 
 
奥様がそうおっしゃるなら・・・
それにあたしたちも
ちょっと言い方がきつかったかも
 
 
ユウがしおれて答えた
 
 
じゃあ この件はこれでおしまい
クリムもみんなも
ちょっとした誤解なんだから
仲直り!
 
 
ウンスの言葉にユウとハヌルは
いささか決まり悪そうに頷き
クリムはホッとしたような顔した
 
 
でもぉ
医仙様
じゃあ 皿の上の菓子は
どこへ消えたのでするか?
まさかおばけ?とか?
 
 
うふふ そんなわけないわよ
ほら 
ここに踏み台が残ってるでしょう?
これに乗って取ったのね きっと
 
 
ああ 若様!
じゃあ 若様はどこに?
フンとお庭で食べてるんでするか?
 
 
ソクテが戻ってきて
ウンスに告げた
 
 
庭に
若様のお姿は見当たりませんでさぁ
フンは馬小屋で遊んでましたし
念のため
外を見てきやしょうか?
 
 
ううん その必要はないわ
外へ出たら衛兵に見つかるはずだし
きっとサンの部屋にいるんだわ
 
 
タンはいつものおやつの時間を
わかっていて
だから部屋を飛び出し
厨房におやつを探しに来たのだろう
ウンスがサンの部屋を出て
あちこち探している隙に
またサンの部屋に戻ったから
だからウンスやポムが
どこを探しても
見つからなかったのだ
 
 
おんまぁ〜〜おんまぁ〜〜
どこぉ?
 
 
その時 噂の主の
タンの声が聞こえた
 
 
タン ここよ
 
 
ウンスが呼ぶと
タンは満面の笑顔で
手に菓子を握りしめて走ってきた
 
 
おんまぁ〜〜
おかしぃ 
いしゃに どうじょしてきた
 
 
まあ そうなの?
イサ 喜んだでしょう?
 
 
あぁ〜〜い!
これおんまぁ どうじょ
 
 
私に?
 
 
タンはこくこく頷いた
 
 
ところで
騒ぎになってたお菓子はこれ?
 
 
ヒソヒソとウンスはポムに
尋ねる
 
 
そうでする
ポムが今日持って来た薬菓でする
 
 
そっか・・・
タン ありがとう
私やイサのことを思って
お菓子を運んでくれたのね?
 
 
あい
 
 
でもね
勝手に持っていかないで
今度から へジャに聞くのよ
 
 
あ・・・い・・・
 
 
しょんぼりしたタンの顔
せっかく母親を喜ばせようと
思っていたのに・・・
 
 
ところで
タンはこれ
食べたの?
 
 
ぶんぶん首をふるタンに
ウンスは優しく微笑んだ
 
 
自分のおやつより
イサや私を
気にかけてくれたのね?
偉いぞ タン
じゃあ 
奥の間でおやつにしましょう
ポムやヨンファやミョンと一緒に
食べましょうね〜
美味しいわよ〜
 
 
あぁ〜〜い
 
 
にこやかな母親の顔に
タンも
にこにこ笑顔が戻り
元気に手を挙げた
 
 
へジャ お茶を頼むわね
それから・・・
 
 
ウンスはへジャに何やら伝える
 
 
はい へジャにお任せを
 
 
へジャはポンと胸を叩いて
微笑んだ
 
 
夕方になって
クリムは緊張の女中初日を
なんとか終わらせて家に帰った
 
 
オンマァ みんな
ただいま〜〜
お土産があるよ〜〜
奥様がね
奉公を始めた記念にって
たくさんお菓子を下さったんだ
お優しい奥様で良かった
あたい 
うまくやっていけそうよ
 
 
*******
 
 
『今日よりも明日もっと』
独り占めするより分け合う方が
幸せ気分が増すような気がする
 
 
 
 
 
またおつきあいくださいませ

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