夕方を過ぎた頃
テマンがチェヨンの愛馬
チュホンを連れて帰宅した
 
 
あれ テマンさん
奥様と若様は旦那様と
ご一緒かい?
 
 
うん 
医仙様が帰り道で
急に市に寄りたいと言い出してさ
そうしたら隊長とポム様に出くわして
で 飯を食うことになったんだ
 
 
へぇ そりゃあ 
珍しいこともあるもんだ
ポム様はお喜びでございましょう
 
 
まあね
で 医仙様から
ヘジャさんに伝言を頼まれて
夕餉は済ませて帰るって
 
 
そうでございましたか
じゃあ テマンさんの食事の支度を
すぐにいたしますね
 
 
ヘジャが動き始めたのを見て
テマンは申し訳なさそうに言った
 
 
いや へジャさん
ごめん
久しぶりに
コハクと待ち合わせしてるんだ
だから飯はいらない
 
 
左様でしたか
ではお気をつけて
行ってらっしゃいませ
ジュヒ様にもよろしく
たまにはこちらにも
お寄りくださいと・・・
 
 
わかった 
行ってくるね
あ そうだ
夕餉 もう用意していたら
食べてくれって
医仙様が言ってたよ
 
 
言うが早いか
テマンは消えた
よほどコハクに会うのが
楽しみなのか
そんなことをぼんやり思いながら
へジャは
厨房で小さなため息をついた
 
主人夫婦と若様のために
丹精込めて焼いた
チャンオクイ(焼き鰻)が
行き場を失った気がした
 
 
どうした?へジャや?
 
 
夫のソクテが首に手ぬぐいを巻いて
汗だくになりながら
籠を担いで厨房へ戻って来て
へジャの様子を気にしている
 
ソクテはチェ家の私兵で
庭師で使用人だが
この夏は昨夏よりも
さらに本格的に畑も始めていた
 
屋敷の端の余っている土地を耕して
カジ(茄子)オイ(胡瓜)はもとより
今年はタンの大好きなスバク(西瓜)
ム(大根)葉物野菜と
種類を増やして
丹精込めて育てている
若様タンも畑の野菜に興味津々で
朝採りについてくることもあったが
それもまたソクテの楽しみの一つ

井戸水で冷やしたオイ(胡瓜)を
カリカリ言わせながら食べる
若様タンの姿を見ると
自然と目尻が下がった
 
遅くに結婚したへジャ夫婦に
子供はいないが
孫のように いやそれ以上に
可愛い若様タンの喜ぶ顔を見たくて
ソクテは畑の野菜たちを
一生懸命育てていた
 
 
ヨボや
なんでもないよ
若様や奥様が夕餉を済ませてから
帰ってくるとテマンさんから
知らせを受けてね
奥様が暑さに負けないようにと
用意した夕餉が
無駄になっちまったと
思っていたところさ


ウンス贔屓のヘジャは
少しがっかりした口調をまぜて
ソクテに話した
 
 
今日はチャンオだろ?
豪勢だな
奥様も残念がるだろうさ
 
 
ソクテは夕餉に間に合うように
収穫してきた葉物野菜を広げ
へジャに優しく笑いかけた
 
 
そうさな
マヌル(にんにく)と
センガン(生姜)を乗っけて
チェ家の味噌をつけて
この菜っ葉で巻いて食べたら
絶品だろうに
残念なこった
明日の朝にお出ししたらどうだ?
菜っ葉ならまた採って来てやるぞ
そうだ それがいい
 
 
そうだね
そうしてもらおうか
だけどこう暑くちゃ
せっかくのチャンオが
駄目になってしまうね
明日の朝 もう一度
新しくこしらえることにして 
これは
ヨボに食べてもらおうかね
 
 
日焼けして一段とたくましくなった
夫とチャンオ(鰻)を見比べ
へジャは言った
 
 
馬鹿言っちゃいけねぇ
ご主人様のための料理だろ?
申し訳なくて胃が痛くなる
 
 
律儀なソクテが
ぶるぶると首を振る
 
 
けれど
捨てるのは勿体無いし
それに作った夕餉は
食べてしまうように
奥様に言われてるんだよ
ご好意を無駄にしては
申し訳が立たない
ヨボには暑さに負けないで
精をつけてお屋敷のために
働いてもらわなくちゃ
 
 
そうかい?
そういうことなら
頂くとするか
チャンオか・・・
精をつけて
期待に応えなくちゃなんねぇ
 
 
いい匂いにつられて
ソクテはうれしそうに頷き
ヘジャを見つめた
最近よりたくましく見える夫に
柄にもなくドキドキして
ヘジャはぽっと赤くなって呟いた
 
 
期待に応えるって
何を言ってんだか・・・
夕餉はオクリョンと三人だよ
でも 酒をつけようか?
 
 
ソクテが笑ってへジャを見ている
 
 
夫婦になってそろそろ一年
いい年をして
さすがに恥ずかしくて
主人夫婦のようにいちゃいちゃしたり
人目もはばからず
接吻したりは出来ないが
遅咲きの茄子の花のような
味わいのある夫に
ヘジャは
ますます気持ちが惹かれて
途切れた縁が
ふたたび夫婦として繋がったことに
感謝していた
 
 
これも母さんのおかげかも
知れないね
 
 
ソンオク自慢のチェ家秘伝の
醬の瓶を手にしながら
ソンオクを思い出した
 
 
━─━─━─━─━─
 
 
星がまたたき
月が行く道を照らす夜になり
チェヨンたちが屋敷に戻って来た
 
少しほろ酔いで上機嫌なチェヨンは
眠りについた息子のタンを
片手で抱き上げ
片手でウンスの手を引いている
 
その
いつも見慣れた光景に
ヘジャはほっとして
主人夫婦を出迎えた
 
 
ごめんね   ヘジャ
すっかり遅くなったわ
あら   なんだかいい匂い
 
 
夕餉にチャンオ(鰻)を
ご用意していたものですから
 
 
辺りに漂う芳ばしい香りに
眠りながらタンの鼻の穴が
ひくひくとしている
 
 
おんまぁ
ぺごぱ   よ〜〜
 
 
寝ぼけながら食いしん坊のタンに
チェヨンは笑った
 
 
しょうがない奴だなぁ
あれだけクッパを食って
寝言まで食い物か?
食いしん坊は母上譲りだぞ
 
 
もう!そんなことないわよ
ヨンだって小さい頃は
チャメ(瓜)を食べ過ぎて
お腹を壊したじゃない!
知ってるんだから
ほんとは食いしん坊なくせに
 
 
ぷいとふくれた顔が
可愛らしくて
ついつい構いたくなる
 
 
ああ   俺もぺごぱだ
早う喰いたいものがあるゆえ
 
 
ウンスの指に指を絡めて
チェヨンは囁くように言う
 
 
やだ!ヘジャの前で
何言ってるのよ
酔っ払いなんだから
 
 
チェヨンはまるきり
気にする様子もなく
ウンスをぐいと引き寄せ
耳元で囁いた
 
 
いむりゃ   かくごしとけ
よ〜〜
 
 
にやりと笑う
チェヨンにウンスは切り返す
 
 
知らない!
ガキンチョ
 
 
二人の様子にヘジャが
真面目な顔で口を挟んだ
 
 
あのう?
やはりチャンオ(鰻)を
ご用意しましょうか?
ご主人様に精をつけて
差し上げなくては・・・
 
 
だっ駄目よ   駄目駄目
これ以上
旦那様に精をつけたら
私が大変な目に遭うんだから
 
 
言ってしまってから
ウンスは赤くなって
慌てて話題を変えた
 
 
ヘジャ
それよりお風呂に入りたい
汗だくなんだもの
今日も暑かったわね〜
 
 
はい
湯殿のご用意は出来ております
若様はヘジャにお任せを
どうぞ
ゆるりとお二人で
お入りくださいませ
 
 
それはよい
いむりゃ   ふろだぞ
ふろへまいるぞ
 
 
喜んだチェヨンが
酔っ払いの口調で
タンをヘジャに預けようとしたが
気配を察したのか
タンがぱちりと目を開けた
 
 
たんもゆあみ
よ〜〜
りんき
よ〜〜
あっぱぁ
 
 
チェヨンの首にしがみつき
タンが文句を言う
 
 
うふふ
タンが起きちゃったわね  
ヨン
残念でしたぁ
二人きりの湯浴みは
また今度ね
タン
湯浴みに行くわよ
汗かいたもんね
さっぱりしてから寝ましょうね
 
 
あぁ〜〜い!
 
 
下に降りたタンと
ウンスは手を繋いで前を歩き出した
二人の後ろから
チェヨンが頭を掻いてついて行く
 
 
悋気は俺の方だぞ
まったく!
 
 
ヘジャは
主人家族の後ろ姿を
見送りながら
 
 
やっぱりお酒とチャンオ(鰻)の
出番かもしれないねぇ
 
 
独りごちるのだった
 
 
*******
 
 
『今日よりも明日もっと』
人も野菜も
心を込めて大切に
大切に・・・
 
 
 
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*
 
 
昨夏に描いた「茄子の花咲き」で
ソクテとへジャが結婚してから
そろそろ一年になります
 
チェ家の名脇役として?
お話に登場し
チェヨンとウンスとタンに
忠義を尽くすこの夫婦の縁も
また不思議なものでした
 
 
思えば人は
目に見えない力
縁(えにし)で繋がっています
 
たとえ目には見えなくても
そこにいると感じることができる
そんな世界があってもいい
そんな想いで紡ぐお話
 
高麗の風はいつも優しく
haruを導いてくれます
 
シンイの二次を描いて
こうして皆様と出会えたのも
有難いご縁
 
『今日よりも明日もっと』
優しい明日を
感じることができるような
そんなお話を
お届けできたらいいな
 
いつもありがとうございます
感謝を込めて  haru
 
 

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