王宮の門にたどり着いたウンスたちを
武閣氏のヘミとヒョリが出迎える
今までならばそのままウンスたちと別れ
兵舎や集賢殿に向かうチェヨンだが
このところは典医寺にウンスが落ち着くまで
ついて行って見届けるようになっていた
 
チェヨンは王妃様の回診の折も
ついて行きたいくらいだと
毎朝のようにぼやいているが
さすがに地位も上がり部下も多く
仕事もぎゅうぎゅうに詰まっている日々
お役目の途中で抜け出すことは
なかなか出来なくなった
それで 渋々
テマンを護衛につけることで
折り合いをつけ
逐一 ウンスの
報告を受けているようだった
 
だがウンスはもしかしたら
それを口実にテマンが
タンの警護についているジュヒに
王宮でも会えるようにと
チェヨンが
粋な計らいをしているのではないかと
密かに思っていた
本人に尋ねてものらりくらりと
はぐらかされるだけだが・・・
 
 
イムジャ
疲れたら すぐに休むのだぞ
 
 
うん わかってる
心配性は変わらないのね
 
 
ネ〜〜〜
 
 
タンはくねっと腰をひねると
ウンスに相槌
 
 
タン
俺のいない間は母上を頼むぞ
 
 
あぁ〜〜い
 
 
やあね
赤ん坊にそんなこと
頼む父親がいるかしら?うふふ
 
 
ウンスは笑ってタンの手を掴む
 
 
イムジャ タンは俺が
 
 
大丈夫よ
心配性ね
 
 
そう言ったそばからウンスは
足元の石につまずきよろめいた
 
 
だから言うたであろう?
まったくこれだから・・・
 
 
即座に抱き止めると
チェヨンは怒ったように
ウンスに言った
 
 
その腹
タンの産み月くらいに見えるぞ
それでは足元も見えぬであろうが
 
 
ええ?嘘?
もうそんなにお腹 
大きいかしら?
 
 
ヘミとヒョリに視線を向けると
二人は首をかしげた
タンの時は確か
そんなにお腹が目立つほうではなかった
だから産み月になってやっと
ぽこっと出てきたような気もする
 
 
そう言われましても
私たち 若様の時のことを
あまり良く記憶しておりませぬ
 
 
申し訳なさそうなヘミに
ウンスは微笑んだ
 
 
ううん いいの
だいたいヨンが大袈裟なのよ
 
 
ならば チュンソクの嫁御に
聞いてみよ
とにかく イムジャ
無理をせずに大事に過ごしてくれ
俺の心臓が持たぬ
 
 
はいはい
わかったわ
で そろそろ腕を離してくれる?
上護軍の体面に関わるんじゃないの?
 
 
妻を抱きしめたままのチェヨンを
ニヤニヤと遠巻きに見ている皆の視線に
ウンスの頬は赤らんでいた
タンは父親の衣を引っ張って
口を尖らせている
 
 
よん め〜〜よ〜〜
りんき よ〜〜
 
 
━─━─━─━─━─
 
 
典医寺の診療室に
ウンスが落ち着くと
チェヨンはくれぐれもよろしく頼むと
その場にいた
チェ侍医やトギやサラに言って
部屋を出て行った
 
毎朝のチェヨンにトギは呆れ顔
煩わしい男だと手を大きく動かして
ウンスに伝えている
 
 
まあ そう言うでない
上護軍のお気持ちもわからんではない
若様の時とは違って多胎妊娠なのだ
医仙様のことも
お腹のお子様たちのことも
心配でならぬのでしょう
 
 
ウンスはジュヒが迎えに来るまで
部屋の隅で積み木遊びを始めた
タンを横目で見ながら
ポツリとこぼした
 
 
それはそうかもしれないけど
ここは都で一番の名医が揃う典医寺よ
あの人ったら 心配が過ぎるの
タンの時より 
色々細かくて・・・
 
 
ウンスは肩を竦めた
チェヨンは妊婦の妻を気遣って
食べるものや着るものも
細々へジャと
打ち合わせをしているようだし
風呂に入るのは当然のように
チェヨンと一緒でなければならず
どこかへ行くにも
なかなか許可が下りなかった
 
 
いいえ 医仙様 
お産はお一人お一人違います
病ではないが侮ってもいけない
それは医仙様がよくご存知のはず
 
 
うん・・・そうだけど
籠の鳥は似合わない性分なのよ
 

まあ   そう言わず 
我々も上護軍のご期待に添えるよう
万全の備えをいたしますゆえ
医仙様もどうぞご自愛くださいませ
 
 
チェ侍医の真顔の語りかけは
迫力があった
 
 
ええ わ わかったわ
気をつけます
 
 
診療室の空気がピンと張りかけた時
サラがおずおずと
ウンスに籠を差し出し言った
 
 
あのう これを・・・
家の庭に成ったのですが
医仙様にと母から預かりまして
 
 
籠の中身は
たくさんの熟れたムファグァ
(無花果)だった
 
 
まぁ ムファグァ!
お庭で採れたの?いいわね〜
ころんとしていて美味しそう・・・
うちの庭にも
ムファグァを植えようかしら?
もちろん花や庭木も綺麗だけど
実がなるものは山桜くらいしかないもの
ちょうど昨日もいただいてね
でも
こういうおすそ分けは
いくらでも大歓迎
それに 食べきれない分は 
ジャムにしましょうって
へジャが言ってたから
これもそうしていいかしら?
 
 
まぁ じゃむ・・・に
でございますか
桜桃のじゃむ
美味しかったですもんね〜
 
 
じゃむ?
うまうま ネ〜〜
 
 
タンがウンスの方を見て
うれしそうに言っている


タンも好きだものね
きっと
ムファグァのジャムも美味しいわよ
そうだ 
出来上がりをおすそ分けするわ
ああ もちろんトギにもよ
 
 
じっとウンスを見ていたトギは
当然と言わんばかりに
ふんと鼻で笑って頷くと
薬草園へと向かった
チェ侍医は今日の予定を確認し
サラは産科診療の準備を始め
道具を揃えて検分している
 
 
ねえ ところでサラ?
そろそろ王宮で用意した屋敷に
移ってきたら?


ウンスは何気に
サラに尋ねた
 
 
え?いえいえ
そのようなお気遣いは・・・
両親の家で十分でございます
お屋敷など私には分不相応
 
 
サラはもともと良民で
医女として町中で薬房を営んでいた
それが病人を
典医寺に運んできたのが縁で
ウンスの医術と人柄に憧れ
初めは
ウンスの私的なお抱え見習いとして
典医寺で奉公し
王妃様のご出産に尽力した功績もあり
またウンスの引き立てもあって
王宮医官の試験に合格
医女から医官へと昇格という
言うならばこの時代
異例の出世を遂げていた
 
 
サラは
そう言うだろうと思っていたから
強く勧めたことはないけど
でもご実家から通うのは
大変だろうなって
ずっと思っていたのよ
出産が続くと泊り込むこともあるし・・・
サラは典医寺の立派なお医者様だわ
王宮から賜ったお屋敷に
住む資格は十分ある
もちろんご両親も一緒に住んでいいのよ
 
 
そのようなもったいないお話
両親が聞いたら卒倒いたします
 
 
奥ゆかしいと言うのか
なんと言うのか
サラは出会った頃から変わらず
無欲で医術に真摯で努力家
 
 
一度ご両親にも話してみて
愛着のあるご実家だもの
今すぐとは言わないけれど・・・
 
 
ウンスはこれ以上押すのは
かえってよくないと思い
やんわりを話を畳んだ
 
 
さて 王妃様のところへ伺うわ
ヘミ ヒョリ そこにいる?
そろそろジュヒがタンを迎えに
来る頃だと思うんだけど
途中までタンも一緒に連れて
行こうかしら?
 
 
タンはすくっと立ち上がると
たたたたっとウンスのそばに来て
手を掴んだ
 
 
たんも〜 おんまぁ
いっしょ ネ〜〜
 
 
ええ ばぁばが待ってるわ
それに公主様も
 
 
あぁ〜〜い
 
 
じゃあ 行こうか?
 
 
用意を済ませたウンスは
タンの手をぎゅっと握り締め
お腹を抱えて歩き出した
 
 
風が気持ちいいわね
ほら タン
お空にいわし雲が浮かんでる
秋の空ね〜〜
 

ウンスは空を指差して笑った

 
ネ〜〜
きれい   ネ〜〜


タンはこの世で一番綺麗な
母親の笑顔を見上げ
てうれしそうだった
それから視線を下に戻すと
声を上げた


あっ おんまぁ 
てま よ〜〜
 
 
空を背にして
チェヨンに遣わされたテマンと
タンの警護のジュヒが
にこにこ並んで歩いて来るのが見える
 
 
ほんとだ
テマンね
 
 
ウンスはすっかり大人になった
テマンが頼もしく見えた


てま〜〜
じゅい〜〜


二人を呼ぶタンの可愛い声が
辺りに響いている
 
 
*******
 
 
『今日よりも明日もっと』
秋の空が優しく
あなたを
見守ってくれますように

 
 

 
 
ムファグァをジャムにと
アイデアをお寄せ頂きましたので
ヘジャに作ってもらうことに   笑
タンも気に入るといいな照れ




またおつきあいくださいませ
安寧にお過ごしくださいね
ポチッとカムサハムニダ〜〜ニコニコ
 

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