チェ家の前庭に
真紅の寒椿が
雪をまとって咲いていた

通いの女中ミヒャンが
その庭の寒椿の花を
上手に生け奥の間に飾った
パッと咲いた一輪の寒椿

ヘジャは
忙しく働く手を休め
しばらくその花に見入った

寒い季節の雪の中でも
香りを残す冬の花
しゃんと背筋を伸ばして
最期まで奥女中として
厳しく謙譲に生きた
母ソンオクの姿に重なる

自分はまだまだ
その足元にも及びはしないが
母の思い出が残る
このチェ家をしっかり
お守りすることで
母の供養にもなるだろうと
ヘジャは思った

開け放った扉から
中庭で庭木の様子を
確認している
夫ソクテの姿が見えた


ヘジャや


ソクテがヘジャに気づき
声をかけた


なんだい?


山桜の木に
固い蕾がついてるぞ


そうかい?
春遠からじだねぇ


そうさな


ソクテは目を細めて
愛しいヘジャを見た

もう長いこと
一緒にいるような
錯覚に陥るが
婚儀を挙げてから
一年にもならない
すれ違った時間が多い分
人生の残りの時間は
少しも無駄にせずに
寄り添っていたいと
ソクテは思っていた

奥の間に面する廊下まで
出向くと
ソクテは再び
ヘジャに声をかけた


ヘジャや


なんだい?
ヨボや


ヘジャがいれば
チェ家は安泰に違いねぇ
なんたって
ソンオク母さんに仕込まれた
高麗一の奥女中だからなぁ


やだよ   ヨボったら
照れるじゃないかい
あたしは
あんたがいてくれたら
頑張れるのさ
これからもよろしく頼むよ


ああ
ヘジャをうんと大事にする
任せてくれや


ありがと
ヨボや


寒い日が続く高麗の都にも
少しずつ春は近づいていた


兵舎の入り口に
ウンスの姿を見つけたチェヨンは
すぐさま駆け寄った


イムジャ
如何したのだ?


ウンスのとろんとした目つきは
まるで情を交わした後のように
色香に満ちていた


ヨン
ひどいじゃない
私に何か言うことが
あるでしょう?


は?


さっき叔母様が典医寺に
いらしたのよ
育児室に配属の
新しい武閣氏を連れてね


チェヨンは
はっとした顔をした


すまぬ   イムジャ
ソンオクのことがあって
忘れておった


ぷうと膨れた顔のまま
ウンスはチェヨンの首に
しがみついた
衣から
わずかに生薬の匂い
だが
チェヨンはぎゅっと
ウンスを受け止めた

おおおおお〜〜!!!
地鳴りのように太い声が
そこ此処で上がる

目の前で繰り広げられている
いつもはしかめっ面の上官と
美しい奥様の抱擁場面
血気盛んな若い隊員たちには
目の毒だ


イムジャ
少しは俺の体面も
考えてはくれぬか?


やいのやいのと響く声に
チェヨンは辟易として
ウンスの耳元に囁いた


嫌よ
体面なんて知らないわ


ウンスは仕返しのように
甘く呟いた


それはトギのいる薬剤室から
診療室に戻った時だった

綺麗な空色の
武閣氏の衣を身につけた
叔母チェ尚宮が新入りの武閣氏を
連れていた

ウンスは昨夜の
夫婦の契りで
まだ身体がふわふわとして
少々もうろうとしていた


ウンスや
いや
医仙
紹介しよう
育児室配属の武閣氏じゃ


ええ
はい
はいぃ?


ぼんやりしていたウンスは
新入りの顔を見て
腰を抜かさんばかりに驚いた


どうして?


新入り武閣氏はにこりと笑って
ウンスに言った


新入りの武閣氏ジュヒに
ございます


どうなってるのよ?
ドルベさんの屋敷に住んで
いるんでしょう?


はい
よくして頂いてます


じゃ
じゃあ何も
武閣氏にならなくても


なんだ
ヨンの奴
医仙に何も話しておらぬのか?


聞いてません
何も!


詳しいことはあやつに尋ねよ
ジュヒ
育児室の警護につくのだ
タンによろしくな


はい
チェ尚宮様


ジュヒはウンスを残したまま
行ってしまった


頭が混乱して来たわ


ウンスは頭をぐしゃぐしゃ
搔き乱したが
チェ尚宮は涼しい顔で答えた


私も王妃様のところへ戻る
あとは屋敷に帰ってから
あやつに尋ねよ


チェ尚宮もあっさり去って行く
訳が分からずにいると
トギがとんとウンスの前に
お茶を差し出した
気を鎮めるために
ウンスはお茶を
一気に飲み干した
すると今度は
身体がどんどん熱くなる


トギ!
まさかこれ?
ただのお茶じゃないわね?


トギはにやりと笑った


とにかく私
ヨンに聞いてくる
一体どうなっているのか
確かめずにはいられないわ


熱く身を焦がすような
感覚を覚えながら
ジュヒのことで
頭にも血がのぼり
思い立ったら止まらぬ性分

ウンスはお付きの武閣氏
ヘミとヒョリに
警護されながら
兵舎まで飛んで来たのだった


すまぬ
イムジャ


チェヨンの声が遠のいて
聞こえている
走って来たことで
お茶の効果が上がったようで
身体が熱くて仕方ない


ジュヒが
ジュヒがね


頬を赤らめ
ぽうっとしてうわずる声の
ウンスは    ますます色っぽく
これ以上
他の男に見せることなど
たとえウダルチでも
我慢出来ないと
チェヨンは


妻は熱があるようだ
少し休ませて来る
チュンソク
あとは任せたぞ


役目丸投げで
ウンスを抱き上げると
集賢殿の奥の間に
運び込んだ


*******


『今日よりも明日もっと』
思わぬ再会は
きっと春風のいたずら





☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


ジュヒ
お早いお帰りで  笑

どうなってるのか?
ヨンに聞かなくちゃ

その前にウンスの
熱を鎮める?
うーん
悩みどころでする
ε=ε=ε= ヾ(*~▽~)ノ

また
おつきあいくださいませ



にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村