翌日の朝
チェ尚宮が
王宮へ上がるタンを迎えに
チェ家を訪れると
ちょうど小間物屋のコヤンと
行き交った
 
 
チェ尚宮様
おはようございます
 
 
どうしたのだ?
朝早くから
 
 
昨日へジャさんから
ご注文いただい品物の
手頃なものが見つかりましたんで
早速お届けに来たんですよ
 
 
さすがに仕事の早いコヤンが
小脇に抱えた螺鈿細工の小箱を
チェ尚宮はちらりと見て
チェヨンの小さな頃を
ふと思い出した
 
 
タンのか?
 
 
さあ 若様がお使いに?
へジャさんからは何も
聞いておりませんで・・・
ですがこの図柄
よろしゅうございましょう?
 
 
金色に縁取られた小箱の真ん中に
オシドリが二羽描かれ
周りに小花がちりばめられている
 
 
そうだね
ウンスも気に入りそうな柄
私から渡しておこう
 
 
チェ尚宮はコヤンから
螺鈿細工を受け取ると
奥の間へ急いだ
 
昔チェヨンがやっていたように
タンも庭の小石集めか?
チェ尚宮はあの頃を懐かしみながら
奥に声をかけた
 
 
ウンスや
タン
変わりはないかい?
 
 
叔母様
いらっしゃいませ
 
 
ばぁば
あんにょ〜〜ん
 
 
朝餉を食べていたタンは
椅子から飛び降りると
チェ尚宮に抱きついた
 

よしよし元気そうじゃな
ほら ウンス
これを庭でコヤンから預かったが
タンが使うのか?
 
 
まあ よくおわかりで
父上と一緒の小箱は嫌だって
うふふ
でも随分と立派な箱だこと
小石を入れるには
少しもったいないかも
 
 
いいや
これくらい立派な箱の方が
仕舞うものを厳選するだろう
のう タン?
 
 
あぁ〜〜い!
 
 
タンはチェ尚宮から箱を受け取ると
蓋を開いたり閉じたり
描かれている絵を眺めたりと
物珍しそうにしている
 
 
叔母様
あの人から王宮へ
何か知らせはないんですか?
 
 
ああ そうだった
ウンスに文が届いていたのを
預かってきたのだったよ
 
 
チェ尚宮は持ってきた包みを
ウンスに差し出し言った
 
 
きちんと封がされているあたり
恋文であろうか?
 
 
さあ 天界の言葉の文かも?
あの人
少しなら読み書きできるから
 
 
そうか
私たちが行ってから
ゆっくり文を読むがいい
さあ タン
公主様がお待ちかねだよ
支度を済ませておいで
へジャ 
留守中ウンスを頼んだぞ
 
 
はい へジャにお任せを
 
 
ばぁば
おんまぁは?
 
 
母上はお腹が痛くなっては
困るであろう?
だから今日は王宮には
一緒に行けないのだよ
 
 
や〜〜よ〜〜
おんまぁ も
いっしょ よ〜
 
 
ごめんね タン
私は行けないの
タンはうんと遊んできてね
それで帰ってきたらお話を聞かせて
ほら
そろそろポムとミョンも
来る頃だから
一緒に行ってらっしゃい
ミョンと仲良く遊ぶのよ
 
 
ウンスは頭を撫でて
渋るタンに言い聞かせた
 
 
ウンスや
どうだろう?
そろそろ
王宮の邸に戻っては来ないか?
王宮ならば警備も万全
それに武閣氏を付けることもできる
ここにこだわるお前の気持ちも
わからなくはないが
そなたたちを残しておくのが
私は心配なのだよ


小言口調ではあるが
温かなチェ尚宮の言葉が
ウンスはうれしかった
だが
 
 
わがまま言ってごめんなさい
叔母様・・・
でも幸い
優秀な私兵の
ソクテも目配りしているし
マンボ姐さんのとこの人たちも
近くにいるわ
それに叔母様もも
衛兵を配置してくださってるし
夜はイサが詰めてくれてる
だからここの警備も頑強なんですよ
近所にはポムもヨンファもいて
クッパを持って駆けつけてくれる
マンボ姐さんにも
自分の屋敷なら
気兼ねなく会えるもの
私はここで 
いつも通りに暮らして
あの人が帰って来るのを
待っていたいんです
 
 
では産み月になったら
王宮へ来るのであろう?
 
 
ううん 叔母様
出産はここでしようと思って・・・
もちろんいざという時は
チェ先生やサラが来てくれると
思うけど
できるだけ自然に出産したいと
思っているんです
この時代だもの 
危険なのは承知しています
だから今もこうして休み休み
体調に気を配って
チェ先生の処方したお薬も飲んで
お腹の子供たちを大切に育んで
生まれる日までここで暮らしたい
 
 
どうしてもかい?


はい   叔母様


それにしても
チェ家の一大事に戦とは
ヨンも間が悪いことだ
 
 
チェ尚宮はぶつぶつと
だがウンスにはそれ以上
無理強いはしなかった
一度言い出したら聞かない気性の
女人だということは
十分すぎるくらいに知っている
 
チェ尚宮はやれやれ・・・と
肩をすくめ
支度を済ませたタンと
後から屋敷に訪れたポム親子と
ともに王宮へと向かった
 
 
━─━─━─━─━─
 
 
そろそろ
王宮に早馬が着く頃か?
 
 
隊列は北上を続け
相変わらずチェヨンの隣を陣取る
アン・ジェはチェヨンに尋ねた
 
 
そうだな
こちらは変わりないし
敵もまだ
国境にたどり着いてはおらぬと
王様に御報告をした
 
 
そうか
また再び 
鴨緑江(アムノッカン)で
元と対峙することになろうとは
なんという因果であろうか?
 
 
いいや アン・ジェ
此度は元と対峙するのではないぞ
ワン・へ(徳興君)が高麗王に
冊封されるのを阻むための戦だ
奇皇后の勢力も元国内で
もはや一枚岩とは言えぬであろうが
厄介であることは間違いない
 
 
奇皇后は高麗が祖国なのに
この国のことを
兄の仇と思っているんでしょうか?
 
 
トクマンがボソッと尋ねた
 
 
お前も奴らのことを
「我らの仇」と言うていたぞ


チェヨンが言い返す
 
 
あ そうだった・・・
仇同士か・・・
なんだかいつまでたっても
キリがないですね
 
 
そうだな
だからこそ
憎しみの連鎖は
我らが此処で
断ち切らねばならぬ
 
 
はっ 上護軍
 
 
トクマンは勢いに任せ手綱を引き
馬が驚いて暴れ
危うく落馬しそうになりながら
なんとか返事をした
 
 
それにしても
ワン・へも奇皇后もどこで
道を間違えたのでしょうねぇ
慎ましく暮らしていればよいものを
 
 
パク・インギュが呟いた
 
 
人の欲とは限りがない
奇皇后は元でさらなる権力を欲し
ワン・へは高麗王になる夢を見た
この戦は二人の思惑が
たまたま一致しただけのこと
そこには大義も信義もない
あるのは自分勝手な思いのみだ
 
 
チェヨンは忌々しそうに
インギュに答えた
 
 
時にチェヨン?
 
 
あ?
なんだアン・ジェ
 
 
お前の恋文も届いた頃か?
 
 
王様へ宛てた文とは別に
チェ尚宮に託した文が
ウンス宛てであることを
その場にいたみんなは察していた
 
 
うるさい
恋文など書いてはおらぬ
お前こそ ウネ宛てに
本当は届けたかったのではないか?
 
 
便りのないのは無事な知らせ
ウネにはそう言い聞かせて来た
お前がマメだど
ウネが医仙様を羨ましがって
拗ねてかなわぬ
 
 
知るか
お前たち夫婦のことなど


近々決戦があるなどと
思えないほどに
その場の話は軽妙で和やかで
微笑ましいものだった

 
━─━─━─━─━─
 
 
タンが王宮へ行ってしまい
ヨンファが来る前のひと時
ウンスは先ほど渡された
チェヨンからの文をそっと開いて
目を見張った
 
 
ヨン・・・
 
 
そっと名前を呼ぶと
知らないうちに涙がこぼれた
 
 
奥様
大丈夫でございますか?
 
 
お茶を運んで来たへジャが
慌てている
 
 
うん 大丈夫よ
文がうれしかっただけ
それですごく旦那様に
会いたくなっちゃったの
 
 
左様で・・・
 
 
余計なことを聞かず
主人の心中をおもんばかるのが
女中頭へジャのいいところ
へジャは静かに部屋を出て行った
 
 
ウンスの手に広げられた文は
見事な墨絵だった
連なる山々
土埃が舞い上がりそうな道
遠くに浮かぶ雲
野営の陣幕
そしてそこに佇んでいる武士の姿が
ぼんやりと描かれている
 
 
文字が上手なだけじゃなくて
絵心もあったのね
ずるいわ
こんな文を送って来て
今すぐにでも
会いたくなるじゃない
 
 
ウンスは遠く離れたチェヨンに
愛しさを込めて話しかけた
 
 
*******
 
 
『今日よりも明日もっと』
よく食べて寝て
元気でいて
いつもあなたを想っているから



 
 
 カムサハムニダ〜〜ウインク

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村