集賢殿にチェヨンを
呼びに来たのはテマンだった


上護軍
隊長が呼んでます
トルベ兄さんのお屋敷から
使いが来たって


そうか
わかった
テマンご苦労だった


コハクのこと
バレた訳じゃないですよね?


テマンは警戒の顔色


ジュヒ達親子のことを
知る者はごく限られた者達
トクマンすら詳細は
知らぬはず
誰がトルベの屋敷に告げると
言うのだ?


テマンは頷いた


だがな   隠すことが
よいとも限らぬ
このままでよいものか?


チェヨンは思案顔


ジュヒさんの
気持ち    わかるから
このままそっとしてやりたい


ムキになったテマンに
チェヨンは目を細めて
言った


そうか
テマンも
もう大人なのだな


テマンはチェヨンの言った
意味がわからず首を傾げて
チェヨンを見つめた


兵舎の広場はちょっとした
人だかりが出来ていて
キャンキャンと
甲高い鳴き声が響いている
チェヨンは口元を緩めた

いかつい隊員達が
目尻を下げ   子犬を追いかけ
子犬がじゃれながら走っている
のが見えた


上護軍様
お約束のひ孫です
医仙様に助けていただいた
あの子の子供を
連れて参りました


トルベの屋敷から来た
使用人がそう告げ
テマンはあっと思い出した

以前屋敷に迷い込んだ
慶昌君様のファンの子孫を
ウンスはたいそう気に入って
だがあの頃は
屋敷に使用人もおらず
犬を飼うなど
出来るはずもなかった

いつか子供が生まれたら
飼えばよい
そんな風になだめて
迷い込んだ子犬を
トルベの屋敷に返したのだ

やがて
子犬はチェヨンめがけて
一直線に走って来る


よう来た


抱き上げると子犬は
くぃーんと鳴いた


━─━─━─━─━─


夜になってチェヨンは
テマンとともに屋敷に戻った

いつものように廊下を
とてとて
ウンスに手を引かれて
歩いてくるタンと
ウンスの優しい微笑みが
チェヨンを出迎える


お帰り   ヨン


よん


ああ   ただいま


もう  タンたら
よんじゃなくて父上よ


よん!


チェヨンは二人のやり取りを
楽しそうに眺めて
タンを抱き上げ
ウンスを引き寄せる
テマンは見慣れたように
その光景を見つめた


テマン
お帰り
ん?どうしたの?
なんだか   テマンの懐
膨らんでない?


あうあうあ〜


テマン
此れへ


チェヨンが言うと
テマンの懐から
黄色味がかったころころの
子犬が顔を覗かせた


ファン?
ファンじゃない?
え?あの時のファンなわけ
ないか
じゃあ?


ああ   子犬が産まれたのだ
タンのトルチャンチの祝いに
トルベの屋敷から先ほど
届いた


うっわー 
トルベさんの屋敷から?
ヨンが頼んでくれたの?


ああ   あの子犬を返す時
いずれ貰い受けたいと
話をしてあったのだ
軽い気持ちで言ったのだが
トルベの家の者達は
覚えていてくれたようだ


そうなんだ
トルベさんの屋敷の方達も
律儀な人達ね
コハクにも会わせて
やりたいわ
トルベさんが守った
ファンの子孫だもの


そうだな


二人は微笑みあった


じゃあ俺
戻ります
子犬どうしますか?


テマンが突然口を開いて
チェヨンに尋ねた


ああ
閨に連れていく訳には
行かぬゆえ
今夜はお前に任せる
明日にでも小屋を作らねば
ならぬな


はい   上護軍


ヘジャ   子犬にも
餌をやってくれ


ウンスの後ろに控える
ヘジャに申しつけた


はい   ヘジャにお任せを
明日ちょうど嵐で傷んだ
厨房の屋根の修繕を
大工の棟梁チルベェに
頼んであります
犬小屋も一緒に頼みましょうか


あら!それはいいわね


ああ   そうしてくれ


タンは子犬に興味深々で
テマンの懐に手を伸ばし
くりくりした黒い目の子犬は
タンの小さな手を
恐る恐る舐めている


うふふ   かわいいわね
でも
もう夜遅いから
ファンも疲れてるわ
明日遊びましょうね  タン


たん
ふん
ネ〜〜


フンじゃなくてファンよ


ふん


うふふ
ファンだってば


ふん


幸せそうな親子三人を見て
テマンは微笑んだ

やっぱり上護軍は
こうじゃなくっちゃ
トルベ兄さんも
ほんとならジュヒさんと
コハクと
こんな風に子犬を囲んで
笑っていたんだろうな


甘いような切ないような
気持ちになって
テマンは奥の間から
そっと消えた

タンは子犬を名残惜しそうに
見つめていたが
チェヨンに抱えられたまま
奥の間に連れて行かれ
卓についたチェヨンの隣
ウンスの膝の上に収まって
お乳をせがんだ


あら?夕餉もたくさん
食べたのに
お乳は別腹かしら


ウンスは胸元を解き
タンに乳を含ませた
ウンスの
白い肌がぼんやり浮き上がり
チェヨンはごくりと
喉を鳴らしたが
ウンスはそんなことに
お構いなしに
楽しそうに話しを始める


今日   屋敷に
迷い込んだ子犬がいてね
その子を見ながら
ファンはどうしているかな?
って思ってたのよ


そうであったか


うん   あの子犬とファン
きっとお友達になれるわね
うふふ
あ!そう言えば
王妃様から素敵な衣を
タンにいただいたのよ


ウンスは話したいことが
次から次へと
溢れてくるようで
うんうんと
チェヨンは耳を傾けながら
くるくる変わるウンスの
表情に見惚れた


叔母様ったらね
孫自慢なのかしら?
トルチャンチに
元武閣氏の友を
招待したいが構わぬかの?
ですって
ミヨさんとエンさん?
だったかなぁ?


ウンスは叔母チェ尚宮の
口真似を混ぜて言った


あん?叔母上から
友の話など聞いたことが
ないぞ


そりゃあ  何から何まで
甥っ子に話すわけ
ないじゃない
叔母様にだってきっと
若い頃の恋の思い出も
あるだろうし
お友達だっているわよ


そんなもんか?


そんなもんよ   
うふふ


二人の話は弾み
ヘジャが運んで来た
夕餉の膳が空になる頃には
タンも乳を離して
眠ってしまった


ねえ    ヨン
早く湯浴みして来て
待ってるから


甘い口調に変わる
ウンスの囁きに


ああ
わかった


チェヨンは急ぎ湯殿に
向かう
その頃合いを見計らって
ヘジャはウンスに子犬の
様子を報告した


餌をよく食べました
今夜は
テマンさんの部屋で
寝るようですよ


うふふ
そうなの?
家族がまた増えたわね


ふん


タンがむにゃむにゃ
寝言でファンを呼んだ
ウンスは愛しそうに
タンの額をなでた


中庭のムグンファは
夜になり
花びらを閉じている
明日になれば
また綺麗な花を
咲かせることだろう


*******


『今日よりも明日もっと』
愛しい人
たくさんの幸せを
ありがとう



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


ご出演いただいた
皆様のご紹介


★sichibee様   チルベェ
明日は犬小屋もよろしく
お願いします  

★wayo様   元武閣氏ミヨ
★okiraku.madochan様
元武閣氏エン

トルチャンチ当日チェ尚宮との
掛け合い?楽しみです
お待ちしております

若干(^▽^;)お申し出とは違う
シチュエーションになりました
お許しくださいませ

まだまだ続々登場予定
お楽しみに
おつきあいくださいませ


☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


阿蘇山噴火
自然災害が続いております

皆様    安寧に
お過ごしくださいますように