チェヨンが自分の屋敷を目指し
愛馬チュホンを全速力で
走らせていた頃


奥様
奥様にお客様にございます


ヘジャはウンスに来客を
告げていた
 
 
ん?私にお客様?
誰かしら?
典医寺の関係者?
 
 
見知った顔ならば
誰それにございますと
ヘジャなら名前を告げるはずで
ウンスは訝るように首を傾げた
チェ家に突然の来訪者はまずいない
刺客を警戒し
チェヨンがスリバンと衛兵に
顔見知り以外決して屋敷の門を
くぐらせないように命じているからだ
ひとたび不審な動きがあれば
チェヨンに斬り捨てられる可能性も
あるわけで
それをかいくぐって来たあたり
無謀なのか腕に自信があるのか?
 
 
それがお会いしてから
名乗ると胡服の出で立ちの
男の方でして
如何いたしましょう?
 
 
胡服?
元の人?
ヘジャ
ソクテは?
 
 
はい奥様
お客様に張り付いております
 
 
そう
ソクテに客間に案内させて
それから念のためタンは
ヘジャとオクリョンと一緒に
子供部屋に
 
 
ですが奥様
怪しい輩かも知れません
奥様に万が一のことがあれば
ヘジャは死んでも死に切れません
 
 
うふふ
大袈裟ね   大丈夫よ
胡服を着る人って
私    高麗で一人しかしらないもの
その人は刺客じゃないわ
 
 
はあ
 
 
それに多分連絡を受けた旦那様が
こっちに向かっていると思うし
心配ないわ
 
 
はあ
 
 
そこへ使用人の裏木戸を抜け
庭からこっそりやって来たポムが
顔を見せた
 
 
ポム!どうしたの?
 
 
ヨンファさんの屋敷にいたら
気味の悪い輿が横切ったでする
それで後を追って
 
 
わざわざ?
 
 
当たり前でする
医仙様をお守りしまする
 
 
ヘジャはほっとしていた
腹に子がいても無理や無茶をするお方
ましてや武閣氏の護衛もない中
得体の知れない男と対峙させるなど
寿命が縮む
 
 
ポム様
奥様をよろしくお願いいたします
ヘジャは若様をお守りいたします
 
 
おんまぁ
たんも   いく
おんまぁ〜〜
 
 
心配そうに
ばたばたするタンをヘジャに渡し
ウンスは客間へと向かった
 
 
客間にいたのは初老のがっちりした
体型の胡服の男
男はわずかに目元を崩し
ウンスに言った
 
 
此度は魏王の姫のご出産に
ご尽力とのこと
王子の誕生に
魏王もお母上様もお喜びである
 
 
まさかとは思うけど
それを伝えに
わざわざ屋敷に来たの?
元の断事官(タンサガン)さんが?
 
 
いや
断事官は辞したのだ
 
 
ポムは驚いた顔をして
二人のやりとりを聞いていた
タンサガン ソン・ユは
高麗人でありながら
元に仕えタンサガンとして
高麗の行政を監督し
医仙を公開処刑すると命じた人物
 
 
辞めた?
あらまあ
どうして?
 
 
ウンスは目をまん丸にして
ソン・ユに尋ねた
 
 
元にかつての勢いがないことに
医仙も気づいておろう
高麗がそれほど強くなったのだ
もはや元の統治下に
収まるような弱小国ではあるまい
ゆえに某のタンサガンとしての
役目は終わった
 
 
そう?なの?
 
 
ウンスは逡巡した
今や王宮に巣食う親元派は一掃され
元が高麗を支配していた頃の
機関や役所の名残はすべて
なくなっていた
もちろん元の理不尽な要求で
貢物や貢女も
差し出すことも今はない
 
 
医仙は知っているのであろう
先の世がどのような世か
そこに元がないと言うことも
 
 
えっと〜
 
 
ウンスが言いよどんでいると
軽やかな足音が聞こえた
タタタタたっ
 
 
おんまぁ!
けんちゃな?
おんまぁ〜〜
 
 
タン
駄目じゃない
ここへ来ちゃ
 
 
ウンスはタンを後ろに
隠すようにして追いかけて来た
ヘジャを見た
 
 
申し訳ありません  奥様
若様はあまりに素早く
 
 
へジャが息を切らして頭を下げ
ウンスのそばに控え
心配そうに自分を見ている夫の
ソクテに目配せをした
ソクテはすぐさまタンを抱え
部屋から出て行こうとしたが
ソン・ユに呼び止められた
 
 
医仙のご子息に
預かりものがあるのだ
 
 
え?タンに?
誰から?
 
 
王妃様の妹君ナラン様じゃ
 
 
ナラン姫??
 
 
ウンスは懐かしい名前に
思わず声をあげた
 
 
そうじゃ
王妃様のところに先日使者が
参ったであろう?
その使者が持ち帰った
ナラン様宛の王妃様の文に
そなたの息子がもうすぐ
誕生日を迎えると書いてあったそうじゃ
それで高麗に行くならば
ぜひそなたとチェヨンの息子の祝いに
これを渡して欲しいと
 
 
ソン・ユは懐から包みを取り出すと
ウンスの前に置いた
 
 
まあ これは!
珍しい・・・高麗では
まだ見たことがないわ
 
 
そうであろう
西域より手に入れた大事な品を
そなたの息子へ授けると言うのだ
 
 
卓の上に置かれた硝子の筒から
さらさらと砂が舞い落ちる
タンは目を奪われ
ソクテの腕から飛び降りると
砂の落ちる様をじっと見ている
 
 
・・・久しぶりに見たわ
 
 
おんまぁ きれ〜〜
ネ〜〜
しゃらしゃら〜しゃらしゃら〜
 
 
モレシゲ(砂時計)っていうのよ
 
 
もれしげぇ?
 
 
タンは目をパチクリしながら
聞き返した
 
 
時を刻むもの
確かこの時代
航海の時とかに使ったはずだわ
 
 
ソン・ユはかすかに笑った
 
 
時を旅する医仙の息子に
相応しいソンムル(贈り物)であろう?
 
 
あら ちょっと
私は時の旅なんかしないわ
私はずっと此処にいるもの
それに息子もず〜〜っと高麗人よ
チェヨンの息子なんだもの
 
 
ウンスはむっとして
それから慈しむようにタンを見た
タンはモレシゲをひっくり返し
またひっくり返しを繰り返し
さらさら舞い落ちる砂を
きらきらの瞳で見つめている
 
 
でも
珍しいものを届けてくれて
ありがとう
ナラン姫によろしく伝えてください
で本題は何?
わざわざこれを届けるためだけに
この国まで来たわけじゃないでしょう?
 
 
かつて
元のタンサガンだったソン・ユは
卓の上に自分の腰につけていた
ホエジュンシゲ(懐中時計)を
そっと置いた
 
 
これが何かわかるであろう?
医仙・・・
 
 
*******
 
 
『今日よりも明日もっと』
時を刻むもの
時を司るもの
時を超えて出会うもの
 
 
 
 
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*
 
 
『シンイ』や『ヒーラー』の
脚本家ソン・ジナさんが
かつて描いたドラマが『모래시계砂時計
お話のモレシゲのフレーズで
このドラマのタイトルを思い出した方は
相当な『ソン・ジナ』フリーク?かも?ニヤリ



 
台風に気をつけ安寧にお過ごし
くださいませ

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