花屋のバイトは楽しかった
綺麗な花に囲まれて
花を運んだり水切りをしたり
意外に重労働もあったけど
和気あいあいとした職場で
ウンスも初日からすぐ馴染んだ

ただ
ビックリしたのは
バイトの女の子はヨンファと
一緒に働いているもう一人
ジスクと言う名の
背が高くて髪が長くて
くねっとした喋り方の
白くて長い丈のシャツを着た
彼はオネエだった
体力がある分
荷物運びやら花輪運びやらを
難なくこなして店の即戦力

チェヨンがバイトをしていた頃は
あえて店長がずらしたのか?
シフトが違って顔を合わせたことは
なかったらしく
ジスクはしきりに残念がっていた


そんないい男なら
ひと目拝みたかったねぇ


だけどほんとはジスクは
すんごく純情で
花屋のナイスガイな店長に
恋をしているようだった
もちろん店長にその気はないが

ジスクは美しいものが大好物
だから美人で気立てのいい
ウンスのこともすぐ気に入った


客商売なんだから
あたしみたいに身だしなみに
気をつけなくちゃ
あんた素材はめちゃくちゃ
いいんだからさ


化粧っ気のないウンスの顔に
休憩時間にメイクを施すと言って
聞かず
ウンスは
彼が嫌がるからと辞退したが
「メイクも仕事のうちよ
ナチュラルに仕上げるから」と
譲らなかった


あらあ
すっぴんでも美人さんだけど
薄化粧なのに
ものすごーく変身するわねぇ
色気たっぷりよん
あんた
あたしのこと
オ・ン・二って呼んでいいわよ


ナチュラルメイクの出来栄えに
すっかりご満悦の様子で
上機嫌で言った
実際ジスクはほんとに
よく研究しているようで
手際よく上手なメイクだった


チェヨンが見たらきっと
怒るだろうな
化粧は禁止って言ってたっけ


苦笑した口元の
目を惹くピンクの口紅が
ぷるんとした唇を
より綺麗に見せていた


アルバイトが終わる頃
当然チェヨンが迎えに来る
土曜日の夜は
ジスクは早上がりで
ウンスはジスクが帰った途端
口紅を落とした
チェヨンは「俺のウンス」の
薄化粧にすぐに気づいたが
ウンスは正直に言った


ジスクさんがやってくれたの
客商売だからって
でも明日は断るわ


だけど
そのジスクさんって
男だろ?
いくらオネエだからって
ウンスに触れるのは
我慢出来ない


ごめんね
明日はお客さんの前に立たない
ギフト製作に
回してもらうから


白のコットンシャツに
ネイビーのジーンズ
纏め髪のほつれ具合も
似合っているウンスが
すまなそうにチェヨンに答える

チェヨンは内心むっとしたが
ここで怒るのも
子供染みていると思って
その場はそれ以上の言葉を
飲み込んだ

そして次の日
日曜日の夜

その日はヨンファが
早上がりで
店長は
遠くに配達に行ってしまった
それで店じまいまで
ウンスとジスク二人で接客

お客さんが絶え間なく訪れ
ウンスから花を買っていく

一番人気は可憐な春の花
スウィトゥピ

ピンクや白に混ざって
黄色いスウィトゥピが
ウンスの目にとまる
やっぱり黄色い花に
心惹かれるとウンスは思った
そんな時だ
チェヨンが店に現れたのは

ウンスが買い物客相手に
微笑んでいる様子を見て
チェヨンはカチンと来た
その上綺麗に化粧をしている
昨日
あれほどよせと言ったのにと
またまたむくれる


ウンスや
約束しただろう?
奥で作業するって
それに口紅してる


口を尖らせたチェヨンに
ジスクは噛み付いた


あんたねぇ
あたしの作品にケチつける気?


さ?作品?


そうよ
この子の化粧は
あたしの作品
あんた
美丈夫だけどそんなんじゃ
女の子が逃げちゃうわよ
女の心は自由なの
化粧はその現れ
綺麗にメイクしたら気持ちも
弾むんだから
何処へでも行けちゃうのよ


はあ?
俺のウンスは俺だけ見てれば
それでいいって言ってる
余計なことはしないでくれ


あんた
まだ若いねぇ
男として自信がないんじゃない?
ウンスは籠の鳥じゃないっての
時には自由に羽ばたくのを
見守っておやり


あまりに正論
チェヨンは反論するのも忘れて
ウンスの手を引き
店を後にした

チェヨンが一番気にしていること
それは自分がまだ
大人になりきれていないこと
ウンスにふさわしい男かということ


ウンスや
餓鬼でごめん
ウンスを縛り付けてるか?
そんな俺が嫌か?


帰り道
ずっと考えこんで
黙ったままだったチェヨンが
ウンスのヴィラの下に着いた時
初めて口を開いて尋ねた

暗がりの中
チェヨンの寂しそうな顔を見て
ウンスは首を振った


嫌なわけないよ
ヨンに愛されてると思うもの


ほんとか?
ウンスはもっと大人の男が
いいんじゃないか?


そんなこと言ったら
本気で怒るよ


そんなウンスが愛しくて
ヴィラの階段でキスをした
軽いものから始まって
チェヨンの唇は食むような
口づけに変わっていく
それは
唇だけでは足りないようで
頬や首筋や耳たぶにも
口づけを繰り返し
互いの鼻先を擦り合わせた

柔らかくて
ころんとしているウンスの
形の良い鼻の頭と自分の鼻を
突き合わせていると
「俺のウンスを誰にも渡さない」
そんな思いばかりが強くなり
鼻先を舐めて
唇で甘噛みした


あんっ
やだ
ヨンたら


くすぐったそうに身をよじる
無防備なウンスの表情

大好きな女の子に意地悪する
ガキ大将の気分で
ついぎゅっと鼻をかじった


痛っ


胸をどんと押されて
はっとするチェヨン


ごめん


まったく!
甘噛みしないで
子犬や赤ちゃんじゃ
ないんだから


やっぱり餓鬼だと
思ってるじゃないか
大人になりきれなくて
呆れてるんだろ


売り言葉に買い言葉


そんな意味じゃないのに
チェヨンの馬鹿!
ほんとに餓鬼ね


ウンスは腹立たしくて
階段を駆け上がった
チェヨンは追ってこない
それが余計に癪に触った


部屋の
鏡の前でウンスは
ぼうっと鼻を見ながら呟いた


馬鹿ね   ヨン
何を気にしてるのよ
いっぱい嫉妬してくれる
まっすぐなチェヨンが
大好きなんだから


日曜日の夜の出来事だった


*******


『今日よりも明日もっと』
言ってしまって自分が傷つく
言われて苦い思いをする
言葉はすれ違う時があるから
想いはちゃんと伝え合わなきゃ
わからない


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ジスクの名前は
以前本編でも書いた?ような
スリバンのオネエには
役名がないので
演じたキム・ジスクさんから
お借りしました


月曜日です
安寧にお過ごしくださいませ



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