ソンオクが逝った寂しさと
医者としてソンオクの異変に
気づけなかった自分を責め
気落ちしたウンスを心配して
チェヨンは王宮への出仕を
見合わせ屋敷で休むように
言ったが
ウンスは首を振った


ヘジャが耐えているのに
私が休むわけにはいかないわ
それにソンオクなら
使用人の葬式に主人が休むなど
あってはなりません
ってきっと言うもの
だから王宮に行く
でも王妃様と公主様の
回診を終えたら
弔問に行ってもいい?
体面とかあるのかしら?
屋敷の元奥女中だもの
構わないわよね


ああ
イムジャの気の済むように
するがよい
俺は行けぬが
テマンをつけよう


うん
わかったわ


ソンオクが亡くなっても
チェ家の一日は変わらず始まり
通いの女中たちも働きだす

ヘジャは女中たちに
今日一日の屋敷の仕事を言いつけ
チェヨンたちを見送ってから
ソンオクの待つ実家に向かうと
言って聞かず

ウンスはチェヨンに言われた通り
ヘジャの気の済むようにさせた

その代わり元商家の嫁
女中のミヒャンに
上等な麻布で出来た寿衣(スイ)を
用意させソンオクに
届けさせるよう申し付けた


ほんとは絹を着せたいの
でもソンオクなら
死んでしまってからも
絹など無用だって
断るでしょう?
せめてもの気持ち
医者として最期に
何もしてあげられなかったから


ウンスがヘジャに言うと
ヘジャは何度も頭を下げた


もったいないお言葉です
母も喜びます
ありがとうございます
奥様


ヘジャはチェヨンたち一家が
王宮に向かうのを見届けてから
先に実家に帰ったオクリョンの
後を追って
ソクテとともに母親ソンオクの
待つ家に急いだ


今日のタンの子守はヘミに
頼もうかしら?


そんな話を
輿の中で淡々とチェヨンと交わし
それから
ウンスは悲しみをこらえて
王妃様の回診を終えた

チェ尚宮も当然ソンオクの
死を知っていて
悲しみに耐えているであろうに
それを感じさせない
いつもの凜とした叔母の姿


ウンスは弔いに行くのか?


はい   叔母様


使用人の葬儀に行くなど
「体面を考えよ」と
叔母チェ尚宮に
言われるかと思ったが


ソンオクは私にとっても
母親みたいなものだったから
ヘジャに
お悔やみを伝えておくれ
ウンスも気をつけて行くのだよ


と逆にねぎらう言葉を
言付かった

気遣うチェ侍医に後を任せ
典医寺の診療を抜け
タンを育児室に残し
テマンと武閣氏の二人を
お供にウンスは出かけた

ウンスが弔いに訪れた時には
ソンオクが
ヘジャの姉夫婦と暮らした
狭い家が
訃報を聞いた人で溢れいた

ヘジャやソンオクとも
親交のあったマンボ妹が
会場を仕切るように
弔問客を受付たり
料理を運ばせたりと
スリバンの面々に指示を出している


おや   医仙
久しぶりだね
チェ家の女主人が
わざわざ来たのかい?


マンボ姐さん
だって
ソンオクはヨンにも
私にとっても大切な人だもの
昨日屋敷に訪ねてくれたのよ
その時は少し痩せたかなって
思ったけど元気に見えたの
だからあまりに突然で


ウンスの綺麗な瞳から
瞬く間に涙が流れた


そうだったのかい
医仙が気に病むことはないさ
きっとチェ家に
お別れに行ったんだろうよ
律儀な人だったからさ


そうかも知れないわ
ヘジャは?


ああ
ソンオク母さんの
そばにいるよ
憔悴してはいるが
ソクテがいるから
大丈夫だろうさ


そうね


ウンスはテマンに付き添われ
ソンオクのもとに向かう
チェ家の女主人医仙の参列は
異例なことで
市井の民は驚き道をあけた

ヘジャは姉夫婦の隣に
ソクテと並んで立って
ウンスが来たのを見ると
深々と腰を曲げ礼をした

簡素な家に不釣り合いな
立派な祭壇
その前で
ウンスはひざまずいて
クンジョル(深い礼)をした


ソンオク
昨日はお別れに来てくれたの?
まだ生まれもしない二人目の
おしめまで持って
まだ聞きたいことや
教えてもらいたいことが
たくさんあったのに


ウンスはソンオクに
語りかけた


わざわざありがとうございます
もったいないことでございます
こんな立派なお葬式を
してもらえて
あんな上等なスイまで
チェ家の皆様によくして頂き
母は幸せ者です


ヘジャの姉夫婦が
涙ながらにウンスに
礼を言った

市井の民はもっと簡素な
葬式を済ませると
土葬されて仕舞いになる
だがチェ家に長年尽くしてくれた
ソンオクのためと
チェヨンに密かに頼まれた
叔母チェ尚宮が手を回し
ソンオクの葬儀は
立派なものとなった


ヘジャ
ソンオクについていて
あげてね
屋敷のことは
心配いらないからね


ヘジャは目を伏せた


ソクテ
ヘジャを頼むわ
ソンオクを見送ってあげて
旦那様も叔母様も
お役目で来れないけど
ヘジャのこと気にかけてた


ソクテはしっかり頷き
ウンスは
もう一度祭壇の向こうの
ソンオクに別れを告げると
典医寺に戻って行った


夜になり屋敷には
ウンスとタン
武閣氏の二人とテマン
それから
ソンオクの訃報を知って
ウンスを心配し飛んで来た
ポムと息子のミョンがいた

ポムの屋敷の女中が
夕餉の支度を申し出て
運ばれて来た
梅漬けを混ぜ込んだご飯に
ウンスはまた涙が出た

昨日一緒だったソンオクは
もうこの世にはいない
昨日のメシルチャ(梅の実茶)
を覚えているタンが
ウンスに言った


しょんおく
ネ〜〜


そうよ
ソンオクが持って来た梅漬けよ
美味しいわよね


うまうま   ネ〜〜


ポムが横ですすり泣く


食べましょう
それが供養になる


ウンスは夕餉を猛然と
食べ始めた


チェヨンは役目を終えると
王宮から屋敷に
まっすぐ戻らず
ソンオクの家の前にいた

夜が更けても
まだちらほら
弔問客がいるようで
チェヨンは陰からそっと
手を合わせる


ここは
坊っちゃまが来る場所では
ありません
使用人の葬儀に参列など
チェ家の当主の威厳に
傷がついてしまいます
体面をお考えください


ソンオクに叱られている
そんな気がした


坊っちゃま   
好き嫌いをしてはなりません
チェ家の跡継ぎ様がひ弱で
どうするのです

坊っちゃま   
泣いてはなりません
チェ家の当主は強くあらねば

坊っちゃま
ソンオクがいつもおそばに
おります
ソンオクにお任せくだされ

坊っちゃまがご結婚なさり
ほんとうによろしゅう
ございました

坊っちゃま
坊っちゃま
どうかお幸せに


ソンオクの声が聞こえた


会わずに逝くとは
お前らしい
ソンオクや
彼方で
父上母上に伝えてくれ
俺は今
幸せだと


*******


『今日よりも明日もっと』
あなたが教えてくれたこと
胸のうちで繰り返す
強くあれ    強くあれと



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