昼を少し過ぎた頃
ウンスはタンを連れ
集賢殿に向かった
 
 
厨房で生薬を煎じると
むせ返るような匂いがして
さすがのタンも
ウンスの
そばに近寄ろうとせず
少し離れた所で口をへの字に
 
 
おんまぁ〜
おんまぁ〜
 
 
とウンスを呼んでいる
 
 
タン お待たせ
出来たわよ
げげ
苦い!
 
 
苦手な煎じ薬を久しぶりに
少し口にして
ふふっと思い出し笑い
 
以前
徳興君の毒に倒れたときは
わがまま言ったウンスに
チェヨン自ら薬を飲ませて
くれたものだった
新婚の頃は口移しもしてくれた
 
薬一つで
今思えば気恥ずかしいような
二人の思い出が重なっていく
 
背後に気配がして
振り返ると
タンを抱っこして微笑む
最愛のチェヨンがいた
 
 
なかなかの匂いだな
インギュに聞かれたぞ
今度は何の騒ぎかと・・・
 
 
さ 騒ぎだなんて
いやねぇ
薬を煎じたたけじゅい
 
 
ウンスは笑って
言い返した
 
 
ああ そうだ
さっき王妃様のとこでね
叔母様がソンオクの墓参りに
行きたいっていってたわ
だから一緒に行きますって
申し出たの
構わなかった?
 
 
ああ 構わぬ
叔母上にとっても
ソンオクは頼れる母の
ような存在であったから
寂しいのであろうな
 
 
チェヨンが物心つく頃には
祖父母は亡くなっていた
両親を失ったチェ尚宮にとっても
ソンオクは
女中以上の存在だったろうと
チェヨンは思った


そうよね
ソンオクに小言を言われたみたいよ
叔母様に小言を言えるのは
ソンオクくらいなものね

 
しんみりしかけたところへ
ウンスがお椀をすっと
差し出した
 
 
煎じ薬か?
これを飲めばよいのか?
 
 
どろりとした不気味な液体を
チェヨンは見つめ聞いた
 
 
トギ特製なの
ソンオクの気持ちを
無駄にしない為にも協力してね
腎を補うものが入っているから
 
 
あ?
俺はもう大丈夫だぞ
実証済みだろうが?
 
 
厨房の外で警護に当たる
武閣氏に聞こえないように
チェヨンは小声で囁いた
 
 
知ってるけど・・・
 
 
ウンスは少し頬を染めた
 
 
でも気を整えて
からだのバランスをとること
えっと・・・
調子を整えることは
武士としても
大切なことでしょう?
疲れにも効くし
だから飲んでね
ヨンのからだにもいいはずよ
 
 
チェヨンは匂いに反応し
しかめっ面のタンを
床に降ろすと
覚悟を決めたように
一気に飲み干した
ウンスも一緒になんとか
飲み込む
 
 
あああ〜
やっぱり苦い
今日からずっとだなんて
拷問だわ
トギったらわざと飲みにくい
薬にしたんじゃないでしょうね?
 
 
ウンスが恨めしそうに典医寺の
方角を見ていると
唇がふわっと暖かくなった
 
 
苦い薬の後は口直しが必要ゆえ
 
 
うふふ
ほんとう
 
 
ウンスも背伸びしてチェヨンに
口づける
今のチェヨンの唇は
生薬の苦い味がする
 
 
たんも〜
 
 
タン 
今日のポッポは苦いわよ
いいの?
 
 
や〜〜よ〜〜
 
 
うふふ
 
 
ウンスは逃げるタンを
抱き上げて
チェヨンと挟み撃ちで
タンの頬にポッポする
タンはますますしかめっ面
 
 
それにしても
イムジャ・・・・?
 
 
タンが自分のほっぺたについた
生薬の匂いを
ごしごし拭き取っているのを
笑って見ていたチェヨンが尋ねた
 
 
なぜにチュンソク達まで
奥の間にいるのだ?
 
 
あああああ
忘れてた
チュンソクさんの所も
二人目が欲しいんですって
ポムが必死に言うから
あそこの夫婦にも
トギの薬を分けてあげようと
思ったのよ
チュンソクさんが此処にいて
よかったわ
兵舎に呼びに行く
手間が省けたものね
さてと 二人にも
持って行ってあげなくちゃ
 
 
お椀二つに注がれた
どろどろの液体をウンスは
両手にもって微笑んだ
 
 
チュンソクも同じものを
今から飲むのか?
いささか 顔を会わしにくい
互いの
私生活をのぞき見るようで
 
 
やぁね
考えすぎよ
うふふ
 
 
集賢殿の奥の間からは
笑い声が響いている
チュンソク夫妻と息子のミョン
そこに
チェヨン達三人が加わって
煎じ薬の匂いとともに
賑やかな昼下がりが訪れていた
 
 
*******
 
 
『今日よりも明日もっと』
手を携えて暮らして行く
わたしの幸せはあなたの幸せ
あなたの幸せはわたしの幸せ
 
 
 

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