婚礼衣装に身を包んだヨルムを
インギュは馬に乗せると
後ろから
包むように抱きかかえた


飛び出して来たので
帰りのことを
考えていなかった


しまったと言うように
呟くインギュに
ヨルムは微笑んだ


窮屈でしょう?
しばし辛抱下され


私が乗ってきた輿が
ありますが・・・


ああ そうか
そうであった
だが 輿では時間がかかる
やはりこのまま
馬で行きましょう
皆を待たせております


はい


手綱をしっかり握って


はい


馬で駆け抜けるイ家までの
道のり
新郎新婦の出で立ちに
都の民は度肝を抜かれた


皆が見ています
もう逃げ出すことは
できませんよ
そなたは我 妻だ


ヨルムは頬を染めて頷いた


二人が屋敷に戻った時には
宴もたけなわ
あちらこちらで酒が進み
客人達も
陽気に話しをしていた


遅くなりました
無事に
婚儀を挙げて参りました


インギュの声に
皆が
一斉に二人に注目する
インギュの隣には
楚々とした花嫁が佇んでいた


無事に連れ戻したようじゃな
あやつ・・・


王様がチェヨンに囁いた


はっ そのようで


うふふ ヨルムさん
幸せそうね よかった


王様とチェヨンとウンスは
顔を見合わせて
この先の新しい夫婦の幸せに
微笑んだ


それから新郎新婦は
チェヨンとウンスの立ち会いで
皆に見守られるように
屋敷の庭園で
婚礼の儀を再び執り行い
盃をかわした


これで晴れて夫婦だな


はい 夫の先輩として
また仲人として今後とも
ご指南よろしく
お願い致します


なんの指南だ?
教えることなど何もないぞ


聞き返すチェヨンに
インギュはつらっと言った


仲睦まじく暮らす秘訣とか
子を授かる秘訣とか
上護軍の策を


ば 馬鹿者
そのようなこと自分で考えろ


しどろもどろになった
チェヨンをからかうように
インギュはチェヨンを見た


医仙様
ありがとうございました
決心がつきました
これから夫婦として
二人して力を合わせ
精進して参ります


ヨルムさん よかったわね
幸せそうな顔をしてるわ
もううちの人のこと
恨んでない?


恨むなど
とんでもない


うふふ よかった


ポムは兄の優しい笑顔を見て
隣にいるチュンソクに


あのような笑顔
初めて見るでする〜


と 驚いたように言った


そしてポムがもう一つ
驚いたこと
それはヨンファと夫の間にいた
しっかりした顔つきの
小さな男の子の存在
夫キム・ドクチェの末の弟を
跡継ぎに決めたことは
聞いていたし
都の屋敷に引き取ったことも
聞いていたが・・・


母上 この料理
おいしゅうございます


そう?
たんとお食べなさい
あらあら
口元に米粒が・・・


まるで本当の親子のように
仲睦まじく
ヨンファのことを母上と
呼んでいた


ヨンファさん
いやいや 姉上様
びっくりしたでする〜
母上様って!!


ポムが声をかけると
ヨンファが微笑んだ


都では私が母親代わりよ
って言ったら
この子がそう呼びたいって
言ってくれたのよ


キム・ドクチェが
優しい微笑みで頷いた


そうでするか〜
賢そうなお子さんでする
今度我が屋敷に遊びに
来てくださいれ


はい おば様
お招きありがとうございます


お お お
おばさま!!!でするか?
ポムは初めて言われたでする


素っ頓狂な声をあげると
男の子は困ったような顔をして
ヨンファを見た
そこへ
そばに来たウンスが助け舟


そりゃあ おば様よね〜
もう子供だっているんだもの


医仙様〜ポムは
なんだか悲しいでする〜
おば様だなんてぇ


ポムの半泣きに
チュンソクが頭を掻いた


うふふ
みんな年を取るんだもの
仕方ないわ
おば様でも
おばあ様でもいいじゃない
それに
ポムはかわいいおば様よ


かわいい?
ふふふ そうでするか?


何をくだらぬことを


インギュお兄様!
くだらぬとは失礼な
お兄様こそ
花嫁様を連れ戻せて
よかったでするね


ふっ 当たり前だ


平然とした顔で言う
インギュに
チェヨンが先ほどの仕返しと
ばかりに言った


血相変えて飛び出して
行きおったくせに
お前のあんな顔を見られるとは
仲人を引き受けた甲斐が
あったと言うもの


ふふっと笑うと
王様も口の端を持ち上げた


あ あれはいささか
手違いで


負け惜しみか?


チェヨンがからかう
そうして
尽きることのない話は
笑い声とともに延々と続き
やがて 
婚礼の宴は幕を閉じた


━─━─━─━─━─


辺りが暗くなり
星が瞬いている


今宵は新月か・・・
新しい
夫婦の門出にふさわしいな


チェヨンは王宮への帰路
王様の警護に
つきながら空を見上げた

ウンスは
その隊列のすぐ後ろを
輿で追いかけ
チェヨンは時折ウンスの輿も
目の端で追っていた

ウンスのことは武閣氏に任せ
王様を康安殿に送り届けると
チェヨンは坤成殿の入り口で
ウンスを待った
少し遅れてウンスが
やって来た


遅くなっちゃったわ
タン 泣いてないかしら?


心配そうなウンスに
チェヨンは微笑んだ


どうであろうな?
母上恋し だからな


タンはミレ公主とともに
芙蓉の間にいた
王妃様もチェ尚宮も一緒に
遊んでいるようで
中から笑い声が聞こえ
ウンスは安堵した


上護軍チェヨン
妻ウンス 
息子の迎えに参りました


チェヨンの声に
積み木を積んでいた
タンの動きが止まった

ゆっくりと振り返ると
両親の姿
タンは立ち上がると
ててててて
急いで駆け出し
ウンスの足元にしがみついた


よん
まままま〜
あ〜〜〜〜ん 
あ〜〜〜〜ん


急に泣き出すタンに
チェ尚宮があたふたと言う


機嫌よう
遊んでおったのじゃ
夕餉もよう食べたし
ぐずりもせずに


ええ ええ
ほんとうに
ありがとうございました
王妃様 叔母様 公主様


ウンスは頭を下げて
それからタンを抱き上げた


あ〜〜〜〜ん
あ〜〜〜〜ん


ウンスの首に
しがみついたまま
泣き続けた
さみしくても
我慢していたタンは
なかなか泣き止まない
タンが泣き出すと
ミレ公主も泣き出して
芙蓉の間は赤ん坊の泣き声で
いっぱいになった


うふふ
お待たせ タン
さあ お家に帰るわよ
タンが泣き止まないと
公主様も泣き止まないわ


ひっくひっくとしながら
タンはミレを見た
それから足をバタバタして
床に
降ろしてもらったタンは
よちよちとミレ公主のもとへ
近づくと
公主様のふっくらした頬に
ちゅっとポッポ


ポ〜〜


ミレ公主は
きょとんと泣き止んだ


おやまあ


チェ尚宮が驚いたように
言って
王妃様は笑い出した


両親に似て
優しい子じゃのう
公主を気遣って
くれたのであろう?


タンは再びウンすのもとへ
戻ると 腕の中に収まった


うふふ
タンったら


しょうがない奴だな
公主様にポッポとは


チェヨンはタンの頬をつついた


よん


え?


よん ポ〜〜


えええ?
タンは「よん」って
言えるの?
うふふ あはは
そうか そうか
「よん」ねぇ


ウンスは笑った


王宮の邸に戻った三人は
出迎えたヘジャの
用意した湯殿に入った


よん


だから 父上よ


よん


ねえ どうしよう
ヨン
タンが父上って言わないわ


イムジャがヨン ヨンと
言うからであろう?


チェヨンはくくっと笑った


だって ヨンはヨンだもの


よん


もう タンったら!


たん


え?


たん よん たん よん


うふふ あはは
もう タンにはかなわないわ


楽しそうなウンスと
にこにこ笑う息子のタン

チェヨンは二つの宝ものを
見つめながら
この先もずっと
この笑顔を守れますようにと
新月に誓った


笑い声は湯殿の外にも響き
ヘジャがそれを聞いて
空に向かって
独り言を呟いた


ヨボや
もう寝たかい?
明日には帰るから
待っていておくれね
ああ 本当に
此処にまで
三人の楽しそうな声が
聞こえてくるよ
奥様のいるところは
何処だって光に溢れているねぇ
今宵もチェ家は安泰だ


邸の庭に咲く
トラジの花についた夜露が
暗闇の中 
星に照らされ光って見えた


*******


『今日よりも明日もっと』
「変わらぬ愛」
トラジの花を君に捧ぐ



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


「トラジの花の如く」を
お届けいたしました

おつき合いいただき
ありがとうございました

このあと
「トラジの花の如くに寄せて」
を アップいたします

おまけのお話を
お届けいたします

おまけのおまけ?うふふ
それは明日考えます 笑



お読みいただいた
感謝を込めて haru




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