叔母チェ尚宮が
ふらりと屋敷を訪れてから
数日後
インギュとヨルムの婚礼が
盛大に行われた

チェヨンとウンスは
頼まれた仲人の役目を
無事に果たし終え
そうして 
トルチャンチまでの一時
チェ家に日常が戻って来た

チェ尚宮に預けられてからと
言うもの
タンはすっかり甘えっ子に
なってしまい
ウンスのあとを付いてまわる

おかげで
ジュヒは 診療室が見える
典医寺の中庭でタンとともに
過ごすことが多くなり
時々は コハクも加わり
楽し気に遊んでいるようだった

テマンもコハクが来ると
典医寺に顔を出すようだった

じゃれあうように遊ぶ
タンとコハクとテマン
それを見守るジュヒ

ウンスは診療室の窓から
その光景を眺めて微笑んだ

よちよち歩いているタンを見て
チェ侍医が言う


そろそろトルチャンチですか


ええ そうなの
なかなか話がまとまらないのよ
やることはてんこ盛りなのに
時間ばかりが過ぎて行くわ


ウンスは苦笑い


医仙様のお屋敷で行うのですか?


ええ 
都の屋敷ですることに決めたわ
招待客もものすごい数になりそう
なんだかね 叔母様のタン自慢?
みたいな感じよ
お祝いに配るお餅もね
ものすごい数なんだから・・・
とてもじゃなけど
ヘジャと女中だけでは
無理だから お餅屋さんに
頼むことにしたわ


そうですか・・・
チェ尚宮様にとっても
大切なチェ家の跡取ですからね
若様は
トルチャンチは
盛大なことになりそうですね


そうねぇ うふふ
半分は叔母様孝行かな?
だけど ありがたいことよ
天界からふらっと来た私を
名家チェ家の嫁と
認めてくれて
大事にしてくれてる


ふふっと笑う横顔に見惚れた


そうそう
典医寺もその日は休みにして
みんなにも出席して欲しいの


そのような晴れがましい席に?
とんでもない


ううん これは譲れないわ
タンは一日の大半を
ここで過ごしているんだし
ここのみんなにも
一緒に祝って欲しいのよ


横からトギが
うんうんと頷いた


ね トギは来るでしょう?


もちろんと言わんばかりに
首を縦に振る


よかった
サラにも来て欲しいし
もちろん チェ先生にもよ
それはそうとイサはどお?
先生の屋敷で迷惑かけてない?


ウンスは思い出したように
尋ねた


いえ そのようなことは
まったく
勉強熱心で 
よく書物も読みますし
時間があると山に薬草を摘みに
行っております


まあ そうなの?
もしかしたら私より漢字が
読めたりして


チェ侍医は否定しなかった


ただの海賊ではない
と 思います
育ちがよいと言うか?
気品があると言うか?


そうなんだ


でも本人は言いたがらず
なので そのままそっと
しておりますが


うんうん
それでいいわ
言いたいときが来たら
きっと言うわよ


そこへ 
なにかとお騒がせだった
オ・アムがやって来た


医仙様 
サラ先生がお呼びです
ご相談したい症状の妊婦がいて


あら そう
いま行くわ
オ先生はすっかり産科の医員ね
大部屋でもどこでも
つとまるでしょうに


はい ありがとうございます
もう少し産科で修行を積んで
それから 考えます


もともと
童顔な顔つきのアムは
ふてぶてしい態度が
あらたまると
人なつっこさから
妊婦にも親しまれるように
変わっていた

時間の空いたときは
自ら志願してサラに縫合術を
手習いして
密かに腕を磨いているようで
そのために産科から
離れないのではないかと
ウンスは訝っていた

なんとなく
ちゃっかり者のアム
だが少なくとも サラを
馬鹿にすることはなくなった


━─━─━─━─━─


ウダルチは新入隊員を迎え
いっそう活気に溢れ
毎日の鍛錬にも気合いが入っていた

ウダルチをまとめるチュンソクの
隊長ぶりは 一段と板につき
チェヨンが隊長だった時の
隊員よりも
新しく隊員になった者の方が
多くなってはいたが
若い隊員達には
チェヨンは雲の上の憧れの的

美しく気高い天女を妻に持つ
高麗一の武士として
その名を馳せていた


新入りはどうだ?


まずまずです


兵舎の様子を見に来た
チェヨンがチュンソクに尋ね 
チュンソクが答えた


あの頃の コハクのように
活きのいい奴は
いないですね


チュンソクが笑う


そうだな
あの槍名人のトルベを
負かしていたものな


懐かしそうに
チェヨンも笑った
コハクとして過ごしていた
ジュヒはいまやすっかり
いい母親で タンの護衛係


トルベも生きておれば
いい父親であったろうに


チェヨンは空に向かって
呟いた

そして視線を戻して
ぎょっとした
ウンスがタンと一緒に
こちらへ歩いて来る


何を考えておるのだ?
まったく


チェヨンは飛び出す
その後ろ姿を見て
チュンソクは
変わらないなと微笑んだ


イムジャ 如何した?
用事ならば俺が行く
この時期は新入隊員が多く
剣が飛んだり槍が降ったり
危ないと言うておるであろう?


ああ そうだったわね
だからよ
怪我人も多いし
それで この時期
ウダルチに検診に来ている
じゃない?


そう言えば 朝方
そんなことを言っていたと
チェヨンは思い出した
ウンスの肌に触れることに
忙しくて 
うわの空だったと・・・


なにゆえ タンも?
此処は子供の遊び場ではないぞ


そうなんだけど
離れないのよ
それでヘミとヒョリと
一緒に来たのよ


そう言いながらウンスは
懐かしい兵舎に入り
さっさと 一階を陣取ると
同行したオ・アムや薬員に
てきぱきと指示を出し
検診の段取りを進める


まさか?イムジャが
自ら 診るのか?


そうねぇ それもいいかも


ならぬ
ならんぞ
このような男臭い場所


チェヨンとウンスの
じゃれ合いのような会話など
お構いなしに 
タンは一階を物珍しそうに
よちよち歩き回り
テマンがあたふたと後ろを
ついて歩いていた

階段を見つけると
珍しそうに
一歩一歩上がり出す


あらあら 上手に
上れるのね


初めて上る階段に
ウンスは目を細めた


テマンしっかり見てろよ
タンは意外にすばしっこいぞ


イエッ 上護軍


そうそう 
今日はコハクが来てくれて
楽しそうに遊んでいたわ
ねえ テマン?


え?あ はい・・・


なんだ テマン
いないと思えば典医寺か?
コハクを
此処にも連れてくれば
よいものを


ううん 剣より聴診器に
興味があるみたいよ


そうなのか?
と 少し残念そうに
チェヨンは聞いた


二階に上ったタンは
ご満悦で うれしそうに
上から チェヨンを呼ぶ


よん


タン 駄目でしょう?
呼び捨てにしないのよ
父上の体面が・・・


構わぬ
まだしゃべれぬ幼子の
申すことに罪はない
如何した?タン


たん


いつもは厳しい顔つきで
じろりと睨まれると
震えが来るような
チェヨンの相好を崩した顔に
若い隊員達は
狐につままれたような顔で
そのやり取りを見つめ
ウンスは隊員達を見て
微笑んだ

ところが その時
階段の木の柵の隙間から
顔を覗かせていたタンが
真っ逆さまに落ちていく姿が
コマ送りのように
ウンスの目に飛び込んで来た


兵舎には悲鳴が響き
辺りは 騒然となった


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『今日よりも明日もっと』
三歩離れては守れない
それは幼子も同じこと




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