王様は坤成殿の
王妃様のもとを訪ねていた

王妃様お一人で
王宮の外へ行かれるのは
あの忌まわしい毒の事件が
遭って以来
もう何年もないことだった


よいか 王妃
くれぐれも気をつけるのじゃ
ウダルチと武閣氏の精鋭を
警護に付けたが
余は心配なのじゃ


王妃様はふふっと微笑まれた


妻に過保護なのは
上護軍チェヨンの特権かと
思うておりましたが


戯れ言ではないぞ


王様 安心して
くださいませ
あの頃と今のこの国は
違うのです
それに出かける先は
チェヨンの屋敷
ご心配にはおよびません


金の髪飾りを髪に挿し
鮮やかな紅色の
チマチョゴリに
天青色の唐衣(タンウィ)を
美しく着こなした王妃様は
優しく微笑んだ


こうして留守番の
心配性の王様を残し
王妃様は 
心此処にあらずの
チェ尚宮 そして
迎えに来た大妃(デビ)様の
従姉妹タルギとともに
花組の武閣氏
ウダルチトクマン達に
幾重にも守られて
まずはお寺にお参りへと
王宮を後にした

タンの大叔母のチェ尚宮は
王妃様の警護に
気を配りながら
懐の福巾着に入っている
タンへの祝いの品に手を当てた

屏風の前の
螺鈿細工の卓に座るタンを
思い浮かべると
うっかり笑みがこぼれ
表情を引き締めた


━─━─━─━─━─


桃色のチマに薄黄色の
チョゴリを合わせた
可愛らしい装いのポムと
すみれ色のチマに
地織りの白地のチョゴリの
出で立ちのヨンファは
屋敷の奥で
一息ついていた


ヨンファ ポム
今日はよろしくね


ウンスが二人に言う


はい 医仙様
お任せを
私はそろそろ門の辺りに
おりますね
アリとウサも来る頃
でしょうし


ヨンファが微笑んだ


受付なんて面倒なこと
頼んでごめんなさいね


いえ お役に立てて
何よりです


ポムは?ポムは何をすれば
よいでするか?
女中のソルリには
厨房を手伝うように
言ってあるでする


ありがとう
厨房も大変そうだから
助かるわ
ポムにはね 
ジュヒとともに
タンの警護をお願いするわ
いいかしら?


若様の警護!
もちろん 頑張りまする〜


子供を授かるまでは
ずっとタンの警護をしていた
ポムは目を輝かせ言った


それにしてもすごく
豪華なお祝いですねぇ
さすがチェ家でする


そお?
招待客は
ほとんど叔母様任せよ
宴の準備はヘジャが
中心だったし
うふふ 私は楽しむ方に
まわるわ


そう笑うウンスだが
心配りを欠かさないことを
ポムは知っていた


一度厨房を覗いてから
私も支度をするわね
ポムはしばらくここで
ゆっくりしていて


は〜〜〜い


ウンスはポムを奥の間に
残すと 厨房へと向かった
屋敷の厨房は決して狭くはない
だが食材が溢れ返り
人が溢れ返り
厨房の隣に急遽こしらえた
幕を張った簡易厨房でも
女中達が忙しそうに
働いていた


みんな よろしくね
忙しいでしょうけど
力を貸してね


ウンスが言う
簡易厨房の台の上には
出来上がった料理が次々
乗せられ出番を待っている
ふと 気がつくと
せっせと漬け物を切っている
ヘジャの母親ソンオクがいた


まあ ソンオク
来てくれたの?


奥様 このソンオク
若様のお祝いと言うのに
じっとなど
していられますか?


荷車に大鍋を積んで来た
マンボ妹の姿もあった


此処にいる連中は
みんな 医仙
あんたを慕っているのさ
だからなんかせずには
いられないってわけさ
なんたって あんたと
チェヨンの息子の
祝いなんだからね


マンボ妹は豪快に笑って
言った


ヒョジュ 屋敷の周りを
もう一度見ておいで
おかしな輩がいたら
報告するんだよ


あいよ
姐さん


スリバンのヒョジュは
屋敷の周りを見に行った
王妃様や高官も多数臨席する
今日の宴
衛兵はいつもの二倍
屋根の上にはジホとシウルも
控えて 
警備を兼ねた高見の見物

そこへコナが率いる
チマチョゴリを着た
華やかな武閣氏雪組が
到着した


各自配置に


コナの一言で皆一斉に
中庭に散った
新人武閣氏のヒョリや
キョンジャは緊張した面持ちだ


花組はそろそろお寺に
着いたかしらね?


そうね
王妃様うれしそうだったわ


途中まで一緒にいた
王妃様と花組のことを
噂する二人に
コナの喝が入る


そこ 人の噂している
場合じゃないでしょう?
気を引き締めて
万に一つも抜からない!


はい!!


━─━─━─━─━─


ウンスは自分の衣装部屋で
タンの祝い服よりも
一段と明るい藍色のチマに
山桜の花びらのような
中紅花(なかくれない)の
チョゴリを身にまとい
閨で退屈そうに寝転がる
チェヨンとタンのもとへ
向かった


暇そうね
みんなものすごく
忙しそうなのに 
うふふ


面倒なことは苦手だ


そう言いながら
あでやかなウンスに
ちらちらと目がいく

紅を差したように
上気した頬は生き生きとし
潤んだ唇はつややかだった

島にいるスヨンから
届いた真珠の髪飾りや
新婚の頃
チェヨンに贈られた
翡翠の簪が 
ウンスの綺麗な髪の毛を
引き立てている


知ってるわ
でもそろそろ
着替えて頂戴
お客様が集まり始めたの
王妃様もそろそろ
到着するかもしれないわ
タンも叔母様から頂いた
トルボクに着替えなくちゃ
ね タン


ヤ〜〜


あら トルボク
嫌いなの?


ヤ〜〜


遊びなのか?
いやいやなのか?
タンはとてとて走り出す


こら 待て タン!


ウンスが追いかけると
余計に楽しそうだった


タンも息苦しい礼服は
嫌いなのであろう?


あうあうあ〜


しょうがない人たちね
ヨンもタンも
早く着替えて頂戴


ウンスは笑って言った


タンの可愛い姿を
みんなに見せて
自慢したいなぁ
それに父上とお揃いなのよ
いいでしょう?
ヨンの礼服姿もかっこいい
のになぁ〜


よん 


父上よ


よん たん ネ〜〜


うふふ


ウンスはタンを
抱きしめた
大切な我が子
天界の母親の血を引き
高麗の明日を担う
父親との間に生まれた
息子の宴がもうすぐ始まる


*******


『今日よりも明日もっと』
気がつくと
いろんな人の支えの中で
生きている
(春雪其の弐の〆の言葉より)


グルのコーナーで
この〆の言葉を
ご推薦いただいた ばぁ猫様
コヤンとしても大活躍
ありがとうございます


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