気がつくと
典医寺に足が向いていた
肩を落としたテマンは
はっと我に返って
兵舎に戻ろうとしたたが
ちょうどコハクとともに
家に帰るところの
ジュヒに行き交った


ヒョン(お兄ちゃん)


コハクが駆けて来た
ジュヒは沈んだような顔の
テマンが気になって
声をかけた


テマンさん どうしたの?
元気ないようだけど


ああ うん
俺 とんでもないことを
しちまって


ふ〜ん


ジュヒはじっと
テマンを見ると


これから家に帰るとこ
なんだけど
飯屋でご飯食べて帰ろうか
って コハクと言ってたの
テマンさんも 一緒にどう?


いこうよ いこ〜
ヒョンがいたら楽しいよ


すっかり懐いているコハクに
テマンは少し笑った

ジュヒはマンボの飯屋ではなく
通りすがりの店に入った
知り合いがいない方が
テマンの話を聞き易いと
思ったのだ


クッパ 三つ
あと 適当に酒の肴


あいよ


飯屋の女主が頷いて
厨房に消えた
客はさほど多くなくて
どちらかと言うと
閑散としている


ここは私のおごりね


え?いいや 悪いよ
そんなこと


いいの いいの
いつもコハクの面倒を
見てもらってるし
それに医仙様ったら
十分すぎる禄をくださるの
コハクが大きくなるまで
いくらあっても
足りないでしょうから
って 言ってね


そうなんだ 医仙様らしいや


そうね
都に出て来てよかったわ
あのまま村で漁師の手伝いを
やっていたら
コハクに十分なことをして
やれたかどうか?
だから誘って頂いた隊長にも 
気にかけてくれた
上護軍にも足を向けて
眠れない
もちろん 医仙様にもね


そうだよな
俺もそうだ
上護軍にどれだけの
恩義があるかわかんない
可愛がってもらって来たのに
なのに 俺


なにをやらかしたのよ?
テマンさんがしくじる何て
珍しいね


コハクは出て来たクッパを
美味しそうに食べ始め
ジュヒは酒をテマンに注ぐと
沈菜(チムチェ)を勧めた


若様が・・・


え?
若様がどうかしたの?


急に張りつめたような声で
ジュヒが聞き返す


兵舎の二階から転げ落ちて


ジュヒの息が止まった
心配そうなコハクの顔
それを見てジュヒは
ふっと息を吐いた


それで?


上護軍がとっさに
受け止めてくれたけど
もしも床に叩き付けられて
いたらって 思うと
足ががくがくする
気をつけるように
言われていたんだ
すばしっこいから
気をつけろって


そっか
あの頃って目が離せないのよ


ジュヒはコハクの額を
テマンに見せた


うっすら 跡があるでしょう?


真一文字に傷跡がある


転んでね 切ったの
医仙様がいらしたら
縫合していただけたかもね
ものすごく血が出てね
そりゃあ さすがにびっくり
ちょうどね 
昼寝したこの子を残して
魚を干す作業を
手伝いに行ってたの
あの頃は
食べるのに 精一杯でね
どんな仕事でも頑張ったわ
帰ってみたら
コハクが血だらけなの
ハルモニに任せていたけど
うっかり寝たみたいで
その隙にね よちよち
歩き回ったみたい


コハクの傷を指でさわった


ハルモニも申し訳ないって
泣いて泣いて
私も 途方に暮れたけど
傷がすっぱりと真一文字
だったから 割と綺麗に
くっついて


ああ 言われないと
気にならないよ


そうよね
でも母親は気になるものよ
子供のどんな小さな怪我も
病気もね
だから決して目を離しちゃだめ
でもね
今回は上護軍がいて
大事には至らなかったんだし
子供って予測不可能な
生き物なんだって
わかってよかったじゃない
次 気をつければいいわよ
テマンさんは悪くないわ


そうかな?


そうよ
それにそんなことを
気にするような
ご夫婦じゃないし


うん


むしろ私の責任かも
医仙様の言葉に甘えて
兵舎に一緒に行かなかったから



ごめん そんなつもりじゃ


うん わかってる
兵舎はまだ辛いの
あの人の想い出がたくさん
あるから・・・


ジュヒは遠くを見るような
顔をした


ヒョン この顔は
アッパーを思い出している
顔なんだよ
おいら あ 違った
ボクだった・・・
知ってるんだ


そうか
トルベ兄さんを・・・


テマンの胸の奥に痛みが
走った


━─━─━─━─━─


集賢殿の奥の第二の我が家で
ウンスとタンは
警護の武閣氏の二人と
チェヨンの仕事が終わるのを
待っていた

タンは奥の間に座り込んで
先日のお留守番の時に
チェ尚宮から貰った積み木を
積むことに余念がない

高く積み上げては手を叩き
ぐしゃっと潰れては
表情を曇らせる
見ていて飽きないと
ウンスは思った


それにしても先ほどは
驚きました
お怪我がなくてよかったです


もしも怪我をしていたら
トルチャンチの頃も
大変だったろうし
それに
若様を守れなかったとして
どれだけチェ尚宮に
叱責されるかと
ヒョリは心底ほっとしたように
言った


そうね
まあ 子供はからだが
柔らかいから
万一 落ちても大怪我には
ならなかったと思うけど


ウンスは上手に積み上げた
積み木を見て
タンににっこり微笑んだ


私は・・・私は
テマンさんが・・・
気になって
思い詰めた様子だったし


ヘミが恐る恐る言った


そお?
真面目な子だから
気にしているのかしら?
怪我もなかったんだから
大丈夫なのに
ねえ タン


ネ〜〜
あうあうあ〜


タンも私も勿論
うちの人も
気にしてないのに
テマンたら
何処へ行ったのかしら?


秋になって
日が傾き始めるのが早い
高麗の都


ウンスは首を傾げた


*******


『今日よりも明日もっと』
秋はなんだか人恋しい
あなたのことを
想ってみる




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