どうぞ



ウンスはヴィラの階段を上がり

濃い藍色に塗られた

部屋の扉の鍵をガチャンと開けた


玄関を開けたらすぐに

リビング兼ダイニングの部屋があり

手間にウネの部屋

奥にウンスの部屋

ウンスの部屋の隣はバスルームだ



狭くて驚いた?



あ?



実際チェヨンの屋敷の

玄関くらいの広さしかない



でも   なんだかいい感じだ



チェヨンはお世辞は言わない

だからウンスはチェヨンの本音が

うれしかった

二人がけの食卓テーブルには

白地にピンクのチェック柄の

クロスがかけてある

小さな白い花瓶に生けてある

小さな黄色いクックァに

チェヨンは目を留めた

大事な何かを忘れてしまった

そんな気がして

ウンスを見つめた



どうかした?



いや   クックァが



それウネが持って来たの

私なんでか黄色い花に

惹かれるのよね

ヘバラギ(ヒマワリ)とか

黄色いコスモスとか



そうなのか?

なんだか懐かしい花だな



うふふ

そうね

野花だし

よく見かける花だわ



ウンスは笑って言った



で?いつまで玄関にいるの?

チェヨン?



あ?ああ

入っていいの?



おかしな人ね

当たり前じゃない



ウンスはくるりと後ろを向いて

キッチンの前に立って

わたわたと

買って来た食材の整理を始めた

何かしてないと落ちつかない



そこに座って

今   お茶入れるから

あ?コーヒーがいい?

インスタントだけど

カフェラテがあるの



ウンスは食卓テーブルを指差し

ながらチェヨンに言う



ああ  じゃあそれで



うん



やかんがシュウシュウ

蒸気を立ててお湯が沸く

ウンスはピンクとイエローの

マグカップにラテを淹れ

とんと

ピンクの方をチェヨンに差し出した



マグカップ二つしかなくて

黄色いのはウネが使ってるやつなの



赤い頬で俯いて言った



じゃあこれは

ウンスの?



うん   いつも使っているやつ

こっちが良ければ

こっち貸すけど



ウンスはイエローのマグを

くるっと回した



いや    ウンスのがいい



うふふ



静かな中でごくんと

ラテを飲み込むチェヨンの

喉の音が聞こえ

喉仏が上下に揺れる



うまい



インスタントよ

誰がいれても同じ味



ウンスは笑って

立ち上がる



じゃあ待ってて

すぐ支度するから



キッチンに立つと

背伸びをして上の

吊り棚に手を伸ばし

カセットコンロを取り出そうとして

ふらっとよろけた



危ないだろ

まったくこれだから

目が離せない



左手でウンスを抱きしめ

右手でカセットコンロを

受け止めたチェヨンが

ウンスに言った



俺がいるんだから

俺を使えよ



う・・・ん

でもお客様だし



客じゃない

ウンスの彼氏だ



チェヨンの声が耳元に

広がり慌てて返事をした



うん   でも

もう離して大丈夫

だ・・・よ



チェヨンの腕の中に

抱きしめられたままのウンス



ごめん



ううん   ありがとう

助かった



カセットコンロ   一つ

テーブルにセットするだけなのに

心臓がまだばくばくしている

静まれ   心臓!

ウンスはそっと深呼吸をした



どうかした?



チェヨンが赤い顔のウンスに

わざと聞いた



なんでもない

秋なのに今日は暑いわね

プデチゲ失敗だったかな?



パタパタと胸のあたりを

つまんで扇ぐと

今度はチェヨンが赤い顔



無防備

どうなっても知らないぞ



え?



チェヨンはキッチンの

ウンスの隣に立ち

うつむいて熱心に材料を見ながら

ウンスに言った


調理台の上には

豚肉    ネギ     玉ねぎ    しいたけ

スパムにソーセージ    

キムチ

それからトック(薄い餅)

そしてもちろん

インスタントのラミョン

味付け用のダシダ

ニンニクやコチュジャンが

ぎゅうぎゅうに置いてある


ウンスは今のチェヨンのセリフを

それ以上確認する勇気がなくて



えっと

材料   切るね



玉ねぎに手を伸ばした



じゃあ   俺

スパムの缶あける



うん



いちいち全部にドキンとして

心臓がいくつあっても

足りないくらい


材料を切る手がいつもより

ずっとぎこちない

隣が気になって

チェヨンの横顔を見たら

チェヨンもウンスを見ていた


このまま目を閉じたら

もしかして

三度目のキス?

ウンスはちょっとだけ期待して

一瞬目を閉じたら

鼻の頭を甘噛みされた



今    キスしたら

離せなくなりそうだ



チェヨンが呟き

ウンスは心の中で叫んだ



馬鹿!これ以上

ドキドキさせてどうするのよ



玉ねぎとニンニクの香りが

部屋の中に広がっている



*******



『今日よりも明日もっと』

ちょっとした仕草にまで

心奪われる

これってかなり重症な恋煩い?



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次回はプデチゲを
食べられますように

またお付き合いくださいませ